私の彼氏は世界一かっこいい

Lemon

プロローグ

スマホの電源をつけ、一件の通知が来ているメールアプリを開く。


明坂アカサカ聖奈萌ミナモ様』


メールの宛先欄に並ぶ、ちょっと珍しい、わたしの名前。

このメールが、わたしの未来を決めるかもしれない。


『厳正なる審査の結果、』


アプリを開いた直後では、ここまでしか表示されていない。

この画面をスクロールしてしまえば、自分の運命を知ることになる。


『今回は採用を見送らせていただきます。』



……また、ダメだった。

ベットの上に寝転がり、スマホを放り投げる。




『アイドルになりたい!』


最初は、そう思ってた。

けど、いろんな習い事を通して、わたしにはあまりダンスや歌の才能がないってわかって、その道を諦めた。



『なら、モデルになりたい!』


次に思ったのは、そんなこと。

けど。


『あなたは、年齢の割に身長が低いです。それは、可愛らしい容姿とも言い換えることもできますが……うちの事務所に入りたいのであれば、モデルには不向きです。他の背の高いモデルたちと比べて見劣りしてしまいますからね』


そんなことを言われて帰宅したあと、自分の映った鏡を見た。


低い位置で結ばれた、薄くて青みがかった紫色の髪。

前髪の右側には、細くて白のメッシュが入っている。

銀縁メガネの奥に、少しくすんだ緑色の瞳。

顔だけなら、可愛らしい自信はある。


でも。


高校2年生にして149cmという、低身長。

『確かによく考えたら無理だな……』って感じた。



『じゃあ、女優ならどうかな?』


そして、今に至る。



「まぁ、女優のオーディションはまだ2回目だし……」


小さな頃から芸能界を目指して奮闘してきたけど、大きなオーディションに合格した試しがない。

事務所には所属できてて、そのコネのおかげで小さなオーディションなら何度か合格したことはある。

けど、大きなものは、毎回二次審査以降で落選してばっかり。


演技、歌、ダンス、トーク、あと、これは自信ゼロってわけじゃないけど、容姿。

本当に、なんだかパッとしない。



じゃあ、学校の方はどうかというと……


「明坂さんは……うん。よく頑張ってるね。今回のテストも30位台キープ。このまま頑張りな」

「明坂、体力測定、あともう少しでA判定だな。頑張れよ」


……こちらも、かなり微妙。

なんだろうね、ゲームの編成で表すと、弱くはないんだけど強いカードと比べるとちょっと見劣りして、編成するかしないか困るような感じの一番絶妙なカード、みたいな感じ。


Ms.二番手とは、わたしのこと。わたしはいつだって二番手。

自分の人生の主人公は、いつだってわたしじゃない。


本当に自信がない。



けどね、一つだけ自信を持って言えることがある。


「わたしの彼氏は世界一かっこいい」

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