第10話 取り敢えずの和解
軽くまとめると、つまりこういうことだ。
この俺が金を奪った不良と勘違いしたすずちゃんこと、中瀬硯は幼馴染であるキロこと、谷川宗喜朗の為に持ち前の正義感に身をまかせて俺に喧嘩をしかけ返り討ちになった、と。
「だったら初めから金返せって言えよ。そうすればこんなややこしいことにもならなかったんじゃないのかよ」
「金は俺のもんじゃないんだから。返せはおかしいじゃねぇかよ」
「そこは融通を効かせろっての」
「ご、ごめんなさい! すずちゃん昔から頭に血が上ると一直線だから」
ああ言えばこう言う幼馴染の為に謝罪する谷川。
しかしこうして並ぶと、見た目だけなら男勝りで勝気な姉と気弱で苦労人の弟ってところか? もしくは姉御と弟分。パッと見だが身長差が二十センチ以上あるからな、同い年には見えない。
しかしやっちまったぜ。こいつも他のヤンキーと同じかと思ったら、面倒見の良い熱血漢だったとは。
改めて見て、もうイケメンヤンキー然とした姿とは程遠い。女子にしては高めの身長に、同年代の中でも発育のいい胸と尻。パッチリしたツリ目の上に細い眉毛と、かっこいい美人の印象を与える顔立ち。
明日からでもその辺の男子生徒から告白されそうだな。
「うぅ……本当にごめんなさい」
「いや、キロ君。いや谷川君が謝る必要はないよ」
今の中瀬と同レベルのスタイル抜群の美人になった黄畠が、優しいソプラノ声で谷川を落ち着かせるように声を掛ける。このニ人にしてもやっぱり同い年に見えないんだよな。やっぱ身長と雰囲気のせいか?
「キロでいいです、言われ慣れてるので。……でもどうしてこんなに女の子みたいになって」
「俺が知りてぇよ。くそ……、こんな情けねぇ姿をお前に見られちまうなんて一生もんの恥だぜ。これからどうすればいいんだよ……」
落ち込んでつり目が少し垂れてるように見える中瀬。間違いなくこいつの人生で最大のショックだろう。一応、見た目が限りなく女になっただけでついてるもんはついてるぞ、なんて慰めにはならんよな。
そんな中瀬の肩にそっと手を置く黄畠。
「君の気持ちは痛いほどわかる。僕自身今はこんな姿になってしまった。人生とは成るようにしかならないとは言うが、流石にこれを受け入れるのは相当な決意と時間が必要だろう。僕だってそうだ。……だが、落ち込んだままでもいられないはずだ」
「え?」
「中瀬君、君には連れ添ってくれる親友がいるじゃないか。今の彼の姿が見たまえ、少なくとも変貌してしまった君を拒絶しているようには見えない。そうだろう? キロ君」
「え、ええ! もちろん! だって……女の子になったって、すずちゃんはぼくの親友だから」
「キロ、お前っ…………。いや俺は別に女になったわけじゃ」
一瞬目が潤んだ中瀬。
ただ、さすがに看過できない発言を訂正しようするんだが…………谷川はすっかり自分の世界に入って熱くなってるな。あの目の輝き、きっと中瀬の言葉が耳に入ってない。
「そうだ! 彼の熱い友情に、君も答えるべきだ。2人で築き上げたものは、きっとこのようなことでは障害にはならないはずだ!」
どうやらここにも自分の世界に入った奴が居たらしい。黄畠ってクールに見えて結構熱の入りやすいタイプか?
「それに我々はまだ若い、諦めるには早いはず。それに限りなく不可能だったとしても、これからの人生を新しく切り開くことができるはずだ! そう、君の人生はまだ始まったばかりなんだよ」
「お、おい黄畠。お前ちょっと熱くなり過ぎじゃあ……」
「我々が何よりもやってはいけない事は! 現状を受け止めることすら放棄して、思考を停止させる事だよ。だからこんな所で立ち止まってはいけないんだ。今は辛いかも知れないが、未来には様々な希望が待っているはずなんだ!」
「……お、おう。そうだよな、こんな所でいつまでもうだうだ言ってても仕方がねぇ。とりあえずは受け入れる事から始めるとするか」
自分を取り囲む二人がやたら熱くなってるせいか、中瀬は冷静さを取り戻したようだ。やっぱり自分より感情的な奴を見ると人間ってのは冷めてしまうもんだな。
「はは、キロ君見たまえ! 君の親友が立ち直ったぞ」
「はい! 本当に、本当に安心しました。良かった、本当に良かった……!」
何か互いに通じるものがあったのか二人して顔を見合わせ、タッチする。しかしなんだな、今の黄畠は勿論だが、この谷川もあんまり男っぽく見えないそいで男装少女がキャッキャッしてるように見える。
とりあえず、今後何かの役に立つかも知れないと四人で連絡先を交換しあってその場は解散。精神的にも色々と疲れてしまった俺は、荷物を取りに教室に戻って帰ることにした。
ああ、まさかこんな事になるとは……。
本当にどうしよう? いやどうすることも出来無いんだけどさ。
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