第2話 死んで…………ないっ!?

 次の日。

 目を覚ますと、俺は草原にいた。


 どことなく見覚えがあると思ったら、この世界に初めて来たときと同じ場所だ。

 あのときも真上に昇った太陽の日差しで眩しかった記憶がある。


 おかしいな……さっきまで牢屋の中にいたはずなんだが……――ッ!?


 記憶がフラッシュバックし、ハッとなって首を触る。


「よかった……」

 きちんとつながっている首に安心する。

 痛みもなく、まるで何事もなかったかのようだ。しかし、だとすればあの記憶はいったい……?


 もしや夢だったのだろうか?

 ペットショップも、スライムも、そしてあの女の子も全部幻。本当はずっとこの草原で二度寝してただけなのかも。


 ……あり得る。第一、いくら異世界だろうと人身売買なんてヤバすぎる。そうだ、きっと夢だ。

 よし、そうと決まれば早速この世界の探索にでも――。


「夢じゃないよ」

「……」


 ……だそうです。はい。


 いた。例の美少女が。それもすぐ隣に。

 牢屋で出会ったときと同じくちょこんとしゃがんでいる。相変わらずパンツが見えそうだ。

 なんだこれ? 無防備すぎだろ。もしかして見てほしいのか?


「ヘンタイ」

「いや見てない見てない!」

「え~ほんとにぃ~? なんか視線がずっと下の方だった気がするんだけど~」

「気のせいです! マジで!」


 必死に否定する俺に、少女は「ま、そういうことにしといてあげる」とため息を吐いた。

 ちくしょう、なんでちょっと上から目線なんだ……。


「てゆ~かおじさん寝すぎ。もうお昼だよ。まったく、いっつもこんな時間まで寝てんの? 寝すぎは寝すぎで健康によくないよ。夜型にしてもほどがあるって。あ、おじさんもしかしてニート?」

「おまっ……そんなわけないだろ!」

「ほんとにぃ? じゃあどんな仕事してんの?」

「そ、それは……今ちょうど探してるところで……」

「やっぱりニートじゃん」

「くっ……!」


 な、なんだこの子……! ちくしょう、ちょっとかわいいからって好きに言いやがって……!

 つーか職探ししてる時点で定義的にはニートじゃないんだがっ!?


「それにしても、ちゃんと生き返ったね。成功成功」

「…………は?」


 成功? どういう意味だ? というか生き返ったって……。


「お前……もしかしてこうなることを見越して俺の首を切り落としたのか……?」

「そりゃそうでしょ。何の理由もなくあんなことするとか、それじゃただの人殺しじゃん私」

 いや、実際俺の感覚としてはそうでしかないんだが……???


「ほら、おじさんって異世界から来たわけでしょ。つまりこの世界とは違う理(ことわり)で動く存在ってわけ。だから、こっちだとおじさんはあくまで存在しない人間扱いで、死の概念も適用されないの。まあ、要するにこの世界にいる限りおじさんは不死身ってことね。言い換えればゾンビ?みたいな感じ。わかった?」

「…………なるほど」

 としか言いようがない。いや、理解はできてないが。


 ちゃんと説明してくれたのはありがたいが、ぶっちゃけ話が突拍子もなさ過ぎてリアクションしづらい。

 ゾンビて……そんなんマンガかゲームでしか見ないんだが? しかもよりによって俺が?


 とはいえ、昨日のアレが事実だとして、こうして生きている以上否定する材料もない。

 なによりここは異世界。それこそ俺の常識とは違う。ここはひとまず受け入れるしかないか……。


「まあ、とりあえず俺が死なないってことはわかった。でも……」


 まだ最大の疑問が残っている。




「そもそも、なんで俺は殺されたんだ???」

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