第18話
出産後も直広は桃代の創作活動を支援した。佐世保・京町では夜の母とも呼ばれた菊代は、双子の育児に協力するとき、何者でもない一人の祖母になった。桃代の実父はすでに亡く、現存の大人たちは双子に灰が被らないよう見張り、遺影にはおりんを鳴らして遊ばせてもらっていた。
家族の愛情を受けて、宇門も宇留美も家族思いの子どもに育った。
「あんたら、あたしの宇門ば
宇門は桃代に似て虚弱体質で大人しく、同世代男子にとってはからかいの対象になってしまった。対する宇留美は自身の髪を伸ばす嫌いがあり、男子を負かすほどのわんぱくに育った。運動神経もよく、体操やかけっこで二位以下になったことが一度もなかった。
「また宇留美に頼ってしもうた。僕が大きぅなったら、どがんして僕のお姫さまば守れる
おやつの食べかすすらない宇門のスモックにしわが寄った。読んでいた絵本を閉じる際、スモックの一端を絵本の間に挟んでしまったからだ。
「
スモックにも頬にも泥を塗りたくった宇留美が靴を脱ぎ捨て、四つん這いで宇門に寄った。
宇門は半ズボンの左ポケットから、虹やペガサスを彩ったタオルハンカチを取り出した。
「
宇留美の頬を拭っていると、職員の一人が予備のスモックを持ってきてくれた。桃代が、宇留美のみスモックの予備を幼稚園に保管しておくよう頼んでいた。汚れた分は宇留美の巾着型手提げに入れて持ち帰らせていた。
宇門が半ズボンの左ポケットに入れているタオルハンカチは宇留美の泥を拭うためだけのものだ。右ポケットには宇門自身の手を拭うための無地タオルハンカチを入れていた。
そんな双子を、身内の大人たちはその日の活動バロメーターとみなした。
「今日も
両手に双子、肩に汚れたスモックとタオルハンカチを詰めた巾着型手提げ。直広は会社員の苦労が吹き飛ぶひとときを満喫していた。
帰宅すれば、桃代が食事を用意して待っていた。
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