第17話 水着のお披露目会

「楽しかったです! 蒼空くん、もう1回、もう1回乗りましょう!」


 そう言って雨音に腕を捕まれ、俺は玲央と陽菜に助けを求めたが、2人は微笑ましい表情で手を振っていた。


(助けないでいってらっしゃい……)


 まさか雨音がこんなにもスライダーを気に入るとは思っていなかった。1回目が終わった後、すぐにまた乗っても、楽しそうだった。


 玲央と陽菜は、飽きたのか別のスライダーに行き、思ってもいなかった二人っきりになる。


「後、何回乗るつもりなんだ?」


 雨音が言うなら何回でも付き合ってあげたいのだが、さすがに体力がなくなりそうだ。


「これで終わりにします。そろそろあの流れるプールとやらに行きたいので」


「わかった」


 聞いたところによると雨音はプールは幼い頃に来てから一度も来ていないそうで久しぶりだからこそテンションが高いらしい。


 スライダーの順番が回ってきて最初から最後まで楽しみ終えたところで流れるプールに移動する。


 玲央と陽菜とはお昼に合流しよと言っているのでそれまでは雨音と2人だ。


「その前に水着のお披露目会しておきます?」


 さっき陽菜から言われて否定していたが、雨音はお披露目会というワードを照れながら使っていた。


「そんなに無理して見せなくてもいいんだよ」


「だっ、ダメですよ! こう言ったら私が見せたがってるようにしか見えませんが、せっかく蒼空くんが度肝抜くような水着を選びましたし」


 うるっとした目でそう言ってくるので俺は、「じゃあ、今で」ということしかできなかった。


 俺と雨音は、流れるプールに行く前に人がいない休憩スペースへと移動した。


 人がいるところに行ってしまうと間違いなく雨音は注目を集めてしまう。


「いいというまで少しだけ後ろ向いてもらってもいいですか?」


「わ、わかった」


 彼女に言われて後ろを向くとラッシュガードを脱ぐためチャックの音や布が擦れた音がして、これは耳をふさいだ方が良いのではと思った。


「ぬ、脱げました。蒼空くん、いいですよ」


 言いといわれて後ろを振り返ると恥ずかしがりながらも水着が見えるようにしている雨音がいた。


「ど、どうですか? 似合ってますか?」


 上下分かれているタイプ白の水着。フリルがあってとても可愛いかった。


 自信があって選んだように見えたが、彼女は不安そうに俺に聞いてきた。


 似合っていないわけがない。寧ろ似合いすぎている。


「似合ってるよ。凄い可愛いと思う」


 動揺して答えたらキモいことを口走りそうで落ち着いてから感想を言う。


「か、可愛い……ありがとうございます。時間をかけて選んで良かったです」


 彼女は嬉しそうに笑う。


 にしてもやはりダメだ。人がいないところに来たが休憩しにきた人の目線が雨音にいってる。これはすぐにここを離れた方が良さそうだ。


 彼女にラッシュガードを着ることを勧めようとすると後ろからいつの間にかいた陽菜が雨音に抱きついた。


「あまねん、見つけた!」


「ひ、陽菜さん!?」


「ラッシュガード脱いじゃってどうしたの? 陽菜さんが触っちゃうぞっ!」


「きゃっ、くっ、くすぐったいです」


 陽菜は雨音の脇腹をくすぐり、俺は見ていいのかと目をそらす。


 すると、後ろから陽菜と一緒に行動していた玲央が俺の肩に手を置いて話しかけてきた。


「蒼空、2人でここで何してたんだ?」


「なにもしてないよ。玲央達は、どこ行ってたんだ?」


 玲央が怪しいなぁ~と言って何かを聞きたそうとしてくるが、俺は無視して話を変える。


「浮き輪レンタルして、陽菜と流れるプールにいた。で、飽きたからっ陽菜が水篠さんを探しに」


「なるほど……ところでそろそろあれ、やめさせないか?」


 何を見せられてるんだと思うほど2人は、ベタベタしており、周囲の注目を集めていた。


「……だな」






***





「このたこ焼き美味しいです」


 隣に座る雨音は、たこ焼きを食べて幸せそうな表情をしていた。


 昼食にしようとなり、俺達は売店に売っているものを買い、4人で食べていた。


 皆、中々頼むものに悩み、結果、シェアしようとなった。たこ焼き、フライドポテト、からあげをシェアし、プラス俺と玲央はカレーを買った。


「遊んだ後だから美味しいな」


「だね。玲央、ポテト食べさせて」


「自分で食べろよ」


 そう言いながらも玲央は陽菜にポテトを食べさせていた。


 それを見た俺と雨音は、もしかして知らないところで付き合い始めたんじゃないかと思い始めていた。


「蒼空くん、何か聞いてます?」


 雨音はツンツンと俺の腕をつつき、小声で聞いてきたが、俺は玲央から何も聞いていないので首を横に振る。


 中学から知り合いで仲がいいのは知っているが、何かが変わったような気が……ん?


 また横からツンツンとされて横を向くと雨音がたこ焼きをこちらに向けていた。


「蒼空くん、ど、どうぞ……」


「えっ、いや自分で────」


 自分で食べられると言おうとすると彼女はムスッとした表情をしていた。


 玲央と陽菜のやり取りを見て真似したくなったのだろうか。


「やっぱり……も、もらおうかな」


 そう言うと彼女はわかりやすいようにパッと表情が明るくなった。


「はいっ、では、どうぞ」

 

 たこ焼きを食べさせてもらい、食べていると雨音がニコニコしながらこちらを見ていることに気付く。


「どうかしたか?」


「楽しい夏休みだなと思いまして。蒼空くんと夏休みに会えたというだけで私はとても嬉しいです」


「……俺も嬉しいよ」


「ほっ、ほんとですか!? で、では、また夏休み中に今度は2人でどこかに行きませんか?」


 話す度に雨音が俺の方へ近寄っている気がする。彼女がわかっていてそれをやっているのかわからないが近すぎる。


「そうだな……どこか、どこか……おい、ニヤニヤして見るな」


 雨音と話を続けようとしたが、前から玲央と陽菜がガッツリとこちらを見ていた。


「初々しい会話が聞こえたから聞かないわけにはいかないよねぇ~」

「だな」


「だな、じゃねぇーよ。はぁ~、雨音、後で話そう」 


「ですね」







         

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る