第6話 この人形、感情的すぎません!?

「えっと、そんな理由で怪盗になってもいいの?」


 怪盗とはいえ、政府が公認している以上、仕事みたいなものだ。


 そんな仕事を会話の練習の場にするなんて、怪盗を冒涜しているみたいなものではないだろうか。


「ふふふ、あなたは怪盗にとって、一番大切な事が何かを知っていますか?」


「一番大切な事? どれだけ上手に宝を盗めるか……とか?」


「いいえ、違います。まあ、普通の怪盗ならそうかもしれませんねぇ。でも、この町は『怪盗指定都市』なのですよ。うまく盗む怪盗なんて、そこらにゴロゴロといます」


 一理ある。

 でも、それなら怪盗にとって一番大切な事ってなんだ?


「答えはね、『個性』ですよ! この怪盗指定都市で怪盗としてやっていくなら、個性が重要なのです。他の怪盗には無いものを持っていなければならないのです!」


「それなら、余計に僕には向いていないよ。僕はとてつもなく平凡な人間だ」


「なにを言うのですか。あなたは『コミュ障』という実に強力な個性があるではないですか!」


「コ、コミュ障が個性!?!?」


 それ、個性って言えるのか?

 どう考えても、マイナス要素じゃん。


「あなたはコミュ障の怪盗なんて聞いたことがありますか? ないでしょう! そう、怪盗とは皆がやたら爽やかなタイプだったり、クールだったりします。だから、あえて逆をつくのです! コミュ障怪盗。これは間違いなくうけますよ!」


 興奮して持論を語るフォト。

 だが、大丈夫なのだろうか?


 なんというか、欠点を全て個性とか言う人って、ダメ人間のイメージがある.


「うんうん。いいじゃないですか。コミュ障でちょっと陰キャっぽい。あなたはむしろ私の理想の怪盗かもしれません」


「コミュ障で陰キャ怪盗のどこが理想なんだよ」


「分かっていませんね~。あなたはよくいるその辺の怪盗とは全然違うのです。だいたい最近の怪盗はチャラチャラしすぎです! それにイケメンすぎます。イケメンは嫌いです! すぐに周りの可愛い子に言い寄られて、そっちに流されて、私を捨てようとするんです! ああもう、マジムカつくわ!」


 なんかいきなり拳を握り締めて語りだした!?

 過去に何か嫌な事でもあったのか?


 なんだろう。

 この子はロボットなのに、人間以上に感情的に好みが激しい気がする。


 この毒舌っぷりはコミュ障の僕からすると、もはや羨ましいと言えるレベルだ。


「その点あなたは最高です。変にイケメンじゃないし、真面目そうだし、何でも言うこと聞いてくれそうだし、おとなしそうだし怒らなさそうだし何でも言うこと聞いてくれそうだし」


「それって思い通りになる人間がほしいだけじゃないの? あと、何でも言うこと聞いてくれそうって二回言っているよ。それが目的?」


「おっと、失礼。今のは忘れてください」


「あと、イケメンじゃなくて悪かったね」


「可愛い顔だし、私好みってことですよ。ふふ」


 この子、やっぱり危ないんじゃないか?

 本当に呪いの人形な気がしてきた。


「それにあなただって、ずっとコミュ障なんて嫌でしょう? 克服したいと思っているはずです。ならば、怪盗は絶好の練習の場ですよ」


「それは……」


 そう、確かにこれはチャンスなのだ。

 人生の分岐点とも言えるイベントだ。


 コミュ障の最大の難点は『練習ができない』事。

 克服しようとしても、友達がいない僕には練習相手がいなかった。


 その点、フォトが相手なら僕はいくらでも練習ができる。


 人形なので相手の評価など気にならないし、フォト自身も僕のコミュ障についてはそこまで馬鹿にするような素振りもない。


 さらには怪盗という大舞台ですら体験することも可能だ。


 失敗しても、正体が僕だと分からないので、リスクは少ない。


 逆に成功した場合は、誰もが憧れる怪盗になることができる為、メリットの方は膨大だ。


「どうしても人と話すのが苦手だったら、まずは私とたくさんお話しましょう。私が相手なら緊張しないんでしょう? 存分に利用してくださればいいです」


「そう、だね」


「ええ、たくさん私と会話して、怪盗活動をして、ゆっくりと自信をつけていけばいいんです。『練習ができる』。これだけでも、あなたには大きなメリットがあると思いますよ」


 なんて交渉上手な人形だ。本当にロボットか?

 実に巧みに僕の心理を突いてくる。


 色々と不安な部分もあるが、それ以上にメリットの方が大きい……か。


「分かったよ。怪盗、やってみる」


 せっかくの機会なんだ。

 このチャンスを生かしてみよう。


 ゲームだけが取り柄の存在感の無い僕が、怪盗として輝かしい人生を踏み出せるかもしれないんだ。


 やってみる価値はある。


 僕の目的は会話の練習だ。

 そのついでに怪盗活動とやらもやってやろう。


 これでコミュ障が克服できたらありがたい話じゃないか。

 どうせ失うものも無いんだ。


 それに、もし本当にゲームの腕が怪盗の能力に繋がるのなら、僕は誰にも負けない怪盗になれる。

 そこは絶対の自信を持って言える。


「でも、本当にいいのかな~。怪盗がコミュ障なんて、大問題じゃない?」


「いいんです。気にしたら負けです!」


 本日、コミュ障の僕は怪盗としてやっていく決意をした。

 ここに『コミュ障の怪盗』が誕生したのだ。


 果たして僕は立派な怪盗になることができるのか?


 そしてコミュ障を克服して、真人間となることができるのだろうか?

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