第7話 奏多、放送事故を見る

 第二種目 SSモンスター討伐。

 二人で挑む競技となっている。

 第一種目とは違い探検家同士の争いは禁止だがスキルの使用は可能だ。

 それぞれ対戦するモンスターは委員会の独断と偏見であらかじめ決められる。


「私、行きます!」

「私も……!」


 芽衣と暗女が緊張した面持ちで手を挙げた。


「二人共、大丈夫か?」

「なんとか……! が、がんふぁります!」


 暗女、盛大に甘噛みしてるけど大丈夫だろうか。


「暗女ちゃん! 深呼吸……! わたちたちならだいじょうび!」

「二人とも……落ち着け……」


 本当に大丈夫だろうか。


『それでは、第二種目を開始しますので、こちらに集合してください』


 委員会のアナウンスがロビーに響く。


「大丈夫か? なんだったらどっちか俺が変わってもいいんだぞ?」

「いやです! 私、やると決めたらやるんです!」

「私も……! 奏多さんに、成長した姿見てほしい……です!」


 自信満々に意気込む芽衣と暗女。

 なんていうか初めて会った時より頼もしくなったなぁと思う。

 ここは二人に任せるか。


「分かった。でも、決して無理はするなよ。イベントのためにタイラントワームを出してくるぐらいだからな。何を考えてるか分からない」

「二人共危ないと思ったらすぐに逃げるのよ」

「お二人共お気をつけていってらっしゃいませ」






「「はい!」」





 真剣な面持ちで第二種目のテレポートまで向かう二人。

 本当に大丈夫だろうか……やっぱり心配だ。


「初めて会ったけど、とても可愛い子たちじゃない。彼女たちとはどういう関係なの?」

「私もお二人とのご関係に興味があります。ぜひ聞かせてください」


 二人がいなくなったのを見計らって、真奈美さんとエレノアが口を開いた。


「なんて言ったらいいんでしょう……探検家仲間であり配信仲間でもあるというか……」

「弟子ではないの?」

「俺が弟子なんて作ったら、雅さんに笑われちゃいますよ」

「うふふ、それもそうね」


 真奈美さんは微笑した。


「それではお二人は奏多様の恋人? ということでしょうか?」

「まぁ! そうなの?」


 真奈美さんとエレノアがなるほどといった顔をした。


「ちょっと、やめてくださいよ〜。二人とはそういう関係じゃないですから……」

「本当に……?」

「当たり前じゃないですか」

「あら勿体ない。二人共とっても可愛いのに……」

「気付いていないだけで、もしかしたらお二人は奏多様に好意をいだいているかもしれませんよ」

「まさか……」


 ふと、芽衣とのキスが脳裏をよぎる。まぁあれはお礼の意味を込めての行為だし。

 暗女とは家に招待してくれたぐらいだ、特別何もない。


「ありえないと思いますよ」

「奏多君って鈍感よね」

「私もそう思います」


 二人が含みのある笑みを浮かべた。

 なんだ? 二人揃って……。


「だから違いますって!」

「はいはい、分かりました。そういうことにしておくわ」


 意地悪そうに笑う真奈美さん。

 本当に分かってくれたかな……。


『さぁ、第二種目に参加する選手が出そろいました!』


 田中さんの熱い実況にコメントも盛り上がりをみせる。

 そして突如、カメラが芽衣を映し出した。


『ここで第二種目に参加する注目選手を紹介したいと思います!』

『まず一人目は、伊原本部長の娘さんである伊原芽衣さんです!!!!』

『わ、私……!?』


 近くにいた委員会のスタッフが芽衣にマイクを向ける。

 突然の出来事で芽衣はおどおどしている。


『なんとこの方はAランクの探検家でもありながら、チャンネル登録者五百万人と超大手配信者の顔を持つのです!』


"可愛い!!!!"

"奏多の嫁!!!!"

"芽衣ちゃんがんばれー!"

"可愛いからチャンネル登録しました"

"可愛いのにスキルはめっちゃ武闘派なところがいい"


『芽衣さんはその圧倒的な可愛さで男性視聴者を虜にしています! 右ストレートから繰り出される打撃はダイヤモンドをも砕く!!!』


「大袈裟だなぁ……」


 俺がボソッと呟く。

 恐らく伊原本部長からの圧力で大事な娘を紹介するように言われたんだろう。実況の田中さん、大変だなぁ……。


『貧乳が唯一の欠点ではありますが、ひらひらとした可愛らしいミニスカートを身に着けた彼女は一騎当千! 今後の活躍に注目です!』


『えぇ……!! ひ、ひ、貧乳!?』


 モニターに映し出された芽衣が素っ頓狂な声をあげた。


「め、芽衣さんなら大丈夫です! 充分魅力的だし。その……胸だって平均的だと思います……! 私が保証します!」

「うぅ……暗女ちゃん……その胸で言われても説得力ないよ~~~~」


 暗女がフォローするが、芽衣には傷口に塩胡椒を塗られただけだったようだ。

 芽衣が恥ずかしそうに俯く……。


『田中さん、どうして余計なことを……?』


 解説の伊原本部長が凶器をはらんだ笑顔を田中さんに向けていた。


『えっと、スタッフから用意されていたカンペに書かれていたのを読んだだけなんですが……』

『いいかよく聞け、俺の娘は貧乳じゃない! まだ成長過程なんだ! ほらっ! よく見ろ!』


 スタッフが本部長にやめるよう促すがまったく聞く様子がない。

 ほんとよく委員会のトップに君臨出来てるな……。


「カメラマンどこ映してる! 胸だ! 胸を映せ!」


 伊原本部長の勢いは止まらない。


『穴があったら入りたい……』


 芽衣がマイク越しにポツリと呟いた。


"放送事故で草"

"もう本部長を配信に呼ぶのやめたほうがいいな"

"これはこれで面白いからあり"

"芽衣ちゃんにカメラ向けるの天才で笑う"

"顔真っ赤だ……!"

"隣の子も可愛いな! 巨乳!"

"貧乳と巨乳……対象的な二人だ"


 コメントの流れが速くなる。

 種目開始前から盛り上がりが凄い。


『そ、それでは気を取り直して第二種目スタートです!』


 先ほどの茶番がなかったかのように田中さんが切り替える。

 そして、一斉に探検家がSSランクモンスターが待つ場所へテレポートされるのであった。

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