第9話 奏多、新しい装備をもらう

 ――優雅に紅茶を嗜みながら待つこと30分。


「お待たせいたしました」


 エレノアが奥の倉庫から出てきた。


「おっ、意外と早かったな。もうできたのか?」


 さすが、相変わらず早い仕事だ。


「はい、お客様をお待たせするわけにはまいりませんので、こちらをどうぞお受け取りください」


 すると、エレノアは三つの装備を俺たちの前に広げた。


「まずは芽衣様から、こちらのグローブをお取りください」


 伊原本部長のお古だったグローブは新品同様の仕上がりになっていた。

 若干デザインも可愛らしくなっている。


「とっても可愛いです! これって、エレノアさんがデザインしてくださったんですか?」

「はい、お気に召したようでよかったです」


 天使のような笑みを浮かべるエレノア。

 芽衣も嬉しそうだ。


「もちろん変わったのはデザインだけではありませんよ」

「え? それってどういう……」


 芽衣は小首を傾げる。


「それはダンジョンに入った時に分かります」


 含みのある言葉を告げるエレノア。

 これは何かあるな。


「次は、暗女様です。こちらをお受け取りください」

「あ、ありがとう……ございます!」


 ボロボロで壊れてしまいそうだった杖は花柄を基調としたデザインに変わっていた。

 女の子らしいデザインで暗女に合っている。


「か、軽いです!」


 杖を持った暗女が驚きの声を上げる。


「前回のはかなり重量がありましたので、今回は軽量化を図りました。お気に召したようでなによりです」

「あ、ありがとうございます……!」

「ふふっ、こちらの杖もただ軽くなっただけではないんですよ」

「そ、そうなんですか?」

「はい、ダンジョンに入った時のお楽しみです」


 暗女は小首を傾げた。


「次は、奏多様です」


 村正を手に取る。


「見た目はとくに変わってないようだけど」

「可愛くしたほうが良かったですか?」

「あっ、いや。そういうことじゃなくて……」


 花柄にされたら配信したときに視聴者になんて言われるか……。

 それだけは勘弁だ。


「見た目は変わっておりませんが、今回はワイバーンのウロコで刀身を作り替えました。ですので、前回よりも切れ味が増しているはずです」


 前回よりも増しているとなると、村正に切れないものはなくなるな。

 ダンジョンに入った時にでも試してみよう。


「ありがとう。エレノア」

「お褒めの言葉、ありがとうございます」


 エレノアは両手でスカートの裾を軽く持ち上げて優雅にお辞儀をした。


「お代はいくらだ?」

「お代は結構です」

「えっ?」

「珍しいワイバーンのウロコも見れましたし。それにこうして逞しい奏多様にお会いできた。こんなに嬉しいことはありません」


 エレノアは天使のような笑みを浮かべた。

 ものすごく眩しい……!


「そんな! 私、何かお礼がしたいです」

「私も……! こんなにいい装備を作ってくれたんですから」


 芽衣と暗女が真剣な表情を浮かべる。

 このまま何もしないで店を出るのも悪いな。ここは何かお礼をしたいところだ。


「そーだ! 奏多さん! 配信で、エレノアさんのお店を宣伝するのはどうですか?」


 芽衣が提案する。


「宣伝か……いいかもしれないな。エレノア、いいか?」

「以前から私、その配信というのに興味あったんです。ぜひ、お願いします」


 エレノアに了承を得た俺はすぐさま配信開始ボタンを押した。


『芽衣、暗女たちと一緒に武器屋に行ってみた』


「こんにちは、視聴者のみなさん。今日は、とある武器屋に来ています」


 スマホに向かって語り掛ける。

 すると、すぐにコメントが流れ始めた。


"配信キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!"

"久しぶりな気がするわ"

"真奈美さんと荒らし討伐した依頼か?"

"武器屋?どこだろう"

"wkwk"

"芽衣ちゃんと暗女ちゃんもいるけど、どうなってんの?"

"俺らの知らないところで進展しすぎだろ"


 そして、俺はエレノアにカメラを向ける。


「ごきげんよう。『エレノアの館』という武器屋を経営しております。エレノアと申します。近くを通りましたらぜひ、お越しくださいませ。ご主人様の帰りを心よりお待ちしております」


 と、バッチリ決めセリフを言い終えたエレノア。


"メイドだ!俺めっちゃ好き!"

"メイドきたああああああああああ"

"何この子めっちゃ可愛いんですけど"

"えっ!?また新しい女!?"

"てか、メイドが武器屋を経営してるの!?"

"そのギャップたまらん!"

"俺、絶対行くわ!!"

"奏多って、女性の知り合い多すぎないか?"


 コメントの速度が増す。

 盛り上がってくれているようだ。これでエレノアのお店が少しでも繁盛してくれればうれしいな。


 その後、軽く雑談を交わし、記念にとみんなで写真を撮って、店を出た。


「またお越しくださいませ。ご主人様――」


 エレノアは最後まで俺たちを笑顔で送り出してくれた。

 こんなに気持ちのいい武器屋は中々ないだろうな。


 店を出て、伸びをする。


「装備を整えたことだし。それじゃあ行くか!」

「行くってどこにですか?」

「奏多さん、行きたいところがあるんですか?」


 芽衣と暗女は目を合わせ、小首を傾げる。

 俺は不敵な笑みを浮かべながら、とある場所へと歩き出すのだった。


 ちなみにその後、メイドが経営する武器屋というギャップが受けたのか『エレノアの館』は大繁盛。

 前みたいに寛げる空間を維持するために、お店は予約制になったらしい。

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