第16話 最年少

「あ、そう言えば薙坂さん。早速ニュースになってましたよ」


 何がということは聞かずとも分かる。ダンジョン施設を襲撃した件だろう。


「何て言われている?」


「過激派テロリストだろう、と。映像も公開されていまして、それぞれ『金狼鬼』と『鉄巨人』と呼ばれてましたね」


「そうか。ヒーローに近づいたなー」


 俺は遠くを見つめながら、そんなことを言う。誰がどう見ても悪役でしかないことは自覚していながら。


「まぁしょうがないです。政府やメディアも利権と圧力で動いていますから、僕らに配慮なんか当然してくれませんからね」


「だな」


 俺はやれやれと言った風に答える。エデンによって作られた人権を無視した非合法な施設は当然、テレビにもネットにも書かれていなかった。


「で、スグル。ピピのことは知っていたのか?」


「はい。チラっとデータを盗み見したので」


 そんなテロ組織が作った施設のデータをチラっと盗み見したと言っているスグルは一体何者なのだろうか。聞くのは怖いので、スルーしておく。


「じゃあスグルの考える展開通りになってるわけだが、これからどうするんだ?」


「そうですね、まずピピさんに日本語を覚えてもらおうと思います」


 なるほど。確かに毎回翻訳機に頼っていたのではチームとしての動きに支障が出るだろう。だが、日本語を習得するのは難しいと噂で聞いたことがある。


「ピピは──」


『やる。覚える。すぐ』


 すごくやる気満々だった。なんだか本当にすぐにでも習得しそうな勢いを感じる。


「分かりました。では、一週間でマスターしてもらいましょう」


「なっ。それは無茶じゃないか?」


「いえいえ、人間本気になって一日28時間くらい勉強すれば一週間で大抵のことはクリアできますよ」


 睡眠時間や食事時間を計算に入れているとか入れていないとかいう問題ではない。時間軸を超越していた。


『やる。一日36時間やる』


 こっちはこっちでさらに越えてきた。まぁ、やる気があるのはいいことだ。


「あぁ。じゃあ、まぁ頼んだ。俺はあんまり力になれそうにないからな。えーと、スグルは3805だっけ?」


「はい。3805をお借りしています」


 このマンションの最上階は俺の部屋を除いて4LDKの部屋が6部屋ある。そのうちの一つをスグルに貸している。家賃はいらないと言ったのだが、リベンジャーズの運転資金にしますとのことで、何十万だかを毎月貰うことになっている。エリートだから給料がいいかと思ったら内緒の副業で当ててるらしい。怖いから内容までは聞いていない。


「んじゃ、ピピ好きな部屋選んでいいぞ」


『ここはトーマの家?』


「あぁ、そうだぞ」


『じゃあここ』


「ん? あぁ、違う違う。この部屋の中の好きな部屋じゃなくて、あぁ言葉って難しいな。ほれこっちこい」


 俺は説明がめんどくさくなり、ピピを連れて、マンションの各部屋を紹介する。間取りはどれも似たような感じだ。


「とまぁ、こんな感じだ。一応部屋の向きとか、日当たりとかバルコニーの感じとかはちょっとずつ違うんだけど、どこがいい?」


『最初のとこ』


「最初のところというと、3802か」


『違う。もっと最初』


「もっと最初?」


「薙坂さん、薙坂さん、ピピさんは薙坂さんと一緒に暮らしたいって言ってるんですよ」


「は?」


 一緒に部屋を見学していたスグルからそんなことを言われる。そんなわけあるかとピピを見る。


『ん。そう』


 どうやらそうらしい。


「ピピお前、もしかして……寂しがり屋か?」


 ズコーっとスグルがずっこける。


『ん。そう。一人で寝るの寂しい。トーマと住む』


「なんだ、当たりか。ま、そういうことならいいぞ。俺の部屋だけ部屋ぶちぬいて3LDKだから一部屋開けるな」


『ん。寝室は一緒がいい』


「あぁ、いいぞ。じゃあ適当に他の部屋からベッド持ってくるかー」


『ん。ありがとう』


「すごいナチュラルに同棲しちゃうんですね……」


 同棲とか言うな。ピピだぞ? 子供だぞ? ……子供、だよな。最初の印象からどんどん年齢が幼く感じるようになってきたが、年齢を聞いてはいない。


「あー、ちなみにピピって何歳なんだ?」


『19』


「……まさかの年上」


『トーマは?』


「………………18」


「あ、ちなみに僕は26です」


 リベンジャーズ最年少はどうやら俺だったようだ。

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