第13話

 白楽はくらにライダーの噂話を伝えた翌日。お昼休みが終わりに近づいたころ。

 となりの教室から戻ると、いつもの場所に永嗣えいじと白楽の姿が見えなかった。

 白楽と永嗣が二人でどこかに行っている事なんて偶にあることなのに、何故だか急に不安になって、ちょうど立ち上がっていた美也子みやこに私は聞いた。


「あれっ?永嗣と白楽は?」

「なんか、一緒に屋上行ったみたいだよ」

「えっ?」


 瞬間的に、分かってしまった。

 きっと、白楽は永嗣に告白をしに行ったのだと。昨日の今日だ、そう思わない方がおかしい。

 気づけば教室を出た私の足は自然と、屋上へと向かっていた。


 屋上に行って、一体私は何をするというのだろう?

 できることなんて、何もないのに。

 

 こんなことを思いながら。


 屋上への扉の前に着いた時には、走ってきた為か緊張の為か、息があがっていた。

 その息を落ち着けてから、そっと扉を開ける。

 とたん、目に飛び込んできたのは、永嗣の後ろ姿と、その姿に重なるように奥に見える白楽の姿。


「好きだ、永嗣」


 ハッキリと聞こえて来た白楽の声。

 もしかしたら、あの角度だと白楽は永嗣にキスをしていたかもしれない。

 そんなことを考えながらそっと扉を閉じた私の手は、小刻みに震えていた。


 それからどうやって教室に戻ってきたのかは、まるで覚えていない。

 ただ、どっと疲れて、自分の席で机の上に突っ伏してしまったことは覚えている。

 白楽にはもうとうの昔に失恋をしているというのに、それでも、自分以外の人に白楽が告白をしている場面を見てしまったことが、私には相当にショックな事だった。

 ずっと押し殺してはいたけれど、陽キャの仮面の下に隠してはいたけれど、私はずっと白楽の事が好きだった。

 もしかしたらいつの日か、白楽が私の事を好きになってくれる日が来るかもしれないと、そんな夢みたいな事すら考えていた。

 それが全て、打ち砕かれたのだ。


 あんな話、白楽にしなければ良かった。


 後悔に苛まれながら、その日は誰とも話さずに家に帰ったと思う。正直よく覚えていないけれど。

 だけど。

 本当に心の底から後悔をすることになったのは、その翌日の事だった。

 白楽は、いなくなってしまったのだ。私のせいで。

 もう、二度と会うことはできないのだ。私のせいで。


 私の想いなど一生届かなくてもいいから、どうか白楽を返してください……!


 白楽の事故を知った時、私は人目もはがからず、泣きながら神様に願った。

 それまで神様の存在すら、信じてなどいなかったクセに。

 普段からの白楽と私の関係を知っているみんなはきっと、何も不思議に思っていなかったんじゃないかな。だって、白楽と一番中が良かったのは、私だから。それでも、私の本当の心の内をわかっている人は一人もいない。ただの一人も。


 ごめんね、白楽。

 本当に、ごめんね……

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