第20話 やはり、あの子しかない…

 高橋良樹たかはし/よしきは今、家の中にいる。

 昨日は色々なことがあったものの、今日は比較的、平凡に暮らせそうだった。

 だが、まだ大きな問題を抱えており、良樹にとっては、明日からが何かと大変だったりする。


「これ、どうすればいいんだよ……」


 藤井由梨ふじい/ゆり

 宮崎五華みやざき/いつか

 ナギ。


 その三人の内、誰に告白するか。今後の人生形成において、その決断が大きく関わってくるだろう。


 今や、人生の分岐点に立たされている状況であるのは明白だった。

 だからこそ、先ほどから悩んでいるのだ。






「ねえ、昨日の遊園地はどうだった? あの子と一緒に行ってきたんでしょ?」

「楽しかったには楽しかったけど」


 良樹が三人の事で深く悩みこんでいる際、数分ほど前に幼馴染である中野彩芽なかの/あやめが自宅に訪れていたのだ。

 いつも通り、自室にて、良樹は勉強机前の椅子に座り、彩芽はベッドの端に座って、やり取りをしていた。

 幼馴染と会話していると、関わり慣れた存在だからこそ不思議と気が楽になる。




「あとさ、あの子とは仲直りは出来た感じ?」

「多分……」

「多分って、曖昧な返答ね」

「しょうがないだろ。五華と一緒に遊んでいる時に、乱入者的な人がいたんだからさ」

「誰か来たの?」

「そうだよ。由梨さんとか、ナギって子が」

「へえ、そうなんだ」

「でもさ、意味が分からないんだよな。なんで、あの時、奇跡的に一緒の時間帯になったのかさ」


 良樹はサラッと不満を告げた。


 まさか、こんな偶然なんてあるのかと、良樹からしたら今でも驚きが勝っているくらいだった。


「大変だったね」

「まあな。そういう色々なことがあって、五華とは関係性が良くなったかって言われると、少し怪しいけどな。それより、明日までにやることがあって」

「どんな事?」

「告白することになって」

「誰に?」

「まだ、ハッキリとは決まってないけど。由梨さんとか、ナギとか、あとは五華か」

「じゃあ、その告白が決まったら、ようやく恋人ができるってことね」

「そうなるな。でも、下手には行動できないし。それで悩んでるっていうかさ」


 告白するだけなのだが、誰に告白するかで未来が変わる。

 だからこそ、慎重になっているのだ。




「その三人から選ぶって事ね。明日までなら早く決めないとね」

「まあ、そうなんだけどさ」

「実際のところ、誰がいいと思ってるの?」

「それは……」


 良樹は唸りながら長考する。


 ふと、昨日の事がフラッシュバックする。

 三人と遊園地で遊んだこともそうなのだが、一番印象深いのは、由梨と街中へ下着を買いに行った時だ。


 あの時、由梨はテンションがおかしくなり、混乱していて感情任せにおっぱいを見せてきたのだ。


 しかも、試着室という狭い場所であり、身動きが取れなかった。


 由梨は女の子としての最大級の武器を使って誘惑してきたのである。


 本音で言えば、嬉しかった。


 まさか、あそこまで大胆な言動をすると思ってもみなかった。

 他の二人に向けられた想いを、全て自分の方に向けさせるという最終手段として、見せてきたのだと思う。

 その結果――、今でも鮮明に由梨のおっぱいは脳裏に焼き付いている。


 あんなにヤバい状況ではあったが、クラスメイトの女子らにはバレなかったことが最大級の奇跡だった。




 やはり、爆乳が正義なのだろうか?


 三人とは色々なことがあったが、やっぱり、付き合うなら爆乳の方がいいのかもしれないと思った。


 高校入学当初から、由梨のことが気になっていたのだ。

 彼女しか選択肢はない。




「由梨さんにしようと思ってるんだけど……」

「あの子に? じゃあ、私が手伝ってあげるよ」

「どういう風に?」

「告白しやすい時間帯をセッティングしたりとか。それに同学年だし、準備するのは簡単だよ」

「いいのか?」

「だって、ようやく恋人ができるんでしょ? 幼馴染として応援しようと思って」


 彩芽は親切すぎると思う。


 けど、そうするしかないと思っていた。


 なんせ、由梨がおっぱいを見せてきた昨日から、彼女からの連絡がまったくない。

 良樹の方からメールを送っても、何の返答も返ってこないほどなのだ。


 考えられる事として、勢い任せにおっぱいを晒してしまい、冷静になった頃合いに物凄く恥ずかしさが込みあがってきて、距離を置いているのだと思われる。


 明日、学校で出会っても恥ずかしさのあまり、彼女と視線が合っても、さらに距離を取られるかもしれない。


「じゃあ、お願いするよ。その方が助かるし」

「OK! じゃあ、今日中に、あの子に連絡をしておくから」

「うん、頼むよ」


 彩芽がいて助かったと思う。


 これで一安心だと思い、ホッと胸を撫で下ろしたのだった。






「あのさ、今から外に出ない?」


 一旦、悩み話に決着がつくと彩芽から誘われる。


「私、今日は良樹と一緒に食事をしようと思って来たんだよねー、この前さ、私がバイトを紹介したじゃない」

「そうだね」

「だから、奢ってほしいなって。さっきも相談にのったんだし、いいでしょ?」

「そういう約束だったからな。別にいいよ」


 良樹は椅子に座ったまま、勉強机の中に入っている財布を取り出し、その中身を幼馴染に背を向けた状態で確認する。


「……」


 財布の中には、二〇〇〇円しかなかった。


 今から外食とかしたら終わってしまうだろう。

 だが、明後日には、毎月一回のお小遣いを貰える日であり、明日まで堪えれば何とかなるはずだと、頑張って結論付けた。




「……うん、大丈夫だよ。今から一緒に行こうか。どういう場所がいい?」

「だったら、この近くにファミレスがあるじゃん?」

「近場でいいの?」

「そんなに遠くなくてもいいよ。明日学校だし、そんなに遠出はしなくてもいいかな。あとで、十分な時間が取れると思うし」

「え?」

「んん、なんでもないよ。じゃ、行こ!」


 そう言い、彩芽はベッドの端から立ち上がると、良樹の部屋から出る。


 二人は自宅の階段を下り、玄関の外に出ることになった。


 あとで十分な時間を取れるとはどういうことなのだろうか?


 良樹は疑問が残ったまま靴を履いていた。


 外に出るなり、話題を振ってくる幼馴染と共に、ファミレスへと向かって行くことになったのだ。

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