第2話

 不死鳥の羽が、血が、人間に不老不死をもたらすだなんて伝説がまことしやかに囁かれていた頃。不死鳥は多くの仲間達をヒトや多くの生き物たちの手で殺され——その大多数を失った。

 光り輝き、焔を纏った彼らは他の種族とは決して交わる事がない。何よりその姿と他の種族と比べ長寿であることには変わりがなく、空を飛行するだけで畏怖と尊敬の眼差しを向けられ、ある時は崇められていた。

 けれど、神殺しを英雄の象徴であると勘違いした者達は、その異端の生物とも言える彼らの血や羽を自らの権力の象徴として欲したのだ。


 本来、彼らは不死の存在ではなく。太古の昔には自らが命を落とす最期の瞬間に燃え盛る焔の熱と引きかえにその卵を孵していたのだという。

 遺った親鳥の灰の中から雛が生まれ、その知恵を引き継いでいるという神秘的な習性が、いつしか人々の間では生まれ変わりの概念として扱われるようになったのだ。




 そんな灰の中から生まれた、一羽の不死鳥がいた。

 けれど不死鳥は親鳥がその死に場所を孤島の火山の上と定めたことで、誰にも知られず。火山の噴火と山火事の中を、見えはじめたばかりの目で親を探してぴいぴいと鳴くばかりだった。


「こっちにおいで。こんなところにいたら灼け死んじゃうよ」


 不敬だぞニンゲンめ、触れるんじゃない。と不死鳥は声に出したものの、まだ飛ぶ力すらない雛の姿ではぴぃぴぃとか弱い声に聞こえるだけ。


「もう大丈夫だからね。一緒に逃げよう」


 見上げるとそこにいたのはまだ齢10歳前後のニンゲンの少年だった。

 ルークと名乗った彼は不死鳥のこと連れて帰り、アッシュと名付けて可愛がった。

 手のひらの上で水や餌を与えられ、危ないからと鳥籠に入れられる様は不死鳥にとってはなんだか不服ではあったが、煙を吸いすぎたのかうまく翼が育たない。不死鳥はいっときの間借りのつもりで少年の部屋に留まることにしていた。


 やがて翼が育ち「アッシュ、飛ぶ練習をしよう」と外に連れ出される頃には。不死鳥は自身の翼が放つ焔を、その身の内に押し留めるよう努めるようになっていたという。

 自分の方が長寿なのだ、少々この少年のそばでのんびり暮らすのもいいのかもしれないとこの時の不死鳥はぼんやりと思っていた。


 けれどその姿は人々の目に触れてしまった。

 焔を纏っておらずとも、その姿は眩いばかりの紅蓮の羽で彩られており、見る者は誰しもが目を見張ったという。

 それはいつしか権力者の耳に入り、不死鳥を我が物にしようとするニンゲンの手によって少年の家族は散り散りになってしまった。


 少年の家は焼かれ——いや、逃げろという叫びを背に飛び立った時、自身の翼が燃やしてしまったのかもしれない。


 不死鳥は高く高く飛んだ。

 その身が初めて怒りで燃えると、それは太陽の纏う灼熱かの如く輝き出した。


 生き物は愚かだ、自分はそんな醜い者どもの命の糧になど、一片たりともなってやるものか。そう不死鳥は燃え盛る身体とは逆に冷酷そのものの眼差しを持つようになっていったという。

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