お手製のダンジョン作りのあやかし放浪記~気が付いたらヒーローに選ばれてしまいました~

ふわさん

ダンジョン作成編

第1話 蟻の住処

 あやかしと呼ばれる存在がいるらしい。もちろん、その話を聞いて、信じる人がいて、嘘だと思う人がいて、まったく興味を持たない人もいる。受け取り方は人それぞれであり、相手によっては、信仰や科学的な観点から問題点を指摘をすることもあるだろう。だからこそ、子供があやかしが見えるなんて聞いたら、たくさんの大人たちは嘘つきだと言ったのかもしれない。しかし、物心がついた頃、その少年にはあやかしが見えていたらしい。



 幼い頃から不思議な力を持っており、少年はあやかしの姿を見ることができた。

 しかし、その力が少年を傷つけていた。


 日々、奇妙な言動をするため、周囲から変わり者と見られ、それに耐えかねて少年は孤独に過ごすようになった。彼は孤独であり、アリの巣を見つめることが日課となっていた。その穴の底から誰かに呼ばれているような不思議な感覚を覚えていたが、そのことを秘密にしていた。一日中、アリの巣から離れずに過ごしていた。


 どうしてそんなことをしているのか。

 

 

 少年すらわからない。

 

 たくさんの秘密を抱えて、少年はそのことを誰かに話をすることができなかった。

 

 

 少年は小学校の6年生になっていた。

 

 夏休みの自由研究で、少年はアリの巣の虫かごを作ることにした。アリの巣の断面を透明なガラスの向こうから見つめて、毎日、入り組んだ迷路のような構造に興味を持つようになった。 

 

 

 すると、おかしなことがおきた。



 毎日アリの巣穴を見つめているうちに、少年は不思議な力に引き寄せられたのかもしれない。彼が飼っているアリたちが、音を立てながら妖怪の姿に変化した。まるで猫が化け猫に変身するかのように。少年の目の前にはアリたちが金槌坊かなづちぼうと呼ばれるあやかしの姿で立っていた。

 

 あやかしとは奇妙な姿をしているものである。

 

 

 アリたちは真っ黒な皮膚、大きな目の生き物に姿を変えていた。

 金槌坊かなづちぼうというあやかしらしい。



 姿は小さな鳥に似ていた。

 手にはかなづちのような道具を持っていた。



「ダンジョンを作りませんか?」



 金槌坊かなづちぼうの声が聞こえた。

 

 

「あなたは誰ですか?」

「あなたの望みを叶えるものですよ」


「ぼくの望みを叶える…」

「そうですよ。さあ、ダンジョンを作りましょう…」

 


 その言葉を聞き、少年はダンジョンを作ることにしたらしい。

 まるで、あやかしにそそのかされたように。




 世界からアリの姿が消えた。




 しばらくしたら、人々は世界からアリが消えたことに気付くはずだろう。その頃には、多くのダンジョンが作られ、地底からはカチンコチンという音が響くようになっていた。毎日、ダンジョンが作り出されていく。夏休みの自由研究のように。そのことに、世界の人々が気が付くのはもう少し先のことであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る