第5話

 宇門が警察官になったのは、比較的立場の弱い女性や子どもを危機から救うためだった。

 また育ててくれた妙子の住む地域を守ることで、恩返しをしたかった。

 しかし現実は宇門の使命感を見事に打ち砕いた。

 長崎市や佐世保市など、長崎県内でも一、二を争う人口の街での勤務が長い先輩は機敏に働いていた。しかし長崎市に転勤してきた先輩の前勤務地が長崎市から離れるほど、腰が道端の地蔵よりも重くなっていた。郊外でも警察の世話になる住民がいるはずなのに、と宇門は怒りが胃液と混ざった。

 また、すでに平成が終わっているにもかかわらず、昭和の気質を平成に生まれ育った者が強要される。女性は男性を立てるべし、女性からの相談は女性が対応するべし。周囲には宇門を女性としてのみ扱い、大きな事件には関わらせようとしない。そのような環境に限界を感じて退庁するまで、宇門はベリー・ショートヘア、ノーメイク、パンツスタイルを貫いた。同性の同僚からも気味悪がられていたので、宇門の退庁を惜しむ人は一人もいなかった。

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