子供達と神々の神楽 ～月の章～

夢幻の天叢雲 埜依丸 Aパート

（まさか、子（こ）供（ども）達（たち）が集（あつ）まってくれるなんて、このチャンスを逃（に）がす手（て）はないわね）

　10時（じ）頃（ごろ）、黒（くろ）沢（さわ）家（け）の中（なか）庭（にわ）。

　その上（じょう）空（くう）には、結（けっ）界（かい）で姿（すがた）を隠（かく）した刻（とき）代（よ）の姿（すがた）が在（あ）った。

（……さて、あの子（こ）には少（すこ）しスパルタになるけど大（だい）丈（じょう）夫（ぶ）かしら？）

　微（ほほ）笑（え）みを湛（たた）え、そう考（かんが）えながら刻（とき）代（よ）がワープした先（さき）は、自（じ）分（ぶん）が住（す）んでいるアパートの一（いっ）室（しつ）。

　その一（いっ）室（しつ）には家（か）具（ぐ）が配（はい）置（ち）はされているが、生（せい）活（かつ）感（かん）が在（あ）るのか無（な）いのか判（わか）らない。

「ただいま虚（こ）蝶（ちょう）」

　刻（とき）代（よ）がそう言（い）うと、リビングから姿（すがた）の変（か）わった澪（みお）が顔（かお）を出（だ）し言（い）う。

「お帰（かえ）り刻（とき）代（よ）ちゃん」

「キチンと飛（ひ）行（こう）能（のう）力（りょく）の練（れん）習（しゅう）はしてたでしょうね？」

　澪（みお）のも１つの姿（すがた）に名（な）前（まえ）を付（つ）けた刻（とき）代（よ）は、澪（みお）に自（じ）分（ぶん）の住（す）んでるアパートの一（いっ）室（しつ）で、飛（ひ）行（こう）能（のう）力（りょく）の練（れん）習（しゅう）をさせていた。

　外（そと）で練（れん）習（しゅう）させないのは、障（しょう）害（がい）物（ぶつ）が在（あ）った方（ほう）が練（れん）習（しゅう）には良（よ）いと思（おも）った事（こと）もあるが、澪（みお）が室（しつ）内（ない）の方（ほう）が面（おも）白（しろ）そうと答（こた）えたからで有（あ）る。

　因（ちな）みにアパートは、玄（しず）見（み）小（しょう）学（がっ）校（こう）の在（あ）る山（やま）の頂（ちょう）上（じょう）の平（へい）地（ち）に建（た）てられており、この部（へ）屋（や）の窓（まど）は山（やま）の斜（しゃ）面（めん）側（がわ）に在（あ）る為（ため）、人（ひと）に室（しつ）内（ない）を覗（のぞ）かれる事（こと）は無（な）い。

「ほら、見（み）て」

　澪（みお）はそう言（い）うと宙（ちゅう）に浮（う）き、宙（ちゅう）返（がえ）りをして見（み）せる。

　その姿（すがた）は腕（わん）白（ぱく）な明（あか）るい女（おんな）の子（こ）そのもの。

　何時（いつ）もの澪（みお）からは想（そう）像（ぞう）の出（で）来（き）ない、いやたぶん此方（こちら）の方（ほう）が、澪（みお）の本（ほん）質（しつ）そのものなのだろうと刻（とき）代（よ）は思（おも）いながら、澪（みお）に少（すこ）し怒（おこ）った口（く）調（ちょう）で言（い）う。

「あまり調（ちょう）子（し）に乗（の）らないの！」

　そう言（い）われた澪（みお）は俯（うつむ）いた。

「恵（え）理（り）花（か）の家（いえ）にみんな集（あつ）まってるわ。だからこれから、自（じ）己（こ）紹（しょう）介（かい）に行（い）きましょう」

　刻（とき）代（よ）にそう言（い）われ、澪（みお）は驚（おどろ）いて反（はん）論（ろん）しようとする……

「そんなの、無（む）理（り）に決（き）まってるじゃ……――」

「大（だい）丈（じょう）夫（ぶ）よ、キチンと喋（しゃべ）れる様（よう）に成（な）ったんだし問（もん）題（だい）ないわ。今（いま）の貴女（あなた）なら出（で）来（き）る」

