第11話 正直相手がガキだと思って遠慮してました。もう武器を使います①

 俺が町で仕事を始めてから10日が経った。


 できた資金はとりあえず5万。

 最近はさらに起床が早まって8時には目が覚めるとはいえ、午前しか働けない割にはまあまあ稼げた。

 それもこれも時給がいいおかげだ。


「こんだけあれば何かしら買えるだろ」


 というわけで、俺はついに武器屋へやってきた。


 裏路地にある、剣を模した看板が吊るされた小さな店舗。

 武器を扱っているだけあって、どこか雰囲気が物々しい。ちょっと圧倒される。

 どうしよう、店主がスキンヘッドのヤクザみたいなオッサンとかだったら……ちょっと怖くなってきた。


 今更だけど普通に武器屋ってあるんだな。さすが異世界だ。

 まあでもモンスターが出る世界なら不思議じゃないか。むしろ必需品なのかも。


 というか日本が平和すぎるだけで、元の世界でも海外行けば買おうと思えば買えるしな。

 うん、よゆーよゆー。案外若いお姉さんが出迎えてくれるかもしれん。


「……よし」

 意を決して扉を開ける。


 カランカラン。


「……いらっしゃい」

「…………」


 スキンヘッドのヤクザみたいなオッサンだ……!!!


 カウンターにいた店主とおぼしき男性は、いかにもザ・武器屋という屈強且つ無骨なスキンヘッドだった。

 ちなみに読んでいた新聞から顔を上げたとき、一瞬日の出みたいだなと思ってしまった。口が裂けても言えんけど。


「ど、どうも」

「む。あんちゃん、初顔だな」

「あ、はい。なんなら武器屋に来たのも初めてで……」

「……なに?」

 店主の眉が吊り上げる。

 うっ。やべぇ、なんか気に障ったか……? 素人が来んじゃねぇ、みたいな。


「こんなご時世に武器が欲しいなんて、アンタ変わってるな」

「え?」

 変わってる?


「世間じゃ勇者が魔王を倒しちまったからな。ここいらじゃもうモンスターも出やしねぇ。おかげでこっちは商売あがったりよ」

 ああ、なるほど。そういうことか。

 たしかに平和になった後に武器を買いに来るってのも妙か。


「ま、いいや。オレにとっちゃありがたい限りだ。サービスするぜ」

 おお、よかった。なんだ、意外といい人っぽいじゃないか。


「で、どんな武器をご所望なんだ?」

「生意気なメスガキによく効くような武器をひとつ」

「いやない。というかやけに限定的だな」

「……すいません。冗談です」

 いかんいかん。つい感情が先走ってしまった。


 さて、どんな武器がほしい……か。


「う~ん……」

 いざ聞かれると困るな。

 ゆーて武器なんて使ったことないし。妄想だけなら剣の達人なんだが……。


 く、もっとちゃんと考えてくればよかった。

 いっそビームライフルとか言ってみるか……? いや、ないか。つーか怒られそう。


 ダメだ、浮かばない。

 こうなったら……。


「そうですね……なにかオススメってありますか? できれば素人でもうまく使えるやつで」

「ああ、そういや初めてっつってたか。たしかに兄ちゃん、あんま戦うって感じに見えねぇもんな。わかった、ちょっと待ってな」

「お願いします」

 うん、これでいい。餅は餅屋と言うしな。

 素人が小手先の知識と妄想で口を出してもロクなことにならん。


 俺は意気揚々と奥へ引っ込んだ店主を待つ間、店の中を観察することにした。


 改めてみると、すごい数の武器が飾られていた。

 剣、槍、斧、ハンマー。鞭や鎖鎌なんてのもある。選り取り見取りといったところだ。

 ただ、これはやはりというか、どうやら銃はなさそうだった。この辺は元の世界との文明の差を感じる。

 はてさて、この中のいったいどれが俺の武器となるのやら。


 素人にオススメとなると、いったい何が出てくるのだろう?

 槍あたりだろうか? 剣が槍に勝つには実力の3倍が必要と言うし、やはりリーチは正義だ。

 でも、そういう意味では鞭や鎖鎌という線もあるな。


 鞭か。結構いいかもな。いかにも生意気なガキのお仕置きっぽい。お尻ぺんぺんの強化版、みたいな。

 フフ、なんだか想像してたら楽しくなってきた。


「待たせたな」

「!」

 お、帰ってきた。


 木箱を抱えた店主が店の奥から戻って来る。

 思ったより小さい。少なくとも槍ではなさそう。


「見つけたぞ、兄ちゃんにピッタリの武器」

「ピッタリ……」

「ああ、ピッタリだ」

 なんだろう……ワクワクしてきた。


 店主の力強い言葉に、自然と期待感が高まる。

 俺はカウンターに置かれた木箱を覗き込んだ。


「こ、これは……!」


 そこにあったのは――。




「……ブーメラン?」

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