名前のない図書館

@mipple

第1話 僕と魔女の出会い

 凍えそうな寒い日の夕方。僕はきれいな夕日を眺めながら、お母さんと手をつないで家に向かって河川敷を歩いていた。僕の手にはお母さんがくれたかっこいい青の手袋がはまっている。その手を上から包むようにお母さんが手を握ってくれる。


 今日のお母さんは水色のコートに僕の髪の毛と同じ色の白いマフラーをしていて、いつも通りのやさしい笑顔を浮かべている。


「ルト、今日の夕飯何がいい?」


お母さんが僕に問いかけてくる。僕はお母さんの顔を見上げて答える。


「うーん、僕、ハンバーグがいいな!」


「ふふ、ルトはハンバーグが大好きね」


お母さんが僕を見てほほ笑む。それを見て僕もうれしくなって笑顔になる。


その時、突然何者かに肩をつかまれて後ろに引っ張られる。


「うわっ!!」


お母さんとつないでいた手が離れる。


「ルト!!」


お母さんは一瞬で魔力を全開にし、僕の肩をつかんだ人を吹き飛ばし、しゃがむようにして僕を引き寄せて抱きかかえる。


 吹き飛ばされた人を見ると、太った50代くらいの女の人が倒れていた。お母さんに5mくらい吹き飛ばされていたけど、すぐに立ち上がって、こちらをにらんでくる。


「ルトを、その魔力を、こっちに渡せ」


そのおばさんは図太い声で僕を指さす。僕は恐ろしくなってお母さんの腕をぎゅっと握ってお母さんの腕の中からそのおばさんを見る。


「魔女なんかにあげるものなんて何もないわ」


魔女と呼ばれたおばさんがお母さんと僕をにらみつける。


お母さんが僕に言う。


「ルト、お母さんが魔女をやっつけるから、ルトは先におうちに帰っていて。おうち開ける魔法、もうできるでしょ?家の鍵をかけてまってて」


「お母さんは?」


「お母さんは魔女やっつけたらすぐ行くわ。だから先に行ってて」


お母さんは僕を最後にギュッとだきしてめて耳元でささやく。



―ルト、愛してる。―



まだ5歳だった僕でもただ事でないことは直感でわかった。お母さんと今離れたらもう会えないかもしれない。僕は泣きそうになりながら、お母さんを抱きしめ返す。


「僕も愛してる、大好きだよ」


お母さんは僕から体を話すと最後に目を見つめて、「さあ、行って」というように僕の背中を押す。


次の瞬間、魔女が僕の襲い掛かろうととびかかってきて、それをお母さんが魔法で食い止める。


透明な盾で動きを遮られたかのように魔女が動けなくなる。魔女は必死にこちらに手を伸ばそうと恐ろしい形相で盾を突き破ろうとする。


お母さんは魔力で魔女の動きを封じ続ける。


僕はどうしていいかわからずにその場でお母さんたちを見ていた。


「早くいって!ルト!!」


お母さんが叫ぶ。あたりには人もおらず、助けてくれそうな人はいなかった。僕はお母さんと最後になる気がしてその場から離れたくなかった。きっと今逃げたら、お母さんに二度と会えなくなる。


「ルト!早く!」お母さんの声に怒りがこもる。


僕ははっとして、回れ右をして泣きながら家に向かって全速力で走った。家まではそんなに遠くない。走れば5分もかからない。


僕は振り返らずに家まで走った。魔法でカギを開けて、家に入って鍵を閉める。


僕は怖くて仕方がなかった。あの魔女の恐ろしい顔。きっと二度と忘れることはできないんだろう。






自分以外誰もいなくて薄暗い部屋でそのまま布団にくるまって僕はお母さんが帰ってくると信じて目を閉じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る