第9話 奏多、第二種目を観戦する②
◆ ◆ ◆
「なるほど、そういうことね」
真奈美さんは芽衣と暗女が映っている映像を見てにやりと笑みを浮かべた。
どうやらスキルでミノタウロスの弱点に気づいたのだろう。
二人はミノタウロスに苦戦しているようだが芽衣のあの目、何かに気づいたようだ。
『な、ななんと……! SSランクのモンスターファフニールを十秒で倒してしまったっ!!! シャルル&霧切チーム! 強すぎる!』
"マジかよ……!"
"強すぎだろこれ……"
"ファフニールってSSランクのモンスターの中でも最強核だよな!"
"十秒は草"
"もう優勝でいいだろこれ"
コメントも大盛り上がり。
同接も五千万人を超えている。ものすごい人気だ。
『二人の素晴らしい活躍でしたね。伊原さん』
『…………』
『伊原さん?』
『芽衣、頑張れ……!』
本部長は別画面に映っている芽衣と暗女にくぎ付けになっていた。
恐らく娘のことが心配なんだろう。
「シャルルちゃんたちは順調に種目を突破したみたいね」
「あのお二人は口は悪いですが実力はありますからね……」
エレノアが微笑する。
「あの子たちにどんなことを教えたの?」
真奈美さんが訊いてくる。
「ちょっとアドバイスをしただけです」
「アドバイス?」
「えぇ。芽衣には踏み込みを直させて、暗女は魔法出量の制御を教えました」
「それだけ?」
「えぇ、でも大丈夫ですよ。あの二人なら」
俺はモニターを見つめながら笑みを浮かべる。
「ふ~ん。奏多くんが言うなら大丈夫ね」
真奈美さんが微笑する。
映像に映っている二人の目はまだ諦めてない。
俺の予想が正しいならミノタウロスを倒す方法は――
◆ ◆ ◆
「鎧だ!」
「鎧?」
「たぶん、あの鎧は攻撃を軽減する効果があるんだと思う」
「そ、それならどうしたら……」
暗女が不安そうにつぶやく。
「でも、無効化してるわけじゃない。私の打撃を連続で繰り出して破壊する」
「そ、そんなことできるの……! さっきだってまったく効いてる様子はなかったのに」
「やってみる!」
ふぅ~っと、深呼吸をする。
奏多さんから踏み込みを教わってから何度も試行錯誤した。何度も何度も――
自分の最高到達点。必殺技をいま見せるとき――
「フルスロットルで行くよ!!」
「うん!」
私は、思い切りミノタウロスに向かって駆けだす。
『防御魔法――』
『攻撃上昇――』
『回復魔法――』
『速度上昇――』
それと同時に暗女は補助魔法を唱えていた。
全身から力が漲ってくるのが分かる。
「はああああああああああああああああ」
ミノタウロスの周りを超スピードで駆ける。
あの斧を喰らったらいくら補助魔法が効いていてもひとたまりもない。
――だから翻弄する。
「いまだ!」
私は、すぐさまミノタウロスの脚目がけて蹴りをいれる。
体制を崩したミノタウロスはその場で膝をつく。
「ここだああああああああああああああああああ」
先ほどと同様にミノタウロスの腹目がけて打撃を繰り出す。
さっきと違うのは攻撃上昇バフの効果が上乗せされていること。
そして――
奏多さんから教えてくれた踏み込みを私なりに落とし込み。
一日一万回の打撃練習によって生み出されたこの奥義――
『奥義――疾風拳!』
体勢を崩したミノタウロスに直撃。それと同時に全身を纏っていた鎧が粉々に粉砕される。
攻撃を軽減すると言っても限度がある。私の打撃がそれを上回ったのだ。
「まだまだあああああああああああああああああ」
『奥義――無双拳!』
そのままミノタウロスの鋼のような身体に連続で打撃を浴びせる。
『ブゴオオオオオオオオオ』
鎧を失ったミノタウロスは息を荒げながら膝を付いた。
これでもまだ倒れないなんて……。
でもまだだ!
「暗女ちゃん!!」
私はすぐさま暗女ちゃんに合図を送る。
私が鎧を打ち破ることを信じていたのか、すでに詠唱に入っていた。
ミノタウロスとの距離を取る。
『ファイア――出力最大ッ!!』
最大出力の炎魔法がミノタウロス目がけて放たれる。
攻撃が当たると同時に熱風が頬を伝う。
『ブゴオオオオオオオオオ』
ミノタウロスの断末魔が響く。
しかしミノタウロスは暗女ちゃんの最大出力を受けきった。
『ブゴオオオオオオオオオ』
「からの! もういっちょ!!!」
『サンダーボルト――出力最大ッ!!』
立て続けに詠唱を行う暗女。
杖がぶるぶると震えながら何もない空間から雷魔法が放たれ、ミノタウロスに浴びせられる。
焦げた音と共にホログラムのミノタウロスが消滅。
しばらくの間、辺りに静寂が包まれる。
「「やったあああああああああああああああああああああああああ」」
二人で熱い抱擁を交わす。
私たち倒したんだ。こんなに嬉しい気持ちはいつぶりだろう。
これで私も立派な探検家に一歩近づけたかな……。
一つの大きな壁を越えたようなそんな気持ちになった。
『芽衣&暗女ペア第二種目合格――』
委員会のアナウンスがダンジョン内に響く。
「やったよ! 私たち、SSランクのモンスターを倒したんだ!」
「えへ、夢みたい……」
暗女がうれし涙を浮かべる。
「芽衣ちゃんの打撃凄かった! 一瞬だけど大地がゴゴゴって揺れたよ!」
「暗女ちゃんこそ! あの魔法凄かったよ! ってかそんなことできるなら教えてよ~!」
お互いを褒めあう。一人じゃ絶対ミノタウロスを倒せなかっただろう。
奏多さん見てくれてたかな。
「め、芽衣ちゃん! 腕が……」
ミノタウロスに攻撃した影響だろうか、私の腕は炎症を起こしていた。
必死だったから全然気づかなかった。
「あわわわわ!! 早く治療しないと……」
暗女が慌てて回復魔法を唱える。
「大丈夫! このままで」
「で、でも……! 酷い怪我だよ……」
「このままがいいの」
私は暗女に向かって笑みを零した。
この痛みを一生忘れないだろう。
痛みと言う名の『勝利の証』を――
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