マジ、転生しても人生詰んでる。幼女をかばって死んだら、恋愛ゲームの主人公に転生した。しかもさっきまでやってた美少女ゲームだ。この地点からだとヒロイン全員が寝取られる最悪のバッドエンドになる。

楽園

第1話 ゲームの世界への転生(隆之介視点→幼女視点→隆之介視点)

(隆之介視点)


「隆之介、ごめん。わたし海斗君のことが好きなの」


「はあ!? お前、正気か。澤田海斗と言ったら寝取った女の数を自慢するようなやつだぞ」


「海斗君のこと、酷く言うのはやめてよ!」


「可憐、目を覚ませよ。俺たち幼馴染だろ。いつも俺の小説の絵を描いてくれてたじゃねえか!」


「ごめんね。わたし、もう小説のイラストも描かない」


 俺―山本隆之介は、屋上で幼馴染に振られた。こんなこと、あるわけがない。俺は叫びたくなるのをグッと我慢した。


「まだ、分かってねえんだな。隆ちゃんはよ」


 屋上の扉が開かれて、海斗が俺の前にやって来た。


「あのな。お前は知らねえと思うけどな、女の心なんてどうだってなるんだよ。女を虜にするのは、結局はここの相性なんだぜ!」


 海斗は自分の下腹部を指差していやらしそうにニヤリと笑った。


「ふざけるな!」


 俺は海斗に掴みかかった。


「ははははっ、惨めだねえ。可憐、馬鹿なこいつに言ってやれ。お前が愛してるのは誰だ?」


 水嶋可憐は俺から目を離し、下を向いた。


「わたしが大好きなのは、……海斗くんです」


「よく言った。じゃあ、こいつのことはどう思ってる?」


「ただの幼馴染で、私につきまとう、うざいストーカー……だよ」


 海斗の馬鹿笑いが起こり、可憐が蔑むような瞳で俺を見る。

 

「ちょっと待ってくれよ。そんなわけないだろ」


 そんな訳がない。ずっと相思相愛だったはずだ。


 海斗は俺の見ている前で可憐のスカートの中に手を入れた。


「やめてくれ。そこは……お前が触っていいものじゃない。ずっと大事にして来たんだ」


 俺は地面に手をついて土下座した。


「お願いだ。可憐だけには手を出さないで欲しい、頼むよ」


「ははははっ、無様だね。言ってやれよ。可憐、お前、俺に何回抱かれた」


「海斗くん、ごめんなさい。それだけはやめて……」


「言わなきゃ俺、可憐と別れるかもよ」


「いや! なんでもしますから、お願い別れないで……、ください」


「じゃあ、何回抱かれた?」


「やめてくれ。そんな酷いこと言うのは……」


 俺は地面に必死に頭をつけた。


「5回……、かな」


 最悪だ。そんなにも抱かれていたのか……。嘘だと言って欲しかった。


「これで分かったか? ほら、可憐行くぞ!」


 海斗は可憐の肩を抱いて屋上から降りて行った。最悪だ。俺は暫く地面に手をついて動けなかった。


 BAD END 15




――――――――




 クソクソクソ、ノベルゲームのシナリオだとは分かってる。それでもこの展開はあるかよ。


 バッドエンドでも、もう少し救われる話があるだろ。なんで相思相愛の可憐が寝取られた上、性奴隷のようになってんだよ。開発者、頭おかしいだろ。俺―粟田隆之介は、パソコンを思い切り叩いて、そのままベッドに寝転んだ。


 何が心のとろけるようなシナリオだよ。完全に鬱シナリオじゃねえかよ。そもそもバッドエンドの数が多すぎるんだよ。


 俺はあまりの怒りに我を忘れて、部屋を出た。


「ちょちょちょちょ、っと隆之介が出て来たよ」


「母さん良かったな。ニート生活もはや20年、長かかったよな」


「本当だよね。部屋から出てくるなんて奇跡だよ」


 安い奇跡だな、と思う。俺は近くのコンビニに行こうと家を出た。


 後ろからバンザイバンザイと言う声が聞こえてくる。コンビニくらい夜遅くに行ってたよ。確かに今日は早いけどな。


 俺はコンビニに寄ろうと道路を横切ろうとした。


「お願い! 誰か、娘を助けて!」


 痴話喧嘩だろうか。俺が声のする方を見ると若い女の人がこちらに向かって走ってきた。その次の瞬間、俺は目を疑う。若い女性の後から身体の大きな男が刃物を持って追いかけて来たのだ。


