第11話 奏多、出陣する

「奏多さん、やりましたよー!」

「め、芽衣!?」


 すぐさま俺の胸へと飛び込んでくる芽衣。

 相当嬉しかったんだろう。


「奏多さんのおかげで倒せました!」

「あぁ、見てたよ。すごいパワーだったな」


 以前俺が教えた踏み込みを実践しつつ、自分の必殺技を編み出していた。


「えへへ、ありがとうございます」


 頬を赤らめながら嬉しそうに呟く芽衣。


「だけど、芽衣、周りの目が……ちょっと」

「えぇ?」


 いつの間にか委員会のカメラが俺たちを映していた。


「ご、ごめんなさい……つい舞い上がっちゃって」

「お、おう……大丈夫だぞ」


 それを見て、バッと俺から離れる。

 今のシーンが全世界に流れてるんだよな……。


「あ、あの……」


 すると、暗女が物寂しそうにこちらを見つめる。


「暗女も凄かったぞ! これならもう安心して魔法を使えるな」

「あ、ありがとうございます……! 奏多さんのおかげで、私、自身を持って魔法を使えるようになりました!」


 俺は暗女の頭をポンポンと撫でる。

 謙遜しつつも嬉しそうな表情を浮かべた。


「あ、あの……その、私も……ハグ……してください!」

「えっ!?」


 突然のお願いに驚く。


"抱け!"

"芽衣ちゃんを抱いておいて暗女ちゃんにはしないのはおかしい!"

"はやくしろー!"

"男見せろー!"

"いけいけー!"


 コメントが煽る。

 配信を盛り上げるためか、カメラマンさんからも「お願いします」と言われてしまう。

 

 ここは男を見せるしかないか……。


「そ、それじゃあ……」


 俺はそっと優しく暗女を抱きしめる。


「ふふ、いい匂いがします……」


 暗女がボソッと呟く。

 髪の匂いがダイレクトに伝わってきてドクドクと心臓の鼓動が早くなる。

 変なことを考えないようにしようとしても、暗女の胸の膨らみが邪魔をする。


「も、もういいか?」

「は、はいっ! ありがとうございます!」


 さすがにこれ以上は限界なので、すぐさま離れる。

 満足そうに笑顔を浮かべる暗女。

 まぁ、喜んでくれてるならよかったけど……さすがに恥ずかしい。

 師匠が見てたらなんて言うか。


「うふふ、私もハグしてもらおうかしら……?」


 真奈美さんとエレノアがが意地悪そうに口を開く。


「真奈美さん、勘弁してください……」

「ぜひ私もお願いしたいです」

「え、エレノア!?」


 二人のハグを見て羨ましいと思ったのかエレノアが唐突に口を開いた。


「ご、ごほん。もちろん冗談です……」


 良かった。エレノアも冗談なんて言うんだな……。


『さぁ! 第二種目のクリア者を発表だー!!!』


 田中さんの実況でモニターに映された配信に目を移す。

 第二種目を突破したのは、「芽衣&暗女チーム」「ドレイクチーム」「シャルル&霧切チーム」「ニンニンチーム」となった。


『シャルル&霧切チームはなんと。十秒でファフニールを倒しています。凄まじい記録です』


"すごっ!"

"二人がかりとはいえ、SSランクのモンスターを十秒はさすがにやばいな"

"これは優勝候補ですわ"

"シャルルちゃんの戦闘スタイルめっちゃ好き"

"ニンニンってやつも凄いよな。新人探検家でここまでやれてるのって奏多以来じゃない?"

"ニンニンはちょっと気になってる"

"俺はやっぱり芽衣ちゃん推しだわ!可愛いし"

"暗女ちゃんもいいよ。魔法を唱えてる時に揺れるあの胸"

"変態いて草"


 コメントが絶え間なく流れる。


『二人の活躍をみて、どうですか? 伊原さん』

『うぅ……ひっぐ』

『い、いばらさん!? どうされたんですか!?』


 本部長は涙に顔を埋めていた。

 以前のように威厳のある顔はまったくない。


『芽衣いいいいいいいいいいいいいいいいい。良くやったぞおおおおおおお!!』

『いっ、伊原さん、大丈夫ですか!?』


 田中さんの声は耳に入っていないらしい。

 芽衣が映っているモニターに釘付けだ。


『もうお前は立派な探検家だあああああああああああああああああああああ』

『す、すみません。一旦CMに入りますー』


 田中さんがカメラに向かって微笑したあと、強制的にコマーシャルに入った。


「まったくもう、お父さんの馬鹿……!」


 少し嬉しそうに呟く芽衣

 ずっと探検家になるのを反対されていた芽衣にとって、今の本部長の言葉は嬉しいのだろう。


"もう伊原さん面白すぎwww"

"田中さん困ってて笑う"

"超絶親バカすぎて草"

"もう伝統芸能になりつつある"

"これを観るためにこの配信観てるわwww"

"芽衣ちゃんと暗女ちゃん、応援したくなったわ"


 伊原本部長の涙にコメントも大盛り上がり。

 ちなみに俺もこれを楽しみにしてたりする。


『第三種目の準備が整いましたので、参加者はこちらにお集まりください』


 委員会のアナウンスが響く。

 今までの傾向をみるに第三種目も一筋縄ではいかなそうだ。

 

「さてと、最後は俺か……」


 真奈美さん、芽衣、暗女。

 みんな素晴らしい活躍をしてくれた。次は俺が頑張る番だな。


「奏多くん、頑張ってね!」

「奏多様、いってらっしゃいませ」

「頑張ってください!」

「お、おうえんしてます!」


 みんなが俺の背中を押す。

 こんなに期待してくれてるんだ。カッコ悪いところは見せられないな。

 興奮を抑えながら俺は第三種目へと向かうのだった。

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