第26話 吐露

「は〜い、皆お疲れ様。よくここまであたしについて来れたわね。脱落者ゼロは正直予想外よ」


県大会前日。おばさんは部員を集めこれまでの過酷な特訓の日々を労った。部員の目は自信に満ち溢れている


「でも、あたしに褒められて調子に乗るんじゃないわよ。県大会突破は最低限の義務。全国大会優勝でようやく結果を出したといえるわ」


これまでにない目標設定に部員達は息を呑む。


「あんた達が全国で通用するように、あたしはあたしの知る全てを教えた。だから後はあんた達が結果で証明するだけよ。いいわね?」


「はい!」


力の籠もった返事が格技場に響く。


「今日は休みにするわ。明日の為にしっかりコンディション整えなさい。それじゃ〜解散!」


各々が格技場を去っていく。


「先輩!稽古をつけてもらえませんか?」


俺は支度をする剣持先輩に声をかける。


「神谷。そう根を詰めるな。明日に備えよう」


「そっそうですか…………」


明日が最後かもしれない…………そんな俺の心を察していたのか、剣持先輩は普段通りの先輩だった。


「私はやるだけのことはやった。たとえどのような結果が待っていようと悔いはない」


「先輩…………」


「唯一気がかりな事といえば、貴様達だ」


「俺達?」


「結局私は、剣道部存続の為に剣道に興味の無い貴様達を己が都合で巻き込んでおいて、何も先輩らしいことはしてやれなかった」


「……………」


「貴様の熱意も利用し、高野先生の尽力すら利用し、全ては己の為に、己の目標を達成する為に利用して、何もこの部に残せていない…………そう思ってるんだ。すまない」


「……………先輩も見立てを外すことあるんですね」


「どういう意味だ?」


「俺は少なくとも俺の為に剣道をやってますし、他の先輩達も最初は知りませんけど、今は自分達の為に剣道やってると思いますよ」


「神谷…………」


「それに何も残せてないって決めつけるのは早いですよ!先輩はこれから全国大会優勝って置土産を残してくれるんですから」


「……………そうだな。これから私はこの剣道部の歴史を創るんだな」


「はい」


「ありがとう優太。気持ちが軽くなったよ」


「いえいえ」


「さぁ、帰ろう。明日は私だけじゃない。優太も歴史を創るんだ」


「そういうことでしたら、わかりました」



先輩と校門を出ると女子生徒が校門の前に立っていた。


(優美ちゃん…………)


「……………また明日な優太。期待しているぞ」


剣持先輩はそう言い残して先に帰って行った。


「どうしたの優美ちゃんこんなところで?」


「優太くん!?お疲れ様……………雪子さんが帰る姿見たけど、優太くんは練習してたの?」


「そのつもりだったけど、先輩に止められたよ」


「そっか……………良かったら一緒に帰らない?」


「……………うん。いいよ」


いつぶりだろうか、優美ちゃんとこんなにも気まずい空気の中一緒にいるのは


お互い足だけは前に進む。


「あのね優太くん」


重い空気を打開しようと一手を打ったのは優美ちゃんだった。


「ごめんなさい」


まさかの謝罪が第一声だった。


「あの時身体を張って優太くんは私を守ってくれたのに、ちゃんと御礼すらして無かった」


「……………気を遣ってくれたんでしょ?」


「!?」


「カッコつけて前に出たはいいけど、ボロボロにされて。ちゃんと守れなくて、先輩に助けてもらって事なきを得た。あの時の俺、優美ちゃんの前に立つこと事態が恥ずかしくなってた。」


「優太くん…………」


「だからありがとう。気を遣ってくれて。距離を置いてくれたお陰で弱い自分と向き合えて。今こうして優美ちゃんと自信を持って向き合えるんだ」


「……………」


「だから、明日からの大会を良かったら観に来てよ!新しい俺を優美ちゃんに見て欲しいんだ!」


「いいの?」


「勿論」


「…………嬉しい。ありがとう」


「優美ちゃん?」


「何度も優太くんの練習してる姿を見たかったけど、あれ以来全く話せなくなっちゃったからなんだか見に行きずらくなってて、そんなこと考えたら余計声をかけにくくなってて…………そう言ってくれて嬉しい」


「うん」


「ありがとう優太くん。許してくれて、応援行くね!」


「ありがとう優美ちゃん」


丁度立ち止まった帰りの分かれ道互いに背を向けるも不思議と悪い気はしなかった。

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