「そいつが死んだら、俺とふたりきりだろ。ほら、殺してやるよ」


 女性の手に四歳くらいの子供が抱かれていた。子供を殺すなんてあり得ない。絶対に助けないと……、俺は男に向かって突っ込んだ。


「やめろおおおおっ!!!!」


 男の振り上げた刃物は、振り下ろされ突っ込んだ俺の身体に突き刺さる。背中から大きく切られたのか、背中が熱い。きっと血が溢れるように出てきてるのか。


「お前が悪いんだからな」


 刃物を突き刺した事実に驚いた男は、俺を引き剥がすと今走って来た道を逃げて行った。すぐに警察がやってくる。


「犯人を追え、いや、それより救護が先だ」


 俺はそのままその場に倒れた。血がどくどくと溢れてくる。寒い……、すごく寒いよ。


 ここまで血が溢れたら、流石に死ぬよな。


 それにしても、何もない人生だったな。もし生まれ変われたら、女の子にモテたいな。


 記憶が無くなる瞬間、声が聞こえた。


「おじちゃん、ありがとう!」


 ははっ、そりゃそうだな。おじちゃんだな。俺の意識はそのまま深く深く沈んでいった。





――――――

(幼女視点)


 わたしの名前は、まえぞのかのん、ママからもらった大切ななまえだ。


「ママ、ほんとに家に帰って大丈夫!?」


 わたしを助けてくれたあの人は助かっただろうか。救急車が来て連れて行かれた時はまだ生きているようだった。犯人はまだ見つかってない。ママはあまり聞かれたくなかったのか、気分が悪いと言って家に戻った。


 まだ、パパ犯人は見つかってないのに……。


「うそっ、なぜあなたが……」


 そりゃいるだろうと思ってしまう。だって、行くところなんてないのだから……。


「分かってくれよ。俺たちにとって、子供は不要だ。こいつさえいなければ……」


 むちゃくちゃなことを言う。


「こいつは呪われた子供なんだ」


「奏音は絶対渡さない!」


 ママはわたしを自分の後ろに隠す。


「なぜ、わかってくれないんだよ!」


「そんなことより、出頭してよ。あなた人を怪我させたのよ。もしかしたら、死んだかもしれない」


「お前まで、そんなこと言うのか」


 あいつはママの前に立った。


「あなた、わたしまで……殺すの!」


「お前が俺と一緒に逃げないなら、殺すしかないじゃないか。そして奏音も殺してやる。どうせ生きていけないからな」


 えっ、うそ……、ママが殺される。ダメだよ、そんなこと。


 刃物が振り下ろされる。わたしはたまらず飛び出した。


「だめええええ、奏音!」


 刃物が弧を描いてわたしに振り下ろされた。痛い……、そして刺されたところが熱かった。


 体温がだんだんと下がっていくのがわかる。血がどくどくと流れ落ちた。


「救急車、早く救急車を……」


 どうやらあいつは逃げたようだ。もうあんな奴はパパじゃない。


「奏音、大丈夫よ。救急車を呼んだ。もうすぐ来る、きっと助かる!」


 ママがわたしをギュッと抱きしめた。その身体は血だらけだ。そうか、この血はわたしの血なんだね。


「……ママ、大好き……ありがとう」


「奏音、ダメ、お願い死なないで!!」


 意識が薄れていく。それに、すごく寒いよ。さっきから目も霞んで焦点が合わない。


「もう、何も見えない」


「奏音、奏音……お願い。わたしを置いて行かないで……」


「ママ、ごめんね。さ、よ……な、ら」


「……か、のーーん!!!」


 そのまま目の前が暗くなった。全てが闇の世界だ。あれ、おかしいな。でも意識がある。それに何も見えないはずなのに、目の前に天使が舞い降りてきたのが見えた。あっ、わたし死んだんだ。わたしの魂が身体からふわりと浮き上がった。


「迎えにきました。さあ、行きましょう」


 わたしは天使様の服の袖をギュッと掴んだ。


「どこに行くの?」


 天使様はニッコリ微笑んで空を指さした。


「天国です!」


「ごめん。わたし、天国には行けない」


「どうして?」


「心残りがあるから……」


「お母さんのことですか?」


「天使様、一つだけかのんのお願い聞いてくれますか?」


 天使様はわたしをじっと見つめた。




――――――――

(隆之介視点)



 あれ、ここはどこだ。俺は死んだはずだよな。


「隆之介、聞いてんのかよ、おい」


 俺が振り返るとゲームで幾度も煮湯を飲まされた海斗がいた。何か凄く腹を立てているが。


 嘘だろ……、これは俺がプレイしていた『お姫様とクラスメイト』の世界じゃないのか。もしかして、俺はゲームの世界に転生したのか。


「ようっ、俺さ。お前のこと無茶苦茶ムカつくんだよね。決めたよ、お前が好きになった女全員の処女を奪ってやるからな」


 最悪だ。この台詞からのストーリー分岐はない。このシナリオのラストは、ヒロイン全員が海斗に寝取られる寝取られエンドだ。





――――――――



始まりました第一話。

二話目は夜19時ごろに上げる予定です。

応援よろしくお願いします。


まだ登場していませんが、二話から登場する美憂です。

よろしくお願いします。


https://kakuyomu.jp/users/rakuen3/news/16817330665595559674

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