　しかし刻（とき）代（よ）に、頭（あたま）を撫（な）でられながらそう言（い）い返（かえ）され、澪（みお）は渋（しぶ）々（しぶ）照（て）れながら返（へん）事（じ）を返（かえ）す。

「分（わ）かった……」

「心（しん）配（ぱい）しないで、あの子（こ）達（たち）と戦（たたか）う為（ため）に行（い）くんじゃないし」

　そう刻（とき）代（よ）に言（い）われ、澪（みお）は不（ふ）思（し）議（ぎ）そうに聞（き）き返（かえ）す。

「どう言（い）う事（こと）、刻（とき）代（よ）ちゃん？」

　すると刻（とき）代（よ）は笑（え）顔（がお）で答（こた）える。

「フフフ、コレは夢（ゆめ）。隠（かく）れて見（み）ててあげるから、自（じ）分（ぶん）で考（かんが）えて自（じ）己（こ）紹（しょう）介（かい）しなさい」

「だから、そう言（い）うのは……」

　そこまで言（い）って、澪（みお）は自（みずか）らの姿（すがた）を確（かく）認（にん）して思（おも）う。

（違（ちが）う。これは僕（ぼく）であって僕（ぼく）じゃない……）

「分（わ）かった、でも笑（わら）わないでよ……」

　虚（こ）蝶（ちょう）は恥（は）ずかしそうに、刻（とき）代（よ）にそう言（い）った。

　★★★★

【黒（くろ）沢（さわ）家（け）　10時（じ）45分（ふん）頃（ごろ）】　

「へぇ、改（あらた）めて見（み）ると凄（すご）いですね臣器（この子）達（たち）。分（ぶん）解（かい）してみたい気（き）持（も）ちが沸（わ）いてきます」

　緋（ひ）衣（い）がそう言（い）うと、小（こ）型（がた）形（けい）態（たい）の臣器（おみき）達（たち）は、冗（じょう）談（だん）で葉（よう）司（じ）達（たち）の後（うし）ろに隠（かく）れた。

「冗（じょう）談（だん）ですから、怖（こわ）がらないで下（くだ）さい！」

　その様（よう）子（す）を見（み）た緋（ひ）衣（い）が慌（あわ）ててそう言（い）うと、スセリがクスクス笑（わら）って言（い）う。

「貴女（あなた）の方（ほう）が、からかわれているのよ緋（ひ）衣（い）。だいたい、機（き）械（かい）では無（な）いから分（ぶん）解（かい）なんて出（で）来（き）ないわよ？」

　スセリにそう言（い）われ、緋（ひ）衣（い）は少（すこ）しムッとして言（い）い返（かえ）す。

「それぐらい分（わ）かってますよ？」

　その後（あと）、恵（え）理（り）花（か）の方（ほう）を向（む）いて言（こと）葉（ば）を続（つづ）ける。

「それにしても、恵（え）理（り）花（か）さんが黒（くろ）沢（さわ）家（け）の人（にん）間（げん）だとは知（し）りませんでしたよ」

「緋（ひ）衣（い）さんは、恵（え）理（り）花（か）さんの家（いえ）の事（こと）知（し）っていたんですか？」

　薫（かおる）が不（ふ）思（し）議（ぎ）そうに緋（ひ）衣（い）にそう聞（き）くと、緋（ひ）衣（い）は薫（かおる）に頷（うなず）いて言（い）う。

「はい。本（ほん）家（け）の方（かた）と繋（つな）がりがある様（よう）で、家（いえ）に御（お）中（ちゅう）元（げん）や御（お）歳（せい）暮（ぼ）が届（とど）きます」

