[2]

 輝成は王位を継承し光機王を名乗る。

 見角は輝成を殺害し王位を簒奪する。

 見角は国名を新凍国と改める。

 甲陸国は新凍国に対して侵攻を開始する。

 魔女不在の新凍国はひと月ともたずに敗北する。

 甲陸国は新凍国を虎口に対する緩衝地帯とするため、それを支配下に置くが併合はしない。

 虎口が自らの重さに耐えきれず崩壊する。

 北方の脅威が薄れたことから甲陸国は新凍国を正式に取り込む。

 甲陸国は市民らの運動により国体を変化させる。

 甲陸国は新たな国名として甲庭国を採用する。


   ◆


 2つの生物がどれだけ近しいか、あるいは離れているか、考えるひとつの指標に交配の可能性がある。細かい条件は省くがその2つの生物が交配できるとするならばそれなりに近接していると考えられる。

 人間と魔女は交配可能だったのか? 理屈の上ではそれは十分に可能だった。

 魔女といってももともとは人間である。例えどれだけ力のかけはなれていようとも性交することは不可能でなかった。ただしそれはあくまで理論上の話であって実際にはただの一人も魔女の子というものは存在していない。

 人間の間にどれだけ強いタブーがあったとしても可能であればそれをやってしまうのが人間というものだ。その禁を破った人間がまったくいなかったとは考えづらい。むしろ絶対にいたと考えた方が自然だ。

 魔女は魔女になる段階で生殖能力を失った、という仮説がある。今になって検証することは不可能だが現実を説明するのにしっくりくるものではある。逆に言えばそれは現実を説明するためだけに用意された仮説でしかない。間に合わせのありあわせ。


   ◆


 藍鉄とは黒に近接した濃い青の名称だ。本名ではない可能性が高い。

 自ら名乗った偽名であるとも考えられるし、周辺の人々がその容姿からつけた通り名であるとも考えられる。

 別に真名が存在したとしてもまったく不思議ではない。といってもおそらくそれはもう永久にわからないだろうが。

 ただ一時期本人自ら藍鉄と名乗っており、周囲の人物もそう呼んでいたことは確かだ。


   ◆


 見角は桃原の家に生まれる。

 辺業の次男、辺麗の弟にあたる。跡継ぎでないため自分で職を探さなくてはならなかった。彼は家を継ぐことを考えなかった。それは兄に任せておけばいいと思ったし、そうすることに抵抗はなかった。

 彼にとっては幸いなことにその高い能力は輝成によって発見された。ある意味では彼も藍鉄と同じく輝成に見いだされたものだったと言える。そうするとあらゆる悲劇は輝成自身によって構築されていたとも言えるかもしれない。

 残念ながら人間にはそこまで先を見通す力はない。


   ◆


 割と前から考えていたことだ。人間は多数派によって社会を構成している。

 それを非難するつもりはない。

 彼らは余裕があれば少数派を許容する。余裕がなければ少数派を許容できない。

 ただし甚大な被害をもたらすものについては、どんなに余裕があっても受けいれきれない。

 果たしてそれほど大きく外れてしまったものはどうやって生きていけばいいのだろうか?

 ひとつの方法として疑問を持たないことがあげられる。何も考えずに多数派に取り込まれることだ。

 もうひとつの方法として徹底的に自己を貫くというのもある。必ず最後には破滅に行きつくけれど。

 繰り返す。それを非難するつもりはない。


   ◆


 輝成、後の光機王その人である。この時まだ彼は王位を継承するとは思われていなかった。

 本人はどう考えていたのだろうか?

 そうした先を考える余裕はなかったものと考えられる。状況はあまりに逼迫していた。


   ◆


 藍鉄の戦績はあまりよくない。勝率はだいたい5割、つまり勝ったり負けたり。そんな成績で長きにわたって魔女をつづけられたのが突出していると言えば突出している。

 なんでそんな芸当ができたのか?

 藍鉄は負けるのが非常にうまかった。敗北を早くに察知し被害を最小限にとどめた。故に回復に時間がかからず勝利後に油断した相手に奇襲を仕掛け電光石火で仕留める事例が数多い。

 それらをひとつひとつ検討していったところその敗北及び逃亡は別に作戦の内というわけではなかった。あえて損害を出しているとすればあまりに常軌を逸している。

 敗北の原因のほとんどはしょうもないケアレスミスによる。そうしたうかつさを天性のひらめきでカバーしてるといった感じ。だれにも読み切れない。


   ◆


 白縫は情報収集を徹底する。

 直接にぶつかりあう前に、相手に関する情報はもちろん、周辺の人物、想定される戦場、想定される気象条件などなど、些細なことでもとにかく調べ上げる。

 彼女にとって戦闘はずっと早く始まっていると言っていいかもしれない。

 実際に戦闘が開始してもなお彼女は情報収集をやめない。

 彼女から攻撃を仕掛けたという事例はほとんどない。多くのケースで相手の攻撃を誘発してその性質を見極めようとする。彼女が先制攻撃を行った数少ない事例では相手が異常なほどに消極的であった。

 その歴史上類を見ないほどに高い勝率はそうした慎重極まる調査に支えられていた。

 もちろん藍鉄との交戦前にも彼女について徹底的に情報収集を行った形跡はある。その断片が今の残されている。けれども敗北した。


   ◆


 カクヨムで「世界を変える運命の恋」中編コンテストなるものが開催されてその締切が2023年11月5日だった。9月初めにそれに気づいて約2か月の時間があったからやってみようかということになった。

 別段こんな代物で選ばれるとは思っていない。方法からして正当からかけはなれている(まずこの記述が邪道である)。

 ただコンテストに応募することで何かが変わらないかと思っただけだ。具体的にはPV伸びろ。

 傾向分析するのが面倒になって題材をそれにまかせたという部分も少なからずある。


   ◆


 藍鉄の容姿について。女性にしては背が高いが、猫背のためそれほど長身には見えない。黒髪黒目で暗い雰囲気をまとう。あるいは雰囲気については魔女に対する偏見のせいかもしれない。同時代に生きて目撃した人間の記録の中で特に彼女を美麗だと評価したものはない。そのあたりの言説は概ね死後に付け加えられたものだ。


   ◆


 翔覧はもともと打庭国前魔女・薙の弟子であった。といってもその教えを受けた期間は非常に短くひと月にも満たなかったという。薙があまりにも突然に死んでしまったから。

 その跡を継ぐにも未熟だった。そういうわけでそのまま流れで藍鉄の弟子になった。

 彼女はその著書においてそうした成り行きを嫌がってはいない。事実を述べるだけにとどめて自らの感想を付け加えることをしていない。前の師匠とも後の師匠とも何らかの不和があったというような記録もない。

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