第6話 奏多、バズる

 翌日の昼間――。

 ボロアパートの一室にスマホの着信音が鳴り響く。


「なんだよ……せっかく気持ちよく寝てるのに」


 達成感に満たされた俺はあの後結局寝てしまったんだった。


「そうだ、牛タン……忘れてた」


 スマホを見るとちょうど高橋から着信が来ていた。高橋は中学生の頃からの幼馴染だ。

 そういえば、昨日飲む約束してそのまますっぽかしてダンジョンに潜ったんだった。


 意識がはっきりしていない中、通話のボタンを押す。


「うい、どうした?」

「どうしたじゃねーよ! お前これどうすんだよ!」


 いきなり大きな声を出されて、スッとスマホを耳から遠ざける。


「声デカいぞ……なんの話?」


 あーもしかして、飲みをすっぽかしたこと怒ってるのか……。

 まぁ、既読も無視して配信してたわけだからな、怒っても当然だよな。


「あー、すまん……昨日はちょっと用事があって、だからまた今度埋め合わせするからさ」

「ばか! そんなことどうでもいいんだよ! そんなことよりお前、ワイバーン倒したんだって!?」

「あっ、あー。倒したけど……なんかまずかった? っていうかなんでお前がそんなこと知ってるんだよ」

「とりあえずいますぐにニュースを見ろ!」


 どうやら高橋は飲みのことに対して言ってるわけではないらしい。

 俺は通話をスピーカーにしつつ、ニュースサイトをチェックする。


 するとそこにはとんでもない見出しが書かれていた


『前代未聞!Dランク探検者奏多、SSモンスターを屠るッ!』

『世界初公開! ワイバーンの腹の中!』

『SSダンジョンを1時間30分で攻略!』

『ダンジョン委員会の試験内容に疑問あり? 批判の声多数』

『ダンジョン界隈に現れた超新星。奏多とはいったい何者!?』

『日本初! 生配信の同時接続数5000万以上突破!』

『同時接続5000万人に耐えられずすべてのコメントが文字化け』

『Dランク探検家奏多、ダンジョン委員会をディスる!』


「えっ、なんこれ……」


 これは夢か? 

 何度も目を擦り、見出しを確認するが、見間違いではない。

 頬を叩くが、どうやら夢でもないらしい。


「高橋これって……」

「あぁ、日本中いや世界中でお前のことがもちきりになってる」


 見出しを見るに探検家奏多というのは俺だ。間違いない。

 自分のこととは思えないが、どうやら俺はバズってしまったようだ。


「あのコメントと同時接続数はバグじゃなかったのかよ……」

「お前のチャンネルもえげつないことになってるぞ! 早く見てみろ!」


 高橋に促され自分のチャンネルを確認する。

 

「な、なんだこれ!?」


 昨晩は一桁だったのがいまはチャンネル登録者数が一億人になっていた。


「日本の人口を一晩で超えたのか……」

「たぶん海外の視聴者が影響してるだろうな。アメリカでもお前のことが話題になってるぞ」

「マジかよ……いまだに信じられん」


 SNSの方も見てみるとフォロワーもとんでもない数字になっている。まるでハリウッドスターにでもなった感じだ。


「あとこれも見ろよ!」


 高橋から次から次へと切り抜きのリンクが送られてくる。

 リンクを踏むとその動画はちょうど俺がワイバーンにとどめを刺すところだった。


『ダンジョン委員会し〇ええええええええええええええええええええ!』


 っと、ダンジョン委員会をディスっている俺の姿が映し出されていた。


「切り抜きで再生回数1000万再生かよ」


 ダンジョン委員会をディスった動画でこの再生回数。


 配信をした時は、まさかこんなことになるとは思っていなかったため。いざ自分の動画が色んな人に見られていると思うとものすごく羞恥心が抉られる。


「っていうかお前がDランクってほんとなわけ? だって雅さんに修行つけてもらったんだろ?」

「あぁ、それが……俺にも分からないんだ。ダンジョン委員会の職員から言われたし」

「うーん。お前の実力は雅さんからのお墨付きだしな……ダンジョン委員会が嘘ついてるとは思えないんだよな……」


 普通に考えたらダンジョン委員会がミスを犯すとは思えないが……。


「お前の一件でダンジョン委員会も荒れてるらしいぞ、試験内容に不備があったんじゃないかってさ」


 どうやら俺のあの配信以降色んな方面で影響が出始めてるみたいだ。

 たかが配信一つでこれか……世の中こえーな。


「とりあえず、今日飲みな! この件についてお前に言いたいことが山ほどあるんだからな」

「はいはい分かったよ。そんなことより、いまからどうしようかな」

「とりあえずいつも通り……ってわけにはいかねぇよな。とりまダンジョン委員会の声明待ちでいいんじゃないか? こんなに騒ぎになってるなら向こうから何かしらアクションが来るだろう」

「それもそうだな。それじゃあまた後で」

「あっ、あと!」


 高橋は何かを思い出したかのような声をあげた。


「外に出るときは気を付けろよ」

「ん? それってどういう……」

「そのまんまの意味だよ。それじゃあ、今日二十時に駅前に待ち合わせで! 遅刻すんなよ!」


 通話を無理やり切られ、俺はベッドにごろ寝する。


「気を付けろってどういうことだよ」


 俺は気を紛らわせるためにメールアプリを開く。

 すると数分前に『探検家北村奏多様へ』と書かれたメールが来ていた。

 送り主はダンジョン委員会本部からだった。


「噂をすればなんとやらだな」


 先日の謝罪と試験内容について不備があったと記載されている。

 

『大変申し訳ないのですが、お時間が許すときにダンジョン委員会本部へ伺いすることは可能でしょうか。大変申し訳ございませんがご検討いただけますと幸いです』


 と、丁寧なビジネスメールが書かれていた。


「家にいたって暇だから。飲みまでの暇つぶしだと思えばいいか」


『今から向かうので宜しくお願いいたします』


 返信を済ませた俺は、ポケットに財布を入れダンジョン委員会へと向かうのだった。

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