第8話 失われたアレを求めて

 何処の国も自国のダンジョンに他国者を入れない。

 忍び込まれて勝手に獲られる可能性もあるので、ヴィーヴルがどこのダンジョンにいたかは教える義務はない。

 環境も教えればダンジョン特定の手掛かりになる。


 ヴィーヴルの住処が特定出来たとしても、今の瀧蔵に倒せるかどうか判らない。

 一撃で気絶させなければならないなら、なお難しい。

 強くならなければ、その思いで積極的に鳥を狩るようになった瀧蔵に、皆好意を持ったのだが、一人だけ不満な子がいた。


「たっちゃん、男に戻りたいの」

「ああ、戻れるならな」

「やだあ、たっちゃんのおっぱいはあたしのもの」

「俺のだし。ま、見た目は変わらないらしい。死体を某国が売ってくれないから、生殖機能がどうなってるのかは判らないんだが。見た目トカゲなら、ペニスが隠蔽式でオスメス見分けつかんのは普通なんだよな」

「おちんちん生えるだけなら許す」

「許可制なの? まだ融合核が出るかも判ってない」


 どれほど小さな希望でも、ないよりはましだと瀧蔵は思う。

 自分のしていることも、訓練生だけでなく、融合者になるのを一旦は諦めた、二十台後半以降の人にも希望を与えている。

 さらに半年七十二個出た融合核で、三十代前半二人、二十代後半一人、性同一性障害者三人が融合者になった。

 瀧蔵達四人も火属性、風属性各一つずつを融合した。

 しかし、これでは足りないものがある。


「ここを推薦された時に鳥が多いから強化しやすいとは聞いたんですけど、雷属性の鳥は何処に出るんでしょう」


 教えてくれそうな馨子に聞いた。


「どこに出るというわけじゃないんです。あちこちでたまに獲れるんですけど、ここは火属性と風属性が多いから寄り付かないみたいですね」

「一番いない処だった?」

「そうなんですけど、雷属性必要ですか」

「火属性で攻撃力だけ上げると電撃の威力の調整がし辛いんです。雷属性上げないと気絶させ辛くなりそう」

「それでしたら、特例で等価交換で火属性でも風属性でも一つで雷属性と交換出来ないか、上に聞いてみます」

「お願いします」


 これだけ役に立ってるんだから、そのくらいしてくれても罰は当たらないだろうと思う瀧蔵であった。

 翌日には許可が下りて、獲り易くなった方がいいので、先払いで雷属性を一つ融合した。

 やはり、雷撃のコントロールがし易くなった。

 訓練教官が更に三人融合者になったので、馨子がお目付け役で付いて来て、少し深い処まで行くようになった。

 必要ならば地と水も用意すると言われて、幾つか触ってみたが、四人とも合うのがなかった。

 この二つは爬虫類から出易い。


 吹っ切れた感じで仕事をこなしていたら、四か月後にヴィーヴルの詳細が判明した。

外生殖器は全く雌雄同じで、雄は卵巣の位置に精巣があり、子宮膣部が伸長して疑似ペニスになる。

 霊核の大きさは中の上、安全に狩るなら、中の核を五個以上融合する必要がある。


「無理しないようにとなると二年後くらいか。一撃で気絶させて、次の一撃で脳みそ潰さないといけないんだから」

「融合核出るとしても、解剖しないとオスメス区別付かないんじゃね」

「それは核取るのにひと手間掛かるだけだろ。何が来るか判らないから、雄だけ狙えるもんでもなし」

「その雄の核融合しても、人間が同じになる保証もないんですよね」

「そうだぜ。いくらでも問題があるよな」

「正直、俺は、まとも以上に動けるだけでありがたいと思え、な状態だったから、ほんのちょっとでも希望があればいい」

 

 祐利子が高等学校卒業程度試験に合格し、梓と美智代は中卒でいいと言い出し、全員で朝からダンジョンに入るようになった。

 昼食はレーションで済ます。モンスターの生命力を浴びていると空腹にならないが、まともに食事をしないと生存可能域から出られなくなると言われていた。


 瀧蔵がヴィーヴル狩りを目指すのは、国としても好ましいので、融合可能な核を回して、積極的に支援してくれる。

 クジラの先祖にほぼ近い、口吻の長い二百キロを超すモンスター、グジライヌを仮想敵として気絶瞬殺のニ撃で倒していたら、防御力が上がる地属性の、中の下の融合核が出た。

 今まで意識的にニ撃で倒していないモンスターに、融合核を出すのがいるのが判明した。 

 馨子が国からの要請を持ってきた。


「全員特異領域方面軍の遊撃隊員になってくれないかしら。別のダンジョンに申請だけで入れるようになるの。ダンジョン前の駐屯地に泊まれるわ」

「他所に行こうと思わなければ、何もメリットがないような」

「ここだと中の下の数が少ないのね。もう少し奥に行くのはまだ危ないし。国としては瀧蔵さんに、中の上までをニ撃確殺させたいのよ」


 中型以上になると衝撃波の咆哮や、属性のブレスを吐いて来て、危険度が急に上がる。

 中の下の数をこなして強化する必要がある。

 デメリットもないので、馨子を隊長とする、みなし公務員扱いの遊撃小隊員になることにした。

 戦闘の実力と融合した核の数で、馨子と瀧蔵が中尉、他の三人は少尉になった。

 全員でグジライヌの核を融合してから、次の獲物を探す。


「で、どこがいいんです」

「葉山のタカアシワニが中で数がいるわ。威圧の咆哮を吐くだけだから、怖がらなければ大丈夫。トカゲやヘビが多いけど、融合核を出すのも多いの。小の上だけど雷属性のシビレトカゲもいるわ」

「みんな、爬虫類大丈夫?」

「別に」

「はい」

「イグアナきもい」

「タカアシワニはアリゲーター顔よ」

「なら平気」

 

 イグアナもいるかもしれないのだが。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る