第4話 奏多、助ける

「いやっ、近寄らないでっ!」


 クリーム色の髪色に綺麗なカールがかかっている女性。パチリとした目と丸顔が特徴的な女性。

 本部長から見せられた伊原芽衣で間違いない。


『ゴゲゲゲゲゲゲ』


 ガーゴイルは彼女のことを鋭い目で睨みつけている。


 ガーゴイルはSランクのモンスター。

 コウモリのような羽と鋭い爪を持つ、そして、ゴーレム並の硬度を持ち合わせているのも特徴で来た。並の装備じゃ攻撃は通らない。


「えいっ! やっ! このっ!」


 伊原芽衣は拳を思い切り振りぬいた。

 いい動きだ。踏み込みもいいし、パワーもある。さすが伊原本部長の娘さんだ。


 しかし、無惨にもその攻撃はガーゴイルの硬い身体によって弾き返される。


「くッ! はぁ……うぅ……」


 膝をついてしまった。どうやら脚を怪我してるみたいだ。ガーゴイルの爪にやられたのだろう。

 さすがに女性一人でSランクモンスターを相手にするには荷が重いか。


『ギャガガガガガ』


ガーゴイルの爪が伊原芽衣の顔面目掛けて放たれたその時――。


「よっ!」


 俺は音速を超えるスピードで彼女の身体目がけて駆けだした。

 すぐさま彼女を抱きかかえ、ガーゴイルの攻撃をかわす。


『ギャガ??』


 ガーゴイルは何が起きたのか分からない様子。

 俺はそっと彼女の無事を確認する。


「大丈夫ですか? 伊原芽衣さんですよね。あなたを助けに来ました」

「えっ、あれ? あなたは……」


 自然とお姫様抱っこの体勢になってしまっていることに気づく。これも配信に映ってると思うと恥ずかしい……。

 太ももに引き締まった身体。色々柔らかいものがあたってしまっている。マジですまん。


「あわわわっ!! もしかして、奏多さんっ! あ、あのっ! ありがとうございます!」


 彼女はプシューっと頭から煙を吹き出し、頬を赤らめオロオロとしている。


"芽衣ちゃん可愛い"

"煙出ててる。可愛すぎわろた"

"顔真っ赤にしてる。これは落ちたな"

"これが本部長の娘さんか……全然似てねぇ"

"おい奏多! これはいけるぞ!"

"っていうか本部長の娘さん可愛すぎないか?"

"ってか本部長の娘さんって探検家やってたんだな"


 コメントは大盛り上がり。


「こらっ、変なこと言うな」


 視聴者に向かって一応怒っておく。

 俺が彼女と? ありえん。本部長の娘に手を出したらどうなるか……。

 想像しただけでも怖いので考えたくもないが本部長に似てない点に関しては同意見だ。


 雑念を振り払い彼女を地面へと降ろす。


「奏多さんの配信私、観てました! お会いできて光栄です!」

「あ、ありがとう。無事でよかったよ」


 脚を怪我しているというのにいまにも飛び跳ねそうなテンションで彼女は笑顔を浮かべた。

 とても快活で可愛らしい子だ。


 すると――。


『ゴゲゲゲゲゲゲ』


 ガーゴイルの不気味な鳴き声で状況を再確認する。

 存在をすっかり忘れていた。


"ガーゴイルめっちゃ怒ってて草"

"ガーゴイルの存在薄すぎw"

"一応Sランクのモンスターなんだけどなw"


「奏多さん、すみません。脚の怪我のせいで私は戦えそうにないです」

「大丈夫、君は下がってて、ここは俺一人で片付ける」

「えっ、ガーゴイルを一人でですか……!? 危険ですよ!」

「大丈夫、安心して」


『ゴゲゲゲゲゲッ!!』


 するとガーゴイルは自慢の羽を存分に使い俺との距離を縮めてくる。


「奏多さん! 危ないッ!!」


 ガーゴイルの鋭い爪による連続攻撃。


『グゲッ!!』

『ゴグッ!!』


 俺はそれを軽快に交わしながらそっと村正に手をかける。


『ゴゲゲゲッ!?』


 その一連の動作を見て危険を察知したのか一気に後ずさるガーゴイル。


「お前意外と勘はいいな」


 さすがSランクモンスターと言ったところか。


 だが――


「間合いを詰めた時点で俺の勝ちだったな」


 そうつぶやくとガーゴイルの翼がボロボロと崩れだした。


『ゴゲゲゲッ!?』


 いったい何がおこったのか理解できない様子。

 ガーゴイルはさっき、俺が村正の柄を掴んだだけだと思ったかもしれないが、ガーゴイルが後ずさる前に高速の斬撃を羽目掛けて繰り出していた。


 その間、0.01秒――

 恐らく配信にも映っていないだろう。


『剣技―――東雲しののめ


 今度は配信にも映るほどの大きな斬撃をガーゴイル目がけて放つ。

 自慢の翼を失ったガーゴイルはなすすべなくその斬撃をくらう。


『ゴゲッ! ……グゲゲ……』


 ガーゴイルの身体は真っ二つに割かれ消滅した。


「ふぅ~終わった終わった」


"あのSランクのモンスターを一瞬で……"

"ガーゴイル先輩……"

"ガーゴイルの羽斬ったのってマジなん?"

"アーカイブ見直してもマジでみえないわ。すげぇ"

"ガーゴイルぱいせんさよなら!安らかに眠れ"

"ガーゴイルが可哀想に見えてきた。相手が悪すぎたな"

"っていうかさっきから芽衣ちゃんが女の顔してたぞ"

"これは……いけるのでは?w"


 すると、傍でみていた彼女がスタスタと駆け寄って来た。


「すっ! すごいです奏多さん! そ、その……かっこよかったです!」


 キラキラとした表情を浮かべながら見つめてくる。

 女性からこんなに褒められた事がないから恥ずかしいな……。


「ありがとう。それよりも無事でよかったよ」


 まぁ、何はともあれこれで任務は完了だ。

 これで高橋との約束に遅れずに――。


「あ、あの……奏多さん、私歩けないので……またお願いしてもいいですか?」

「えっ?」


 もの欲しそうな顔で俺のことを見つめる伊原芽衣。


"女の顔してて草"

"これはお姫様抱っこをご所望のようだ"

"抱け! 抱け!"

"もう結婚しろ!"

"出会って数秒で〇体"

"おい、こいつ通報しろ~"


 さすがに何度も年頃の子の身体を抱きかかえるわけにもいかない。

 そう思った俺は、先ほど倒したガーゴイルの羽根を手に取りスキルを発動する。


現実化リアライズ―――回復薬ポーション


 ものの数秒でガーゴイルの羽根がポーションへと早変わりした。


「今の……奏多さんのスキルですか?」

「そう、リアライズ。羽根をポーションに変えたんだ。ほら、脚見せて」


 俺はそのポーションを彼女の脚へと振りかける。

 すると一瞬のうちに傷は癒え。彼女の脚は元通りになった。


「よし、これで大丈夫だよ」

「うぅ……あ、ありがとう……ございます……」


 何故か残念そうな表情を浮かべる芽衣。

 俺、なんか悪いことしただろうか……女性の気持ちというのは難しいな。

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