影の英雄は魔王国を再建します

駄犬

プロローグ


世界の南東に位置する魔王国ヘルサイズは、ラザレオ軍の侵攻により壊滅的打撃を受けていた。


中でも軍屈指で、魔王を討伐するために編成された部隊、"エタニティ"は、迫り来る魔獣達を最も簡単に殲滅していく。


「グレン!後少しで魔王城に着く!気を抜くな!」

エタニティ部隊のリーダーであるウォレン・ライアンは、イマイチ緊張感に欠けるグレンを注意する。


「ウォレン隊長!グレン先輩にそんな事を言っても意味ないですよ!」

水属性魔法で魔獣を殲滅しながら、ウォレンに話す少女の名はミーリア・タナスタシア。エタニティ部隊の妹分である。


「グレンが本気で戦ってる姿見た事ないもんねぇ」

おっとりとした口調の割に、派手な雷属性魔法で魔獣を殲滅するその女性は、マリア・アンデルメン。エタニティ部隊の副リーダーである。


「ハッハッハッ!酷い言われようだなグレン!」

巨大な剣と巨大な盾を使い、魔獣を力技で殲滅していく筋肉質の大男の名はデルバ・ウォーマー。エタニティ部隊の兄貴分。


「全くだ!お前ら好き勝手言ってくれるな」

ウォレンに釘を刺されてもなお、ポケットに手を突っ込みながら、魔獣の攻撃を軽々と避けて行く男の名はグレン・エンドメル。


「ルーラー、マーラ。魔獣がそっちに行ったぞー」

グレンが避けた魔獣は、双子のルーラとマーラに襲いかかる。


幼児体系の男の子ルーラ・オルタリアは光属性魔法を唱える。

同時に、幼児体系の女の子マーラ・オルタリアは闇属性魔法を唱える。

『グラビティアロー!!』

息の揃った魔法は迫り来る魔獣を一瞬にして殲滅する。


「グレン先輩!今の魔法どうでした!?」

犬のように元気いっぱいなルーラは、走ってグレンの元へいく。

「…どうでした?」

猫のように感情を表に出さないマーラもグレンには懐いている。


「良かったぞー!このままあと10年くらい修行すれば、俺なんて直ぐに越すぞ」

グレンはルーラとマーラの頭を撫でる。

撫でられたルーラは満面の笑みを浮かべ、マーラも顔をに出すことはないが、内心かなり喜んでいる。


「グレン先輩もちゃんと戦ってください!」

「なんだ、ミーリア。お前も撫でて欲しいのか?」

「ち、違います!べ、別に私はそんな事…」

ミーリアは徐々に声が小さくなる。

「もー、素直になっていいんだよミーリア」

マリアもミーリアの嫉妬に気づいて揶揄う。

「マリア先輩まで揶揄わないでください!」

ミーリア顔を赤らめ、頬を膨らます。


「お前らなぁ…」

ハァとため息を吐くウォレン。

しかし、エタニティ部隊にとってこれは日常だった。


粗方、魔獣を倒したエタニティ部隊は、既に魔王城の前まで進軍していた。


すると、上空から三首の巨大なドラゴンがエタニティ部隊に向かって襲いかかる。


「コーストドラゴンか。厄介だな。グレン!先に城の中へ行け!」

ウォレンはグレンに指示を出す。

「お前ら置いて行けねぇよ。コーストドラゴンは最上級モンスターだぞ!」

「見くびらないで下さいグレン先輩!こんなドラゴン、先輩無しでも倒せます!」

ミーリアはそう言うと、水属性魔法でコーストドラゴンに応戦する。

「早く行け!グレン!」

そう言うとウォレンは応戦を始めた。


デルバは突然、グレン持ち上げる。

「おいデルバ。何するつもりだ」

「ハッハッハ!これが最短ルートだ!歯を食いしばれ!」


デルバはグレンを思いっきり城の方へぶん投げた。

「おいぃぃぃい!デルバお前!覚えてろよ!!」

剛力のデルバは、グレンを魔王城の中階層辺りまで投げた。


「ハッハッハ!我ながら完璧!」

そして、グレンは魔王城の外壁にぶち当たり、壁に埋もれる。


「あの馬鹿力!殺す!次会ったら絶対殺す!」

グレンは埋もれた壁から抜け出し、隣の窓を壊して中に入る。


城の中には、リザードマンやスケルトンなど大量の魔獣が蔓延っていた。

「めんどくせぇなー」

グレンは腰に差した青黒い剣を抜く。

その剣身は鈍い光を放つ。


グレンの存在に気づいた魔獣達は、四方八方から襲いかかる。


が、大量の魔獣達は一瞬にして命を切り落とされた。

グレンの早すぎる斬撃は魔獣の目に止まらず、斬られた事にすら気づかない内に死んだのだ。


グレンはそのまま魔獣達を斬りながら、最上階へ向かう。

外からは、カーストドラゴンとの戦闘で生じた、大きな音や振動が城の中にこだまする。


暫くすると、大きな扉へ辿り着く。

その扉は仰々しい程大きく、豪勢な扉だ。

「いかにもって、感じの扉だな」


グレンは扉を開け、中に入る。

すると、そこには広い空間があり奥には大きな椅子がある。

そして、その椅子に座るのは、禍々しいオーラを放つ魔王だった。


「あんたには悪いけど、ここで死んでもらう」

そう言ってグレンは剣を構えた。


魔王はゆっくりと椅子から立ち上がり、グレンへと近づく。

禍々しいオーラは、そんな場にいる全てのものを畏怖させてしまうが、グレンに限っては違った。


「何故私を殺せば戦争が終わると思うのだ?」

魔王の禍々しい声は、空間に重く響き渡る。

「お前の存在が、この戦争の元凶だからだ」

「ほう。私が一体何をしたと言うのだ?」

「知らん。国がそう決めたんだ。俺はそれに従ってるだけだ」


魔王はグレンの剣先まで来る。

そして、魔王の口から似つかわしくない言葉が出る。

「平和について、貴様は考えた事はあるか?」

「はぁ?何言ってんだお前」

「貴様の言う"国"がどんな意思をもって、私に剣を向けるか考えた事はあるか?」

「おい。俺は談笑しに来たわけじゃないぞ」


魔王は両手でグレンの剣を握る。

「私は力や恐怖による統治をして来た訳ではない。人間は理解しなかった。分かりあう事を放棄した」

魔王の行動が読めないグレンは少し身構える。


「私を殺して世界が平和になるのであれば、喜んで命を捧げよう」

魔王の手から、血がボタボタと地面に垂れる。

「しかし、違う未来が訪れるのであれば…」

魔王は掴んだグレンの剣を自分の心臓に刺す。


「血を分けた子よ…。平和な世界を…託す」


魔王はその場で倒れ込み、息絶えた。


この日、戦争は終わりを迎えた。

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