もしも四天王が全員転生者だったら?~他の3人のキャラがなんか変だけど、協力すれば勇者パーティ倒せるよね!?~

尾藤みそぎ

第1話 四天王転生

 氷結皇ひょうけつこうゼレン。


 魔王軍四天王の1人。


 雪男スノーマンというパッとしない種族ながら、冷気を操る能力と優れた格闘技術で四天王に抜擢された若き闘将。


 いわゆる下克上タイプの猪突猛進キャラだ。


 作中では最初に戦うことになる大ボスであるが、その一方で四天王最弱ポジションのやられ役でもある。

 実際プレイ時も大して印象に残らないイベント戦みたいな手ごたえのなさであり、その雑魚っぷりから攻略サイトでもネタにされるほどだった。


 それがどうだ。今となってはまったく笑えない。


「なんでよりによって、俺がそのかませキャラにしちまってんだよおおぉ!!」



 -----



 進級してからの生活にもすっかりなじんだ高校2年の秋。

 いつもの通学途中で事故に遭った俺は、どうやら最近やっていたゲームの世界に転生してしまったらしい。


 しかも、主人公とかではなく、敵側のボス。四天王になるというありさまだ。

 おまけに、この世界はゲームのシナリオ通りに動いているらしい。


 俺は今まさに、四天王として勇者討伐の作戦会議に招集されている。

 このままでは主人公に返り討ちに遭って再び命を落とすことになるだろう。


 転生して速攻で死亡ルートなんて冗談じゃない!

 なんとかして破滅の運命を回避しなければ。


 そんなことを考えながら、俺は会議室の扉をくぐった。


「遅いわよ、ゼレン。ワタクシを待たせるなんてどういう了見かしら?」


 開口一番、甲高い声でまくし立ててくる女がひとり。


 紅蓮姫ぐれんきベロニカ。


 四天王の紅一点。見た目は若く麗しい美女であるが、その正体は赤竜ファイアドラゴンである。

 たいそうな自信家で、高飛車な性格が玉に瑕だが、その実力は本物だ。


「うるせぇな。遅れたわけじゃねーんだから、そんなに吠えるなよ」


 俺は慎重に言葉を選んで返答する。

 全然選べてないように聞こえるかもしれないが、それは当然だ。

 これがゼレンのなのである。


 他の四天王に不審がられては、なにが起こるか予想もつかない。

 できるだけ、作中のキャラを演じて四天王に溶け込む必要がある。


「相変わらず生意気ね。まぁいいわ。会議なんて早くすませたいの。さっさと始めましょ」


「いいのか?まだソウマが来ていないみたいだが」


「……無限卿むげんきょうは欠席だ。これで揃った。会議を始めるぞ」


 ぽつぽつと独特の語り口で俺たちの会話に割って入ったのは、巨大な体躯たいくの悪魔だった。


 雷帝らいていオルガノフ。


 四天王最強の上級悪魔グレーターデーモン。漆黒の鎧を身にまとったその巨体は見るからに威厳たっぷりだ。口数は少なめだが、それがかえって威圧感を増している。

 単体での戦闘力は群を抜いており、勝ち気な他の四天王も彼には頭が上がらないという設定だ。


 俺は適当に悪態をつきながら、席につく。ベロニカも大人しく従った。


「議題は伝わっているな」


 オルガノフの簡潔な問いにベロニカが応じる。


「勇者討伐の作戦会議だったかしら?くだらないわね。誰かが戦って倒せばいいだけじゃない」


「ではベロニカ。オマエが行くか?」


「別に構わないけど、いいの?ワタクシが手柄を独り占めしてしまうわよ?」


 ベロニカが挑発するようにこちらへと目線を滑らせる。


 やはりゲームのシナリオ通り、放っておいたら四天王は協力せず単騎で勇者に挑む流れになるようだ。


 しかも、本来ならここで出世欲の強いゼレンこと俺が一番手に名乗りを上げて最初に散ることになっている。


 手を上げないこともできるが、それでは一時しのぎにしかならないだろう。


 ならば、ここは勝負に出るしかない!


