第24話 幼馴染はどこか抜けている…

 夕方頃。高橋良樹たかはし/よしきはファミレスに先ほどまでいた。


 誰と正式に付き合うかは仕切り直しになったのだ。


 よくない方向性になってしまったと、ファミレス帰りの道を一人で歩きながら重いため息を吐いた。


 三人とは店屋の前で別れ、各々の帰路に付いていた。


 本来であれば、由梨と一緒にその後も過ごす予定で計画を立てていたのだが、思いっきり予定が狂ってしまった感じだ。


 どうしよ、これから……。






「ねッ、なんで一人で、こんなところ歩いてるの?」


 住宅街のところまで到達したあたりで、突然話しかけられた。

 その聞きなれた声に反応するようにパッと振り返る。


 そこには、買い物袋を手にしている幼馴染――中野彩芽なかの/あやめの姿があった。


「……何となく」


 良樹は住宅街の道を歩いている途中で、丁度帰る予定でいた。彩芽もスーパーの帰りなのだろう。

 スーパーではかなりの量を購入したのだと思われる。


「一緒に帰る?」

「まあ、途中までは」

「じゃ、帰ろ」


 彩芽が良樹の隣までやって来た。

 彼女のおっぱいが右腕に接触する。


 変なことにならないように良樹は感情をコントロールし、彼女と共に横に並んで歩くことになった。


「良樹ってさ、あの子と一緒じゃないの? 私があんだけサポートしてあげたのにさ」

「ごめん。アレは無しになったというか」

「なんで?」


 彩芽は驚くような顔を見せた。

 そして、考え込んだ顔つきになる。


「いい感じだって、あの子からはメールとかで聞いてたんだけどね」

「まあ、放課後になるまではね。俺の早とちりというか、色々と約束を守っていなかったようで仕切り直しになったんだよ」

「仕切り直しって、意味が分からないけど。今日の告白は意味がなかったってこと?」

「そうなるかもね」

「もー、私があんだけ協力してあげたのに。意味ないじゃん。どうするの?」

「どうって……」


 俺も困惑しているくらいなのだ。


 すべては自分の責任であり、こうなってしまったからには、もう一度、由梨に告白する方法を考えるしかないだろう。


「じゃあ、私のところに来る?」

「え?」

「今日は一緒に相談会でもするって事。あんなに用意して失敗するくらいなんだから、重点的に話し合った方がいいでしょ?」

「……それは……」


 良樹は悩み込んだ後、彩芽に再び協力してもらうことにした。


 自分一人ではどうする事もできない。


 また、面倒ごとになってもしょうがないというか。再度、あの三人から選ぶって事なんだけど、自分の想いは今のところ由梨から変わっていない。


 しかしながら、当の由梨は告白の仕切り直しということで、良樹に対し、不快感を抱いているところが目立つ。


 こんな状況から、由梨に告白するにしても難しい。

 以前よりも難易度が格段に上昇していると思う。


「そんな難しい顔をしてさ。やっぱ、私の家に来なよ。その方がいいでしょ?」

「そうだな。その方がいいかもな……」


 彩芽は優しく誘ってくれていた。


「……でもさ、迷惑なんじゃ?」

「問題ないよ。今日は親が帰ってこないし、私一人しかいないしね。だから、さっきスーパーで今日の分を買ってきたわけなんだけど」

「そうなんだ。じゃあ、二人っきりってことか」

「そうなるね。良樹がそれでいいなら、来なよ。私が料理を作ってあげるから。私さ、結構実力が昔よりも格段に上がってるし」


 彩芽は家で一緒に話そうよ的な感じで誘ってくる。

 料理にも自信があるようで、その話し方的に昔よりも上達しているのだろう。


 彩芽の家に行くことにはしたが、別に、幼馴染と二人っきりというところに反応しているわけじゃない。

 ただ、相談にのってもらえるから、誘いを受け入れようとしただけだ。


 ――と、何度も自分の心に言い聞かせ、自己暗示をかけていた。






「じゃあ、勝手にあがってさ。リビングのソファで座って待っててよ」


 彩芽の家に到着するなり、彼女は気さくな感じに話しかけてくる。

 彼女は買い物袋を手にしたまま、さっさとキッチンへと向かって行った。


 良樹は玄関で靴を脱ぎ、リビングへと向かう。そこの大きなソファに腰を下ろした。


 久しぶりに彩芽の家に訪れ、あっさりとリビングを見渡す。

 そこまで変わっていない。

 以前来たのは、確か高校一年生の冬休み頃だったはずだ。


 幼馴染と一緒の空間にいると、不思議と気が楽になる。

 それは昔から関わっているからで、慣れ親しんだ関係だからこそ相談しやすいし、心にゆとりができるものだ。




 それから数分後。

 ソファに座って待ってると、キッチンの方から料理の匂いがリビングへ届く。


 ハンバーグでも作っているのかと思い、キッチンの方に向かうと、彼女はテーブル上に皿を広げ、盛り付けを施していた。


「ハンバーグだよね?」

「そ、そうだよ」

「そんなに早くできるものなの?」

「え? ま、まあ、そうだね。私は事前に作ってたから」

「作ってた?」


 どういうことだと思う。


 スーパーで購入して、今から作っていたわけじゃないのか?


 そんな微かな疑問が頭に浮かんでくる。


「ま、まあ、いいからさ。一応、準備できたわけだし。それ、リビングのテーブルに持っていきなよ」

「……」


 刹那――、良樹の目先には、ごみ箱に入っているレトルトのハンバーグの袋があった。


「もしかしてさ、レトルトのやつ?」

「……まあ、別にいいじゃん! なんかね、材料を買い忘れてたの。ひき肉とか」

「それ一番重要なものじゃ……」

「だけど、あんなに自信満々に言っておいて、買いに戻るっていうのも違うかなって」

「だから、レトルトにしたのか」

「そう……そんな細かいことは気にしないでさ。一緒に食事しよ。私の力作は、あとで食べさせてあげるから!」

「まあ、いいんだけどさ」


 良樹は昔から変わっていないと思った。


 どこか抜けているところが、幼馴染らしい気がする。


 そんな想いを抱いて、良樹は幼馴染の夕食の手伝いをすることにした。


「あと、何をすればいい?」

「ご飯とかよそっておいて。味噌汁もレトルトでもいい? それでいいなら、味噌汁のレトルトが冷蔵庫の中に入っていると思うから」


 良樹は彩芽の指示に従って一緒に手伝う。


 昔みたいな気がする。


 互いの両親が帰ってこない日は一緒に、どちらかの家で夕食を共にしたことを思い出していたのだった。

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