第3話 奏多、お姉さん探検家と出会う

 依頼を受けるため俺はダンジョン委員会へと足を運んでいた。

 伊原本部長の計らいでDランク以上の依頼も受けられるようにしてもらった。


「おっ! これはいいな。報酬の額もいいし、これにしよう」


 “???”の依頼を手に取る。

 どうやら原宿のダンジョンに新種のモンスターが出たという。黒いローブに身を包み。

 連携攻撃をしかけてくるという。鳴き声に特徴があるためすぐ分かるようだ。

 面白そうだ受けてみよう。

 

「あら? 奏多くん?」


 突如、名前を呼ばれ振り向く。

 艶やかな茶色の長い髪に透き通った肌。そして大きな胸。あれは……。


真奈美まなみさん! お久しぶりです!」

「うふふ、大きくなったわね。それに、すごく逞しくなって……カッコいいわよ」


 唐突に真奈美まなみさんはうっとりとした表情で俺の身体をなぞるように触る。


「ちょ、ちょっと! ま、真奈美さん!」


 くすぐったい……。

 周りの目があるのでさすがに恥ずかしい。


「あら、ごめんなさい……! 逞しい身体だったからついね」


 真奈美まなみさんはSSランクのベテラン探検家の一人だ。師匠の知り合いで、修行をつけてもらっていた時に時々遊びに来ていた。大人の女性って感じで男性探検家の中でファンが出来るほど人気らしい。

 年齢のことを訊くと殺されるので絶対しないように。これテストで出ます。


「委員会に顔を出すなんて珍しいですね。どうしたんですか?」

「伊原さんに任務の報告にきたのよ」


 SSランクの探検家は政府からの依頼をこなすのが主になっている。

 なので、こうして会えるのはかなりラッキーだったりする。


「それにしても奏多くん、最近絶好調みたいね。配信観たわよ」

「わざわざ見てくれたんですね。お忙しいのにありがとうございます」

「あのワイバーンを倒しちゃうなんて、雅さんも驚いてるんじゃないかしら?」

「あの人が配信を観てる姿なんか想像できないですけど……」

「うふ、そんなこと言っちゃ失礼よ」


 ちなみに雅さんは今でもガラケーを愛用している……。

 今でもガラケーに基本搭載されている麻雀と大富豪で遊んだりしているらしい。






 ――――――緊急事態発生きんきゅうじたいはっせい緊急事態発生きんきゅうじたいはっせい






 そんな他愛もない話をしていると突如、ダンジョン委員会全体がサイレンの音で包まれた。


「あら? いったいどうしたのかしら?」


 委員会の社員が真奈美さんに駆け寄る。


「探検家の奏多さんと真奈美さんですよね」

「そうだけど、いったいなにごとなの?」

「それが、原宿のダンジョンに『ダンジョン荒らし』が現れまして……」


 “ダンジョン荒らし” いわゆる盗賊だ。

 ダンジョンの中にいる探検家を襲い物資を盗む活動をしている連中だ。中には手練れもおり、最近活発になっている組織だ。


「状況を」

「はい。荒らしは数百人におよびます。多くの探検家が被害にあっており、いまも原宿のダンジョンに潜伏している状況です」

「派遣した探検家については?」

「Sランク探検家十名を派遣しましたが、盗賊の数が多く、あえなく返り討ちにあっています」

「結構大事になっているのね。民間人の避難はどうなっているのかしら?」

「それはすでに完了しております」


 報告を聞くにかなり大事になっているみたいだ。


「他に動ける者がおらず、真奈美さんと奏多さんにぜひ荒らしの退治をお願いしたいのですが……」

「分かったわ。奏多くんも大丈夫かしら?」

「もちろんです」


 ちょうど原宿のダンジョンに用があったんだ。ついでに荒らし退治といこう。


「それじゃあ行きましょうか。奏多くん」

「はい!」


 俺と真奈美さんはダンジョン委員会を後にした。


◆ ◆ ◆


 普段は若者で賑わっている原宿は静寂に包まれていた。

 世界に一人取り残されたような不思議な感覚に陥る。


「そうだわ。奏多くん、配信しなくていいの?」

「していいんですか?」

「むしろしたほうがいいと思うわ。荒らしを退治する奏多くんを見たい視聴者もいるとおもうし」

「それなら遠慮なく」


 俺は、スマホを浮遊魔法で浮かし、配信開始のボタンを押した。

 

 ――タイトルは。


『原宿のダンジョン荒らしを退治してみた。SSランク探検家の真奈美さんもいるよ』


"真奈美さんがいると聞いて"

"久しぶりの配信キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!"

"コラボ配信か"

"真奈美さんは配信してないからコラボじゃないぞ"

"原宿のダンジョン荒らしってさっきニュースになってたな"

"もしかして、二人でやっつける感じ?"


 コメントが大盛り上がり。

 やはり真奈美さんがいると違うな。


「すごいコメントが流れてるわね。これ読めるの?」

「いえ、さすがに全部は読めないですね」


 微笑みながら手を振る真奈美さん。

 真奈美さんがスマホの画面に近づく、総じてコメントの流れも速さを増す。


"真奈美さんの顔がこんなに近く……!"

"hshs"

"切り抜き班出番ですよ"

"奏多の配信見に来る人変態多すぎて草"

"俺は断然芽衣ちゃんだね。あの可愛さは唯一無二"

"俺も芽衣ちゃん派だなー"

"二人の知らない間に派閥出来上がってて草"


 コメント見るに真奈美さん派閥と芽衣派閥に分かれているようだ。

 カオスだ。


「そういえば、真奈美さんは配信しないんですか?」


 探検家で配信をしていない人はほとんどいない。

 だけど、真奈美さんは配信をしないレアな探検家の一人だ。綺麗でスタイルがいい真奈美さんが配信すればバズること間違いないはずだが。


「したいのはやまやまなんだけどね……なにせ仕事が忙しいからそれどころじゃないのよ」


 基本SSランクの探検家は委員会と政府から直々に仕事を依頼されることが多く、海外に赴くこともあるという。


「視聴者は真奈美さんが戦ってるところ観てみたいって思うと思いますよ。それに真奈美さん綺麗だし」

「あらあら、奏多くんが褒めてくれるなんて、とても嬉しいわ」


"配信してるの忘れてない?"

"イチャイチャ配信してて草"

"芽衣ちゃんに新たなライバル出現!?"

"芽衣ちゃんが怒るぞ!"

"これは激おこだな"


「それじゃあ気を取り直して行きましょうか。奏多くん、準備はいいかしら?」

「もちろんです!」


 何気ない会話を交わした俺たちは意を決して、原宿のダンジョンへと足を踏み入れるのだった。

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