第11話 俺は三人の美少女と修羅場になっている

「ねえ、どういうこと?」

「ちゃんと話してくれないと納得できないんだけど」


 高橋良樹たかはし/よしきの視界に映る私服姿の二人の美少女。

 私服からは胸の膨らみが強調されているのだ。

 目の保養にはなるのだが、今はそんなことを考えている余裕などなかった。


 なんせ、その二人から、今まさに尋問されている最中なのだ。


 まさか、遊園地で、クラスメイトの由梨と、メイド喫茶で働いていたナギと出会うことになるとは――


 予想外過ぎて、良樹は体を軽く震わせ困惑していた。




「私も知りたいんですけど。これ、どういうことなんです?」


 後輩の宮崎五華みやざき/いつかからも問い詰められる始末。


 三方向からの疑いの眼差しを向けられ、良樹は後ずさるしかなかった。


 藤井由梨ふじい/ゆりにも伝えていないし。ましてや、メイドのナギにも、今日、この遊園地で遊ぼうとも約束していないのだ。


 な、なぜ知ってるんだ?

 たまたま、遊園地で遭遇してしまっただけなのか?

 でも待てよ……。


 だがしかし、それはおかしいと内心思う。


 普段生活している街中から大幅に離れた場所にある遊園地。

 休日であれば、色々なお店が選択肢にある中、この場所を選ぶというのは考え辛い。

 誰かに仕組まれているとかなのか?


 本当にたまたま、この遊園地で出会ってしまったというのも考えられる。

 が、だとしたら、なぜ、由梨とナギはやって来たのだろうか?


 普段から休日を使い、この遊園地を利用していたりするのか?


 良樹の脳内に様々な憶測が飛び交うのだ。






「えっと……逆に聞きたいんだけど、二人はどうしてここに? 休みの日に良く遊びに来るのかな?」


 一先ず質問してみた。


「私は、たまたまだけど」

「私も時間があったから今日来ただけ」


 そ、そんなことってあるのか?


 由梨もナギも同様のことに驚く。


 たまたまで、偶然に、この遊園地で接点を持つことになるなんて、奇跡としか言いようがなかった。


「それより、話をそらさないでくれない?」

「そうよ。私は今、あなたに聞いてるんだから!」


 由梨とナギから、さらに突っ込んだ話を求められるのだ。


「良樹先輩。本当は、藤井先輩に言ってたんですね。二人っきりだと思って、楽しみにしてたのに。最悪ですね」

「ごめん。そのつもりではなく……」


 遊園地の中心部にて、四人が集まっているのだ。


 次第にお客の数も増えてきたことも相まって、周りからの視線が強く心に突き刺さるようだった。


「この場所じゃなくて、別の場所に移動しようか。そこで話そう。ね」


 良樹は強引にも、真剣に話すという名目で場所移動を提案した。


「わかりましたけど」

「ちゃんと説明してくださいね」

「良樹先輩! 嘘はつかないでよ」


 三人の美少女から囲まれ、逃れられない運命に今、追い込まれているのだった。






「では、注文は以上ですね」

「はい。そちらでお願いします」


 メイドのナギは、遊園地内の飲食店スタッフに相槌を打っていた。


 一応、四人は店内のテーブルを囲うように座っている。

 丁度注文を終え、少し早めの昼食時間となったのだ。


 本来であれば、後輩と二人だけの空間で、比較的平穏な時間を過ごせると想定していた。お金の出費も極限状態まで抑え込むことができるとスケジュールを立てていたのである。


 だが、今から色々な事情についての説明のような、尋問のような取り調べを受けることになり、一気に財布が寂しくなったのだ。


 あんなに、羞恥心を抑え込んで女装までしたのに……。




「では、どうして、そちらの子と一緒にいたんですか? 説明をお願いします」


 良樹から見て、左側の席に座るナギが淡々と司会者のように、この場を仕切り始める。


「それは、五華とは元々約束があって」

「どんな約束ですか?」


 ナギはさらにグイグイと言葉攻めしてくるのだ。


 こういう時はなんて言えばいいのだろうか。

 五華の下着を見てしまったということを伝えるべきなのだろうか?


 そういうわけにもいかないし。単なる変態だと思われてしまいそうで怖い。




「言えない事でもあるんですか?」


 ナギの問いに、良樹は唇を噛みしめてしまう。


「この人はですね、私の下着を見たんです。だから、その責任の一環として、一緒に来たんです。そうですよね、良樹先輩?」


 右隣にいる後輩は、ニヤッとした笑みを見せる。

 彼女が言っていることは正しい。

 だが、そういう事情は言わないでほしかった。


「へええ、この子のを? もしや、そういう性癖の持ち主なんですか?」

「違う。断じて違うんだ! これはたまたまであって」


 周りからの怪しむ視線を感じた。


 良樹はナギに対し、周りからの視線をかき消すかのように、誤解を解こうと必死だった。


「変態なんですね」

「たまたまなんだ。そういう状況になってさ」

「でも、私の時は、揉みましたよね?」

「それはしょうがないというか。不可抗力なんだ」


 ナギは何もかも、すべてを晒すような口ぶりだった。


「揉むってどういうことですか?」


 良樹がいるテーブルの反対側。その席に座る由梨が疑問形で話しかけてくる。


「それは――」

「私を押し倒して、胸を揉んだことがあったんです」


 ナギが全てを晒す勢いがあった。


「良樹先輩……それ、普通に変態行為ですからね!」

「……良樹君って、そういう人なのね、やっぱり。私の下着姿も見たくらいだし」


 もう隠せないと思う。


 由梨からもジト目で見られ、終わった。もう自分は変態なのだと、自覚しなければいけないと痛感したのだ。






「……俺、今日は皆の分を奢るから、もう今日で許してもらえないか?」


 奢ることでしか責任を取れないのはどうかと思う。

 しかし、それしかやり口がないのだ。


「まあ、責任を取るために、この場所にいたということは分かりましたけど。でも、ハッキリとしてほしいですね」


 ナギは、暗い表情を見せる良樹をまじまじと見つめてきていた。


「だからですね、今回の件はしょうがないとして。私らの中から一人を選んでほしいんですけど。私、不安定なまま、あなたとはいたくないので」


 ナギの一言により、由梨と五華の表情からも真剣さを感じた。


 これは責任を取る一環として、本命彼女を決めてほしいということだろう。


 確かに、責任を果たしたとしても、複数の女の子と接点を持っていたら、また別のところで問題が生じてくる。

 ナギなりの対策手段なのだろう。


 今後の生活のためにも、いつまでもごちゃごちゃと悩んではいけないと思った。


 だから、良樹は一先ずナギらに対し、承諾するように頷いたのである。

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