「なるほど」

　薫（かおる）がそう言（い）いながら頷（うなず）くと、葉（よう）司（じ）が薫（かおる）に尋（たず）ねる。

「何（なん）だ、お前（まえ）は知（し）らなかったのか？」

「当（とう）人（にん）の間（あいだ）では解（かい）決（けつ）していますが、家（うち）にはマンガやドラマみたいな問（もん）題（だい）が有（あ）りまして」

　そう言（い）い返（かえ）した薫（かおる）に、葉（よう）司（じ）が更（さら）に聞（き）き返（かえ）そうとするが……

「何（なん）だよ、それっててて！」

　太（たい）耀（よう）が近（ちか）付（つ）いて来（き）て、葉（よう）司（じ）の左（ひだり）耳（みみ）を引（ひ）っ張（ぱ）り言（い）う。

「そう言（い）う事（こと）を聞（き）くのはマナー違（い）反（はん）だ、葉（よう）司（じ）」

「だからって、いてぇじゃねぇか！」

　葉（よう）司（じ）は太（たい）耀（よう）の手（て）を振（ふ）り解（ほど）き、少（すこ）し強（つよ）めにそう反（はん）論（ろん）した。

「二（ふ）人（たり）共（とも）落（お）ち着（つ）いて下（くだ）さい、私（わたし）は気（き）にしてませんから」

　ケンカを始（はじ）めそうな葉（よう）司（じ）と太（たい）耀（よう）を、薫（かおる）がそう嗜（たしな）めると、恵（え）理（り）花（か）がスセリに提（てい）案（あん）をする。

「ねぇ、スセリ、緋（ひ）衣（い）さんにキチンとこれまでの事（こと）話（はな）しておいた方（ほう）が良（い）いんじゃない？」

　そう提（てい）案（あん）されたスセリは頷（うなず）き、緋（ひ）衣（い）に向（む）かって話（はな）し出（だ）す。

「緋（ひ）衣（い）、悪（わる）いんだけど少（すこ）し私（わたし）の話（はな）しを聞（き）いてくれるかしら。これ以（い）上（じょう）首（くび）を突（つ）っ込（こ）む気（き）が有（あ）るなら尚（なお）更（さら）」

　少（すこ）し真（しん）剣（けん）な面（おも）持（も）ちでそう言（い）ったスセリに、緋（ひ）衣（い）は真（ま）面（じ）目（め）な顔（かお）で返（へん）事（じ）をする。

「はい、御（お）願（ねが）いします」

「へぇぇぇえ。僕（ぼく）もその話（はな）し聞（き）っきたいなぁ？」

　すると何所（どこ）からか、子（こ）供（ども）の声（こえ）が聞（き）こえて来（き）た。

　声（こえ）に驚（おどろ）き、スセリは考（かんが）える。

（何（なに）、今（いま）の声（こえ）。結（けっ）界（かい）の中（なか）にこの子（こ）達（たち）以（い）外（がい）の子（こ）供（ども）なんて……）

　葉（よう）司（じ）達（たち）の声（こえ）では無（な）いし、風（かぜ）丸（まる）の声（こえ）とも違（ちが）う。

「始（はじ）めまして神（かみ）様（さま）達（たち）、それとお兄（にい）ちゃんお姉（ねえ）ちゃん達（たち）」

　そう言（い）って、結（けっ）界（かい）内（ない）の空（くう）中（ちゅう）に現（あら）われた虚（こ）蝶（ちょう）は、両（りょう）手（て）を左右（さゆう）に広（ひろ）げ笑（え）顔（がお）を作（つく）り横（よこ）に一（いっ）回（かい）転（てん）し、話（はな）しを続（つづ）ける。

「僕（ぼく）の名（な）前（まえ）は虚（こ）蝶（ちょう）。今日（きょう）は皆（みんな）に挨（あい）拶（さつ）に聞（き）たんだけど……」

　結（けっ）界（かい）の内（うち）に居（い）る虚（こ）蝶（ちょう）以（い）外（がい）の子（こ）供（ども）と神（かみ）々（がみ）は、そう言（い）われキョトンとしていた。

　しかし、始（はじ）めに我（われ）に返（かえ）ったオモイカネが虚（こ）蝶（ちょう）に問（と）う。

「君（きみ）は何（なに）者（もの）だ？」

「虚（こ）蝶（ちょう）って言（い）ったじゃん、オジサン」

　虚（こ）蝶（ちょう）にそう言（い）い返（かえ）されたオモイカネは、自（じ）分（ぶん）の問（と）い掛（か）けに疑（ぎ）問（もん）を持（も）った。

　現（げん）状（じょう）こんな事（こと）が出（で）来（き）るのは、アラハバキの一（いっ）派（ぱ）しかいないのだから敵（てき）に決（き）まっている。

　だが、この子（こ）供（ども）はアラハバキの一（いっ）派（ぱ）では無（な）いと、確（かく）信（しん）してしまっていた自（じ）分（ぶん）が不（ふ）思（し）議（ぎ）だったのだ。

