第8話 シンボルエンカウント 後編

そこではいろんな話をしてもらった。

姉とXの関係だとか、

Xの好きな食べ物とか今ハマってる事だとか。


交換日記についての話もあった。


・交換日記は夏休みの間だけすること。

・二日に一回、昼までに相手の家に行ってポストにノートを入れること。

・日記は一日に一ページ使って、できるだけ詳しく細かく分かりやすく書くこと。


この話は俺が個人的に日記を書くときのノウハウにも繋がった。



また、Xが俺に質問をしてくることもあった。俺は俺が答えられることであれば、なんでも正直に詳しく答える。

Xはそれをいかにも楽しそうに聞いてくれた。


Xが逆に私に質問はないか、なんて聞いてきたので、なぜ俺と交換日記をしたいのかについて、興味本位で聞いてみる。


Xは咄嗟に目を逸らした。

これは何か悪いことを考えている顔だ。


「うーんと、知り合いの弟ってなんか興味湧くんだよね」


苦笑いするX。そして徐々に俺の目を見る。

おそらくこれも嘘ではないんだろう。

だが、これだけではなかったはずだ。


しかし、当時小学生だった俺は理由なんて嘘でも一つ聞けただけで満足で、疑わず納得していた。

俺の鋭い質問に、Xは困った笑みを浮かべていた。



おそらく一時間くらいが経過したであろう。

最初のほうは俺も知りたいことが知れたし、Xも楽しそうに話をしてくれたので、特に退屈することはなく会話を楽しめていた。

というのも言葉を介してXと会話をするのは、これがほぼ初めてだったのだ。

俺はそれに新鮮さを感じていた。


家で友達と遊ぶときは大体ゲーム。

外なら体を動かすために公園なんかへ行く。


外で座っておしゃべりをするなんて高尚な体験はこれが初めてだった。

これが本物の高学年女子なのか、姉とは違うな、なんて少し尊敬にも近い念を覚える。


楽しんでいたのも束の間、さすがに一時間もただ話すだけだったから、ついに俺はゲームがしたくなってきていた。

少々この状況に飽きを感じてきていたのだ。


もちろんXと話すのが嫌だったわけではない。

でも、どれだけハンバーグが好きだからと言っても毎晩ハンバーグを食べるのはさすがにきついだろう?

それと同じことだ。楽しくても飽きは来る。


そこで、ダメ元で俺はXにゲームしようよ、なんて低学年的で幼稚な提案をしてみる。


「あ、ごめん。そうだよね。ゲームしたかったよね」


Xは何かを思い出したかのように、ハッとした表情を見せたのち、気まずそうな顔をする。

悪事が露呈して反省している猫に似ていた。


「じゃあ、三人で、ゲームしに行こうか」


そう言ってXは俺を連れて俺の家に向かった。




姉は学校終わったあとは真っ直ぐ家に帰ったらしい。

俺が秘密のポストから鍵を取り出し、勝手口の扉を開けると、偶然にもそこには姉が立っていた。

姉はすぐさまこちらへと向かってきて、どこ行ってたの、なんて言いたげな顔をする。

なかなか家に帰ってこない俺を、少々心配していたようだ。


俺はそんな姉を横目に見ながら家の中へと入る。

そして俺の後ろからひょこっと姿を表したXは、軽く姉を驚かす。


「三人でゲームしよう!」


姉はひどく驚いた様子だった。嬉しそうでもあった。

やはり姉とXはとても仲が良いみたいだ。

俺たちは少し大きなテレビのあるリビングへ、少しのお菓子とゲーム機を持って集まった。



三人でのゲームはとても騒がしくて楽しかった。

いつもはお淑やかなXも、ゲームで勝ったときにはおどけて笑っていた。

ゲームが一段落ついたとき、姉が口を開く。


「そういえば、二人は仲直りしたの?」


仲直り? 俺とXが? 

喧嘩した覚えは無いんだけどな。

しかしそう言われる理由はなんとなく分かった。


そう、姉はまだ勘違いをしていたのだ!


Xもそれについて誤解を解く素振りは見せず、気にしてないよ、なんて言わんばかりの苦笑をした。

優しい勘違いが姉から逃げられる日はおそらく来ないだろう。

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