第6話 情勢

レイズは、あの日以降、グリージ外れにある洞窟に隔離されていた。


この洞窟には、自分以外の人間もいた。男女別で隔離されたため、それぞれの人数は分からない。

自分含め、男子は三人隔離されている様子。

小さな村だ。関わりの深い浅いはあるものの、顔も名前も知っている。

年齢に偏りはなく、レイズは最年少だった。


「まるで感染者だな……」


一人呟くレイズ。

そうは言うが、分かっている。


龍魂は伝染するものではない。よって、過度に隔離する必要はない。

だが、再暴走のリスクを考えなければならない。

この隔離は、再び龍が暴走ししても、被害を最小限に食い止めるための安全策。

よって、洞窟の外では、村の龍力者が待機している。万が一、自分たちが再び暴走した際、対処できるように。


当然だが、洞窟は常時薄暗い。炎龍使いが火を焚いてくれているが、太陽光には勝てない。

陽の光も差し込んでくるが、何となくの時間が分かる程度。当然、日光浴も無理だ。

精々、出口付近で大人しく光を浴びるだけ。


娯楽もなければ、身体を動かす充分なスペースもない。

何もすることがなく、気が滅入ってくる。レイズは頭を抱え、舌を打つ。


「ち……クソ……」


洞窟ではあるが、扱いは囚人のようなそれではなく、ある程度の自由は確約されていた。

食事も用意されるし、寝る時間や排泄時間も自由だ。ただし、外を自由にうろつくことは、当然許されない。



(ここに来て数日……あれ以来暴走はねぇ……)



日が経つにつれ、お互いのことを話すようになり、他の二人は風龍と、水龍であることが分かった。

二人共、被害の規模をお互い把握していないようだった。これは、意識の薄さを物語っている。

そして、意識が飛んだ後、夢か現実化分からない、朦朧とした独特の感覚はあったらしい。


「同じだ。俺にもあった。燃えないのが、不思議なくらいに」

「そうか。お前は炎か。オレの時は、水に浮いていたような……」

「風龍は……風に抱かれる……そんな感じだったぞ。」

「属性特有の夢?を見たんだな……だから何だって話だけど」


これらが分かったとて、状況は変わらない。

だが、話すことができ、少し心が軽くなった。


さて、洞窟内で何回夜を越しただろうか。

今朝も食事が運ばれてくる。同じ食事が。


「……今日で何日目だ?」

「さぁ……」

「またアンパン……うっ、頭が……」


出るだけ有難いと思えと言われればそれまでだが、扱いの悪さに苛立ってくる。

それは、朝に限らず、メニューが固定しつつあったこと。

朝はパン。昼は卵系、夜はご飯もの。流石に飽きてきた。


「いい加減別のものが食いてぇな」

「……(これを)スパーキングしてやろうか?」

「止せ。落ち着け」


レイズ含め三人とも、あの日以来暴走はない。

ただ、この状況でストレスが高まり、場はピリピリしている。

こっちはこっちで危険が高まっている状況だ。


(……炎龍……本当に「いる」のか?)


そもそも、なぜ龍魂を宿していない自分たちが、龍の力を得てしまったのか。

仮に突発的に得たとしても、龍魂の力の引きだし方も知らない人間だ。龍力を引き出すにも、幾つかハードルがあったと聞いていたが。


素人ながら、試しに力を込めてみても、無反応。他二人も同じだ。

だから、力むこととは別の何かが必要になるのか。それとも、根本的に違うのか……

何にせよ、何で自分が?の思いが強い。


(いつ出れんだよ……)


会話する相手がいるにはいるが、無限にトークできるほど、会話デッキは整っていないし、こんな代わり映えのない空間でトークをし続けられるほど、スキルは高くない。

すぐに会話は尽き、それぞれ個別に過ごすことになっていった。


そんな頃、外で待機している龍力者が村の状況を話すようになってきた。


「ようやくこっちも落ち着いてきた。安心しろ。死者は出ていない。サザギシも無事だ」

「マジか!?良かった……俺は……俺は……」

「……辛かっただろ。もう大丈夫だ」


安堵で全身の力が抜けた。小さな村であるが、治癒が得意な光龍使いがいる。

その治癒が間に合ったのだろう。あの場にいたレーヌも、川に落ちて、炎龍の被害には遭っていないらしい。


更に数日が経ち、親との面会が許されたころ、世界の現状を知った。


「どうやら、龍魂の暴走が世界各地で起こっているらしい。当然、全員が無龍力者だ」

「……原因は?」

「ハッキリとは分からない。が、王の政策の一つが失敗したと……」


王の政策が失敗?それで、同時に龍魂の暴走が起こり得るのか?


「は?何でそれで世界的に暴走が……?」

「騎士団の発表だ。詳細は調査中らしい」

「…………」


この世界各地で、似たような暴走事故が起きていること。

その日は、『グランズの崩壊』と呼ばれ、王グランズが何かの儀式に失敗したらしいということ。

世界は混乱しているものの、騎士団が各地を回り、支援しているため、生活は徐々に戻りつつあること。


合計約二週間の隔離期間を終え、レイズたちは安全と判断された。

各々の家族が迎えに来てくれる。母レーヌが来てくれた。


「お帰り。レイズ」

「うん。その、大丈夫なのか?」

「えぇ。わたしは川に落ちたから……」

「……みたいだな」


良かった。

村の龍力者の方便ではなさそうだ。


「……で、この話は、本当かどうか分からないけど」


レイズは色々考え事をしていると、レーヌは、声を小さくして言った。

グランズの崩壊は、グランズの力不足ではなく、裏切り者がいる「らしい」こと。


「裏切り者?」

「えぇ。失敗したのはグランズの問題ではなくって、そいつのせいだって。ただ、グランズへの批判を他へ向けるだけの報道だ、って意見もあるわ」


レーヌはレイズの肩に手を置く。


「あの日に龍力者になった人は、正規の龍力者じゃないわ。罪にならないし、堂々としてなさい」


同じように世界の状況を説明されたサザギシも、最初は思考が追い付かなかったらしい。当然だ。

が、レイズに『あの日』のことを追及しないと言ってくれたそうだ。回復も順調らしい。


(よかった……サザギシ……)


これで、元通りのはず。

色々あったが、これで一段落。レイズは肩をなでおろす。


しかし、いつもの日常に戻ることはできなかった。

それは、世界を回っているとされる騎士団員ではない、一人の男の訪問によるものだ。


その男との出会いは、レイズの世界を大きく広げるものとなる。

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