　一（いっ）方（ぽう）で、スセリは混（こん）乱（らん）して言（こと）葉（ば）に詰（つ）まっていた。

　何（な）故（ぜ）なら、虚（こ）蝶（ちょう）の存（そん）在（ざい）は完（かん）全（ぜん）にイレギュラーだからで有（あ）る。

　しかも風（かぜ）丸（まる）達（たち）やククリ、ツクヨミと念（ねん）話（わ）で連（れん）絡（らく）が取（と）れない。

「お前（まえ）は、アラハバキの仲（なか）間（ま）か？」

　葉（よう）司（じ）が虚（こ）蝶（ちょう）にそう聞（き）くと、虚（こ）蝶（ちょう）は地（ち）上（じょう）に降（お）りて来（き）て、首（くび）を横（よこ）に振（ふ）りスセリに向（む）けて言（い）う。

「どうだろうね？　ねぇ、スセリ比（ひ）売（め）」

（！）

　そう言（い）われたスセリは、驚（おどろ）いて反（はん）射（しゃ）的（てき）に臣器（おみき）達（たち）に命（めい）令（れい）する。

「臣器（おみき）達（たち）、あの子（こ）を捕（とら）えなさい！」

「キュゥゥー」

「ガルルル」

「クゥワッー」

　命（めい）令（れい）された臣器（おみき）達（たち）は、言（い）われた通（とお）り虚（こ）蝶（ちょう）に襲（おそ）い掛（か）かろうとするが……

「止（と）まれ鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）！」

「止（や）めろ龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）！」

「止（と）まって狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）！」

　太（たい）耀（よう）達（たち）に止（と）められ、動（うご）きを止（と）めた。

（……怖（こわ）かった）

　驚（おどろ）いたポーズを取（と）って後（うし）ろに退（ひ）いた虚（こ）蝶（ちょう）は、体（たい）勢（せい）を元（もと）に戻（もど）すと、心（しん）臓（ぞう）の鼓（こ）動（どう）を感（かん）じながらそう思（おも）い、葉（よう）司（じ）達（たち）にお礼（れい）を言（い）う。

「ありがとう、お兄（にい）ちゃん達（たち）」

「スセリ、いくら何（なん）でも小（ちい）さい子（こ）に乱（らん）暴（ぼう）よ」

　恵（え）理（り）花（か）にそう怒（おこ）られ、スセリは首（くび）を横（よこ）に軽（かる）く振（ふ）り恵（え）理（り）花（か）に謝（あやま）る。

「……確（たし）かにそうね、ごめんなさい。でも私（わたし）の気（き）持（も）ちも分（わ）かって、あの子（こ）は明（あき）らかに普（ふ）通（つう）の子（こ）じゃないもの」

　そう言（い）いながらスセリは考（かんが）える。

（この子（こ）は何（なに）を知（し）っているの、人（ひと）の子（こ）の筈（はず）だけど……）

「大（だい）丈（じょう）夫（ぶ）、僕（ぼく）は敵（てき）じゃないから……多（た）分（ぶん）？」

　虚（こ）蝶（ちょう）がそう言（い）うと、太（たい）耀（よう）が虚（こ）蝶（ちょう）に聞（き）く。

「お前（まえ）、何処（どこ）かで会（あ）った事（こと）ないか？」

　しかし虚（こ）蝶（ちょう）は首（くび）を傾（かし）げて言（い）い返（かえ）す。

「……初（しょ）対（たい）面（めん）のはずだけど？」

　そう答（こた）えた虚（こ）蝶（ちょう）に、刻（とき）代（よ）から念（ねん）話（わ）が来（く）る。

（「澪（みお）、聞（き）いてる？」）

（「刻（とき）代（よ）ちゃん、何（なに）？」）

（「臣器（おみき）の紹（しょう）介（かい）もしてくれるかしら」）

（「分（わ）かった」）

　虚（こ）蝶（ちょう）は刻（とき）代（よ）にそう念（ねん）話（わ）を返（かえ）した後（あと）、葉（よう）司（じ）達（たち）に向（む）かって言（い）う。

「そうだ、僕（ぼく）のお友（とも）達（だち）を紹（しょう）介（かい）するよ。おいで埜（ヌ）依（エ）丸（マル）」

　虚（こ）蝶（ちょう）は、袖（そで）に入（い）れて有（あ）るキーホルダーに触（さわ）りながらそう言（い）うと、何処（どこ）からともなく埜（ヌ）依（エ）丸（マル）が現（あら）われ存（そん）在（ざい）を示（しめ）す様（よう）に鳴（な）く。

