第2話 そして、新たな美少女戦士が誕生する

 スピードくじか。融合検査の箱を見た瀧蔵の感想である。

 くじの箱より平たいが、中が見えないようにした箱に手だけ入れる。

 余計に取ったり隠したりしないように腕を捲られ、目隠しもされるので、スピードくじではない。


 手触りではビー玉より少し大きく感じる球がいくつも入っていた。

 ダミーのビー玉も入れてあると聞いたことがある。

 何度か検査をして、融合出来そうな物を絞って行った。

 四日目に、触っていると、指に吸い付く感じがあった。


「一つ、あるようです」

「指を当てて下さい」


 言われた通りにすると、周りの球を退けているようだ。


「離して手を出して下さい」


 数億するものだから、自分では取り出させない。

 担当者は目隠しを外された瀧蔵に、黄色い球を見せた。


「これで間違いありませんか。もう一度触って確かめて下さい」

「はい、これです」

「先にこちらを口に入れて下さい。肉体変換用のエネルギー源です。無理に飲み込まなくても大丈夫です」


 ゴルフボールサイズの透明な霊核を渡される。飲み込める大きさではないので、頬に入れておく。

 黄色い球を渡され、融合を意識すると、暖かさが手の平から全身に広がった。

 痛みはないが、次第に熱くなって行く。それも耐えられないほどではないので大人しくしていると、次第に治まった。


「終わったんでしょうか」


 出した自分の声に高さに驚いた。さっきまでなかった右手がある。


「ゆっくり起きて下さい」


 ナースに促されて起きる。シーツが落ちて、所謂胸部装甲が露わになった。

 全身手術と同じなので、シーツの下は全裸だ。


「我ながら、でかい」

「アンダーが細いから」


 ナースは黙って見ていて、ドクターが答えた。

 手足も細くなっている。動かないと筋肉が脂肪に置き換わる、と言うのはこれじゃない。

 病衣を羽織って、立ってみるが、目線が低い。


「なんか、縮んだんですが」

「脊髄損傷の影響だと思いますが、その辺はよく判っていません」


 特に言う事がないので黙っていると、担当者が話をする。


「病院でリハビリを受けて、問題がなければ訓練所に移ってもらいますが、特に希望はありますか」


 契約の時に色々教えられたが、どこがいいか判る訳がない。


「特に、ないですが」

「では、真鶴をお勧めします。鳥系のモンスターが多いので、渋沢さんの強化に適しています。あなたの融合核は雷属性の鷹でした」

「はい、そちらでお願いします」


 本当に条件がいいのか思惑なのかは判らないが、お勧めにしておくしかない。

 その日の内に運動機能に問題がないのは判ったが、三日入院させられた。

 適応した霊核は適応者が少ない雷属性で、飛行力を得られる雷鷹のものだった。

 翼がなくても飛べる。変身しないと出来ないので、病院ではやらなかったが。


 身長は148センチしかなかった。胸はGカップで、該当するブラジャーはスポーツブラだけだった。

 融合者は垂れないからノーブラでも大丈夫だと言われたが、そうもいかない。今までなかったものなので日常生活では邪魔だ。

 ホテルで戦闘訓練もしていたので、即戦力になれると期待されて、直ぐに訓練所に移るように言われたのだが、流石にホテルには退職の挨拶に行った。

 主任だったが同僚はみんな忙しく働いているので、挨拶は出来なかった。

 笑われる以外の反応が思いつかないので、瀧蔵はよかったと思った。


 真鶴も観光地から特殊保養地になった場所なので、そんなに違わないだろうとの瀧蔵の予測は大外れだった。

 ダンジョンが地続きなので、建物がみんな要塞化していた。

 半島を区切った防護壁の向こうは、百メートルくらいモンスターが隠れられないように、定期的に焼かれて荒れ地になっている。


 入れられた養成所は、中学生の時から融合希望者を育てる中高一貫校を兼ねており、後輩の教育係の経験もある瀧蔵に、子供の面倒を見させる腹だった。

 民間の融合者が生まれて十年以上経っているので、三十代の融合者もいるが、訓練所はほぼ未成年で、四十二歳は世界記録だった。

 そんな世界記録はいらない、と思う瀧蔵であった。


 寄宿舎の部屋に案内してもらって、制服も貰った。

 簡単に脱げるように出来ていて、街中で緊急時に変身して、拾う暇もないと持っていく奴がいるので、GPS発信機が付いている。

 リアル変身少女は、脱いだ普段着が再合成されたりはしない。

 変身すると宝石光沢の薄い膜のボディスーツに装甲が付いた見た目になるのだが、鎧皮ガイヒ(世界標準ではアーマースキン)と呼ばれている皮膚の変化したものなので、実は変身後も全裸だったりする。


「下着どうしますか。紙の使い捨てのパンティなら支給されるんですが」

「ブラは?」

「服に使い捨てのニプレス貼ってます。ブラは変身時に多少抵抗になるので」

「じゃ、紙のをお願いします」


 パンティとニプレスの支給は月六十枚。それ以上必要なら自費で買う。

 半日で替えるのかと思ったが、トイレに行くたびに替える子もいるらしい。

 面倒なので外に出ないと決めた日は、ノーパンの子も多い。

 変身しての練習の時には、脱がなきゃいけないから。

 ホルモンの関係か、女になってしまったのを過剰に意識している精神的なものか、今の瀧蔵はノーパンのミドルティーンに興奮しない。

 子供相手に性的に興奮するのがおかしいなんて建前はいらない。

 ミドルティーンは生物的には子供ではない。興奮しない方がおかしい。

 したがって現在の瀧蔵の状態はおかしい。Q.E.D.


 部屋は家具付きで今日から使えるようになっていたので、引っ越しは楽だった。部屋着にならない服や、靴は捨てて来た。

 落ち着いたら、両隣の子を紹介してもらった。こちらが部屋に入るのは抵抗があるので、案内の人が呼んでくれた。

 右側は西村梓十五歳、左は野分美智代十三歳。


「渋沢瀧蔵です。よろしく」


 男だったのを隠さない融合者をエインヘリヤルと呼ぶ。誰が最初に名乗ったかは諸説ある。


「男の子?」


 野分美智代が聞く。年より幼い、小学生のような雰囲気の子だ。


「子じゃなくておじさん。君らのお父さんより年上かもしれん」

「いくつ?」

「四十二歳。融合時の世界最高年齢保持者」

「世界チャンピオンなんだ」

「しょうもない。なんで今頃」


 西村梓は、反抗期っぽい。


「火鼠に右腕食われて背骨折れた」

「そりゃ、融合するしかないか。こっちにも火鼠いるけど、トラウマになってない?」

「戦えるようになったら、皮ひん剝いてかぐや姫に見せに行く」


 美智代が怪訝な顔をする。


「なんで?」

「今の若いもんは知らんのか」

「その見た目で言っても説得力ないよ。何て呼べばいい」

「瀧蔵だから、適当に呼んでくれ」

「たっちゃんでいい?」

「いいよ」

「あたしはみっちゃん、こっちはアズねえ」


 ファーストコンタクトとしてはまずまずだと瀧蔵は思った。二人がどう思ったかは判らない。

 



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る