「別に1人で行くことないんじゃね。四天王全員で戦えば楽勝だろ?」


「「え?」」


 2人は間の抜けた声を上げてこちらを見た。

 そのまましばらく沈黙が続く。

 まるで時間が止まったかのような間が会議室を支配する。


 シナリオに反する発言をしたわけだから、ここからは完全にアドリブで乗り切らなければならない。じわりと頬を汗が伝う。生唾を飲み込み、覚悟して反応を待つ。


「な、なにを言っているのかしらぁ?まさか、1人で倒す自信がないとか?アナタがそんな臆病者だったとは知らなかったわねぇ」


 やはりというべきか、ベロニカからツッコミが入る。

 そりゃそうだ。ゼレンは一匹狼キャラだから本当ならこんな提案するわけないもんな。


「ちげぇよ!」


「だ、だったら理由を言ってみなさいよ!」


 追及されて言葉に詰まる。なんとか理屈をこねて返答を絞り出す。


「あー、なんつーか……。一緒に戦えばお前らにも俺の実力を見せつけられると思ったんだよ!」


「苦し紛れのいい訳ね!実力を示したいならまずワタクシに勝って見せて欲しいものだわ」


 そう言うや否や、ベロニカの全身から凄まじい熱気が吹き出す。

 一瞬身構えるが、そこでオルガノフの視線がベロニカを射抜く。


「待て。ベロニカ。私闘は見過ごせん」


 オルガノフはベロニカを遥かに上回る魔力を瞬間的に発した。

 ビリビリと大気が震え、ベロニカは肩をびくつかせる。


「っ……、しかたないわね」


 オルガノフの制止を受けて、ベロニカはおとなしく言葉を飲み込んだ。


「ゼレン。共闘とはオマエらしくない。が、悪くない提案だな」


 怪しまれてはいるが、オルガノフは理解を示してくれている。

 これはありがたい。そう思った矢先。


「そこでだ。まずはオマエたち2人で勇者討伐に行ってもらおう」


「「え?」」


 今度は俺とベロニカの声が重なった。


「ちょ、ちょっと待って?なんで行かなきゃならないのよ?」


 ベロニカは突然怯えたように真っ青な顔で反論した。

 ん?なんでそんなに怖がってるんだ?君、そんなキャラだったっけ?


「……?さっきは構わないと言っていたはずだが」


 オルガノフも不思議そうにしている。


「……!それはっ……、そうだけどぉ」

 

 ベロニカはなおもなにか言いたげだが、すっかり押し黙ってしまった。


 それはそれとして、俺にも疑問がある。


「オルガノフ、全員で行くんじゃないのか?」


 俺の問いに、オルガノフはパッとこちらを見た。


「うむ、は――、あっ……」


 ん?


「ゴホンッツ!!ゴホッゴホンッ!」


 オルガノフは大げさに咳き込むと、姿勢を正して改めて口を開いた。


「ワ、ワシらは共闘経験がない。下手に人数が増えれば逆に力を発揮できないやもしれん。特に、ワシの技は周りを巻き込みかねんのでな……」


 なんか今、少し喋り方おかしくなかったか?


 ……まあ、それは抜きにして理屈は分かる。


「なるほど?だからこの場にいる俺とベロニカの2人だけで行けということか」


「そうだ」


 とりあえず、1人で勇者に挑むよりは全然マシだ。


「俺は賛成するぜ」


 ベロニカの方を見ると、彼女は燃えるような赤髪をくるくると弄びながら不服そうに顔をしかめている。


「ま、まぁいいわ。ワタクシの足を引っ張らないでよね。ゼレン」


 そっちこそ、と軽口を返すとオルガノフが1つ咳払いをした。


「異論はないな。では最後に。勇者の実力は未知。2人とも危険を感じたら無理はしなくていい。生きて帰って来てくれ。以上だ」


 おや?


 普通に頷きかけたが、かすかな違和感に疑問符が浮かぶ。

 

「……ありがたいお言葉どうも。でも、どうしたの?生きて帰って来いだなんて。いつもの口癖と真逆じゃない」


 ベロニカがいぶかし気に目を細めながら俺の気持ちを代弁してくれた。


 そうだ。ゲームでのオルガノフは『魔族に敗走はあり得ない』との主張を貫き通す、無慈悲な実力至上主義のキャラなのである。


 勝ちよりも生き残ることを優先させるような情に厚いタイプではなかったはずなんだ。


 と、オルガノフが手をワタワタさせてうろたえ始めた。


「あっ、それは、そのだね!オマエたちには勇者の力を見極めて来てもらいたいからなのだ!そう、威力偵察というやつだよ。無論、すぐにでも勝てるのならそれに越したことはないがな!」


 さっきまでとは別人のように、やけに早口で主張を語るオルガノフ。

 急にどうしたんだ?


 まあ、そういう戦略だというのなら納得はできる。

 それに、偵察というていにしてくれるなら、逃げる選択肢が増える分俺としてはむしろありがたいくらいだ。

 

「……まあいいわ。じゃあ、これで会議は終わりね?」


 ベロニカもそれ以上深くは突っ込まず、気だるげに席を立つ。


「うむ!健闘を祈る」


 オルガノフのやや棒読みな号令を最後に会議は終結。

 かくして、俺とベロニカは勇者との戦いに挑むことになった。


 もちろん、ここでやすやすと死んでやるわけにはいかない。

 覚悟してろよ、勇者どもっ!!




 ———————————

 あとがき


 次話はベロニカの視点で、彼女がなにを思っていたのかが判明します。

 四天王の演技の裏側を想像しながら楽しんでもらえると幸いです。


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