第13話 召喚獣契約

「お前、それはダメだろ。死ぬぞ。ガラス割れて中身出たら死ぬぞ。あんなあからさまに毒々しい液体絶対ヤバイって。ほら、吐け」


『ん、平気。毒では死なない。鍛えているから』


「いや、それそんな万能なセリフじゃないから。毒とかそういうレベルの話しじゃないって。細胞レベルでヤバイって」


 俺は珍しく取り乱した。折角助けたのに、目の前で不審な死を遂げられたら寝覚めが悪すぎる。


 だが奇跡は起こった。


「おい。……なんだそれは」


 ピピの服の上からでも分かる。胃の辺りがライトグリーンに発光している。ピピは自分で服をまくりあげ、真っ白い腹を見せてくる。


「契約印……マジかよ」


 胃の辺りに契約印が浮かび上がっていた。


『ね』


「いや、ね。じゃないけどもな」


 そしてピピはちょっと待ってて、と言うと部屋の隅っこで壁に手をつき、えづき始めた。


『ふぅー。出た』


 なんかドロドロでベタベタした液体がついたエナジーコアを見せてくる。酸っぱい匂いもセットだ。


「ハハ、控えめに言って最悪だな」


 胃液まみれのエナジーコアに対する感想はそんなところだ。そして、そんな胃液エナジーコア略して胃液コアを握りしめ、ピピが叫ぶ。


『召喚──クロープス』


 どうやら鉄巨人の名はクロープスと名付けたようだ。ピピが叫ぶと、鉄巨人の残骸は消え去り、ピカピカになって再登場する。胸の部分がパカリと開いた。


『ん。とう』


 ピピはそこへ軽く跳躍し、乗り込む。そして胃液コアを差して捻ると、鉄巨人の両目が赤く光り紫電を放ち始める。


 胸の扉が閉まるとピピが乗った鉄巨人は縦横無尽に動き回り、その両手に持つ巨大な剣をブンブンと振りまわす。それから三十分ほど乗り回しただろうか。鉄巨人が動きを止め、胸が開く。


『うん。大体分かった』


「そか。契約おめでとう」


『ありがとう。トーマのおかげ。命の恩人』


「ん。あぁ、どういたしまして」


 くー。そんな時に腹が鳴った。俺ではない。ということはピピだろう。


『ん。お腹空いた』


「まぁ、一週間以上はあの中にいただろうからな。食うもんはあるのか?」


『……ない』


「アイテムボックスないのか。肉食うか?」


『ん。食う』


 俺はアイテムボックスから調理セット一式と生のステーキ肉と生米を取り出す。アイテムボックスは時間停止と劣化防止の特性の付いてるものだから調理済みの料理を入れておいてもいいのだが、俺はダンジョン内で調理するタイプだ。


「ほれ、できたぞ」


 上等なステーキ肉と米が何十キロとストックされているため、大体これだ。俺は自分の分も作り、折り畳みのちゃぶ台の上に水と一緒に置く。


『……食べていい?』


「どうぞ」


『ありがとう』


 ピピはペロリと肉をたいらげ、米を頬張った。もきゅもきゅと小さな口と小さな頬であっという間に食べ尽くす。まさか追加で二枚焼くことになるとは思わなかった。


「どうだ?」


『ん。お腹いっぱい。トーマありがとう。トーマは本当に命の恩人』


 なぜだろうか。鉄巨人から救い出した時より、感謝の仕方が大きい気がする。


「まぁいっか。さて、腹ごしらえも済んだし、行きますか。って、あ……」


『? どうしたの?』


「あぁ、言うの忘れてた。俺たちの拠点は日本なんだが?」


『?』


 ロシアから出ることになることを言っていなかった。だがピピはそれが何か? という顔だ。


「いや、だから日本にいきなり来るとか、動揺しないのか?」


『元いた施設以外だったらどこでもいい』


 スグルが言っていた施設だろう。どうしたって良いイメージは沸いてこない。


「あー、変なこと聞くかもだが、そんな嫌ならなんで逃げ出さなかったんだ?」


『これ』


 ピピは首輪を指さす。


「随分とゴツイ首輪だよな」


『これ、逃げたら絶対殺す首輪』


 恐ろしいネーミングの首輪だった。いや、じゃあ逃げちゃダメじゃん。


『でも、壊れたから外せる』


 ピピは両手を使ってバキッと割ってポイッと捨てる。


「え」


『クロープスの電磁波で壊れたんだと思う』


「そうか。じゃあ問題ないな」


『ん』


 どうやらこれで逃げ出せるらしい。ならいっそ国内に留まるより海外へ逃げた方が良いと考えると渡りに船というやつかも知れないな。


「じゃあ日本に行くか」


『うん』


「あ、そうそう。一応俺は素性隠すためにこの仮面付けてるんだけど、出るときピピはどうする?」


『クロープスに乗ってく』


「了解。じゃあ逃走ルートはもう一人の仲間が指示してくれるから俺についてきてくれ」


『ん』


「あと、俺たちは反テロ組織だ。テロ組織じゃない。テロリスト相手以外はなるべくケガはさせたくない。それと間違っても殺さないでくれ」


『ん』


 ピピがしっかりと頷いたのを確認してから俺はロキにまたがり、そしてピピはクロープスに乗り込んで帰還用のゲートをくぐる。

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