たまご屋ジョブってなんでしょう?

sumi73

第1話 転生した少女

百合は自然を愛する女の子だったが、身体が弱く病院の外へはなかなかいけなかった。


そんな百合は体調が悪くても、寝ながらでもできる読書が大好きだった。特に図鑑が好きで、百合が少しでも楽しく入院生活を過ごせるよう両親はたくさんの本を買ってきてくれていた。


百合は頭がよく、色んな本を読んだがそのほとんど全てを記憶し理解していた。


「元気になったら森で色んな生き物を見つけたいの。家で飼うんだよ!」


それが、百合の夢だった。結局その夢は叶うことはなかったが、百合は死ぬ瞬間まで図鑑を抱きしめていた。


そんな百合を思い、百合が火葬される際には本など百合が大切にしていたものを一緒に入れた。死後、仏壇には様々な本やぬいぐるみなどがたくさん飾られている。百合の父母は百合の死後も百合のことを思い、百合の好きなものを御供え続けた。


両親の願いは一つだけ。


「どうか百合が大好きな生き物たちと楽しい日々を過ごせますように。」


それだけを日々祈っていた。








幼い時から苦しいの思いをたくさんしてきた百合。


ベットの上で過ごすことが多かった百合は、最後の瞬間自分が死ぬことがわかった。


両親に感謝を伝え目を瞑った百合は、自分の意識が薄れていくのを感じた。


(もし生まれ変われるなら、家族に心配をかけずに、好きなことができる身体になりたいな…色んな生き物に会って仲良くなりたいな…)


心の中でそう祈りながら意識を手放した。






しばらく真っ暗な空間を彷徨った百合は、別の世界に産まれた。


しばらくの間、百合の世界は木でできた建物の中だけであり、会う人間も3人だけだった。


その後、少し成長した百合は、それが父と母と兄であることを理解した。


家族は百合に毎日話しかけて、木や布でできたおもちゃで遊んでくれた。


少しずつ物も覚え、一歳前には、ぱぱ、まま、にーなどの他にも単語がわかるようになった。一生懸命覚えた言葉を口に出す百合を見て、家族達はとても嬉しそうに色々なものの名前を教えたり話しかけてくれた。


よちよち歩きができるようになると、家の中をある程度移動できるようになった。


それでも家族がいる場所以外には行ったことはなく、しかしそれを気にしたこともなかった。


自分がいる場所よりも下の方から人の声や大きな物音が聞こえてくることもあったが、行ったことがない百合は、いちいち気にすることもなかった。


百合はその後も家族に見守られながら、のんびり過ごしすくすくと成長していった。


状況が変化したのは百合が3歳になった時だ。この世界では3歳に洗礼式を行い、そこでこの世界での名前を親から、ジョブを神から賜ることになっている。


この世界にはジョブにスキル、魔法がある。


ジョブは洗礼式で神から賜ったものから変わることはないが、鍛えれば鍛えるほどレベルが上がり、使えるスキル増える。


そして、そんなスキルはジョブで決まる物以外に稀に経験で得られるスキルやスクロールにて覚えられることもある。


魔法は誰にでも使えるものであるが、原理などを理解してから使う必要があるため、習得できる人は限られている。


百合はこの日、父母と兄と一緒に教会での洗礼式に参加した。何やら水をかけられて神父のありがたい言葉を頂くと、百合の身体に何かが染み込んだ。どうやらこれがジョブということらしい。


そしてそこでこの世界での名前も「ユーリ」と決まった。


ユーリと新しい名前を呼ばれた瞬間、百合の知力はぐっと上がった。感覚としては子どもとしてのふわふわとした意識からすっと頭が冴えた感じだ。


そして、その瞬間、ユーリは百合であった時を思い出した。


(ユーリ、私の新しい名前なのね。)


ユーリが新しい名前と前世の記憶のことで、少しフリーズしていると。神父が家族に向かって宣言した。


「ユーリ、素敵な名だな。ではジョブを伝える。ユーリのジョブはたまご屋である。」


神父がユーリに手をかざしながら伝えたジョブ名は全く聞いたことのないものであった。


「たまご屋ですか?」


「神父様、どんなジョブかご存知ですか?」


「いや、初めて聞くジョブだ。ジョブ自体そのジョブを使える環境が目の前になければ開花することはないので、現時点ではわからぬな。」


「そうですか。」


「まあでも、うちはしがない宿屋ですからね。」


「ああ、ジョブがなんであれユーリが健康ならそれでいい。」


「そうか。ユーリ、優しい家族に感謝しながら過ごすのだぞ。ジョブはその者の側面の一つにすぎん。ジョブに囚われず、ユーリはユーリの人生を歩みなさい。」


そういって神父はユーリの頭を撫でた。







自宅に帰ってきたユーリ達は、今日の洗礼式のことを話していた。


「ユーリ、お疲れ様!かっこよかったな!」


「パパありがとう!」


「ユーリ、たまご屋なんて不思議だな。たまご屋にならなきゃいけないのかな?」


兄のユートが腕を組みながらうーんと首を傾げる。


「たまごか…食事用のやつがあるから試してみるか?」


父親であるダンが調理場から卵を持ってきて、ユーリに触らせてくれた。


「うーん…」


「ユーリ、どうだ?」


「…わ…かんない…かな?」


「そうかあ。たまご屋のたまごってこういう卵じゃないのかな?」


「そうだなあ。今思いつくもんなんかこれくらいだしなあ。」


ダンとユートが再び首を傾げていると、母の

リリーが飲み水を持ってきてくれた。


「まあまあ、必要であればいずれわかるわ。それよりも洗礼式がようやく終わったんだし、一息つかない?」


ユーリは、リリーが持ってきてくれた水を飲みつつ、少し状況を整理することにした。





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