「ヒョー」

「キュゥゥー」

「ガルルル」

「クゥワッー」

　すると突（とつ）然（ぜん）現（あら）れた埜（ヌ）依（エ）丸（マル）に、他（ほか）の臣器（おみき）達（たち）は威（い）嚇（かく）を始（はじ）める。

「あれは如何（どう）言（い）う事（こと）だ、スセリ！」

　オモイカネは埜（ヌ）依（エ）丸（マル）に驚（おどろ）きスセリにそう聞（き）くが、スセリに分（わ）かる筈（はず）もなく……

「私（わたし）にも分（わ）からない……」

　スセリはそう本（ほん）心（しん）を答（こた）え悩（なや）む。

（臣器（おみき）の本（ほん）質（しつ）はアラハバキの力（ちから）。アラハバキの悪（わる）ふざけか、もしくは……）

　そんなスセリの傍（かたわ）らで、オモイカネは言（い）う。

「正（まさ）に名（な）前（まえ）の通（とお）り、よく分（わ）からんと言（い）う事（こと）か……」

「怖（こわ）いから、そろそろ帰（かえ）りたいなぁ……」

　場（ば）の雰（ふん）囲（い）気（き）が、余（あま）り良（よ）くない事（こと）を感（かん）じている虚（こ）蝶（ちょう）がそう呟（つぶや）くと、刻（とき）代（よ）から念（ねん）話（わ）が来（く）る。

（「分（わ）かった。それじゃお昼（ひる）過（す）ぎに、もう一（いち）度（ど）来（く）る事（こと）を伝（つた）えて」）

（「えっ！　もしかして僕（ぼく）の声（こえ）聞（き）こえるの？」）

（「ヒ、ミ、ツ、一（いち）度（ど）帰（かえ）ったら臣器（おみき）の練（れん）習（しゅう）よ。お昼（ひる）食（た）べたら、あの子（こ）達（たち）に練（れん）習（しゅう）手（て）伝（つだ）ってもらいましょう」）

「えぇぇぇぇぇ！」

　刻（とき）代（よ）の言（こと）葉（ば）に、虚（こ）蝶（ちょう）は言（こと）葉（ば）に出（だ）して突（とつ）然（ぜん）驚（おどろ）く。

　そんな虚（こ）蝶（ちょう）に、葉（よう）司（じ）達（たち）も驚（おどろ）いた。

「おい、行（い）き成（な）りどうした？」

　葉（よう）司（じ）が虚（こ）蝶（ちょう）にそう尋（たず）ねると、虚（こ）蝶（ちょう）は首（くび）を左右（さゆう）に振（ふ）り恥（は）ずかしそうに言（い）う。

「……何（なん）でもない。それじゃお昼（ひる）食（た）べたらまた来（く）るね」

　言（い）い終（お）わった虚（こ）蝶（ちょう）は振（ふ）り返（かえ）り、刻（とき）代（よ）に念（ねん）話（わ）を送（おく）ってみる。

（「聞（き）こえてる刻（とき）代（よ）ちゃん。これで良（い）い？」）

（「OKよ、それじゃ帰（かえ）るわよ」）

　刻（とき）代（よ）が虚（こ）蝶（ちょう）に念（ねん）話（わ）でそう返（かえ）している時（とき）、同（どう）時（じ）に葉（よう）司（じ）が慌（あわ）てて虚（こ）蝶（ちょう）に言う。

「おい、ちょっと待（ま）て！　昼（ひる）食（た）べたらってお前（まえ）！」

　葉（よう）司（じ）がそう言（い）い終（お）わる頃（ころ）、虚（こ）蝶（ちょう）の姿（すがた）は蝶（ちょう）の幻（まぼろし）と共（とも）に消（き）え去（さ）った。