子供達と神々の神楽 ～月の章～

普遍の碧流魂 龍蛇丸

　葉（よう）司（じ）、恵（え）理（り）花（か）、薫（かおる）はスーパーから直（ちょく）線（せん）距（きょ）離（り）で200メートル程（ほど）先（さき）に在（あ）る、河川（かせん）に掛（か）かる橋（はし）の下（した）に居（い）た。

「薫（かおる）、ランドセル頼（たの）む。行（い）くぞ龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）！」

　葉（よう）司（じ）がキーホルダーを掲（かか）げそう叫（さけ）ぶと、何処（どこ）からともなく人（ひと）が数（すう）人（にん）が隠（かく）れられる程（ほど）の、大（たい）量（りょう）の緑（みどり）の葉（は）を巻（ま）き込（こ）んだ風（かぜ）が吹（ふ）き荒（すさ）び、葉（よう）司（じ）を包（つつ）み込（こ）んで隠（かく）す。

　そして葉（よう）司（じ）と共（とも）に橋（はし）の上（うえ）へと移（い）動（どう）した。

　大（たい）量（りょう）の緑（みどり）の葉（は）は龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）の姿（すがた）を形（かたち）作（づく）り、龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）に変（か）わると、葉（よう）司（じ）は龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）の中（なか）に居（い）る事（こと）を理（り）解（かい）する。

「本（ほん）当（とう）に前（まえ）とは違（ちが）うんだな」

　葉（よう）司（じ）がそう言（い）うと、汗衫（かざみ）姿（すがた）の恵（え）理（り）花（か）が、葉（よう）司（じ）に向（む）かって慌（あわ）てた口（く）調（ちょう）で言（い）う。

「早（はや）く、嘉（か）助（すけ）君（くん）を助（たす）けに行（い）かないと！」

「その必（ひつ）要（よう）は無（な）い！」

　300メートル程（ほど）先（さき）に居（い）たミシャグジと風（かざ）蛇（へび）が、龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）に気（き）付（づ）き近（ちか）付（つ）いて来（き）た。

「スセリ、結（けっ）界（かい）を！」

　　パン　パン　パン　パン

　葉（よう）司（じ）の言（こと）葉（ば）で恵（え）理（り）花（か）が結（けっ）界（かい）を張（は）るが、嘉（か）助（すけ）は結（けっ）界（かい）の外（そと）に転（てん）移（い）しない。

「やはり駄（だ）目（め）ですか……」

　スセリは葉（よう）司（じ）への確（かく）認（にん）の為（ため）にそう言（い）い、それを聞（き）いた葉（よう）司（じ）はミシャグジに怒（ど）鳴（な）る。

「嘉（か）助（すけ）を返（かえ）せ、卑（ひ）怯（きょう）もん！」

　50メートル先（さき）で対（たい）峙（じ）しているミシャグジに葉（よう）司（じ）がそう言（い）うと、ミシャグジは小（こ）馬（ば）鹿（か）にした態（たい）度（ど）で言（い）い返（かえ）す。

「言（い）った筈（はず）だ、此奴（こいつ）は餌（えさ）だと」

　そう言（い）い終（お）わったミシャグジは、嘉（か）助（すけ）を風（かざ）蛇（へび）から投（な）げ落（お）とした。

「うわぁ！」

　叫（さけ）びを上（あ）げる嘉（か）助（すけ）だったが、スセリの力（ちから）で結（けっ）界（かい）の外（そと）、薫（かおる）の近（ちか）くに安（あん）全（ぜん）に転（てん）移（い）させられ、嘉（か）助（すけ）の姿（すがた）が突（とつ）然（ぜん）消（き）えたので戸（と）惑（まど）っている葉（よう）司（じ）に、オモイカネから念（ねん）話（わ）が来（く）る。

（「聞（き）こえるか葉（よう）司（じ）？　嘉（か）助（すけ）は無（ぶ）事（じ）だ、薫（かおる）の近（ちか）くに居（い）る」）

　オモイカネが念（ねん）話（わ）で葉（よう）司（じ）にそう教（おし）えると、同（おな）じく念（ねん）話（わ）でスセリが続（つづ）けて言（い）う。

（「葉（よう）司（じ）。嘉（か）助（すけ）は風（かぜ）丸（まる）から離（はな）れたので、私（わたし）の力（ちから）が効（き）く様（よう）に成（な）ったのでしょう。それよりあの怪（かい）物（ぶつ）、今（いま）の龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）の攻（こう）撃（げき）は多（た）分（ぶん）通（つう）じない」）

「マジかよ。物（もの）は試（ため）しだ、行（い）くぞ龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）！」

　そう言（い）い返（かえ）した葉（よう）司（じ）は試（ため）しに、龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）で風（かざ）蛇（へび）に体（たい）当（あ）たりを試（こころ）みる。

　しかし龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）は風（かざ）蛇（へび）を素（す）通（どお）りしてしまう。

「やはり、あの蛇（へび）は風（かぜ）の妖（よう）怪（かい）」

　スセリがそう葉（よう）司（じ）に聞（き）こえる様（よう）に言（い）うと、ミシャグジが続（つづ）ける。

「如何（どう）した、それで終（お）わりか？　なら此方（こちら）から行（い）くぞ！」

　葉（よう）司（じ）は龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）で、風（かざ）蛇（へび）の尻尾（しっぽ）での横（よこ）薙（な）ぎの攻撃（こうげき）を躱（かわ）す……

「そんな攻（こう）撃（げき）当（あ）たって……うわ！」

　　バシャン

　しかし、龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）の真（ま）上（うえ）に移（い）動（どう）していたミシャグジからの攻（こう）撃（げき）に対（たい）処（しょ）が出（で）来（き）ず、円（えん）月（げつ）輪（りん）で川（かわ）に叩（たた）き落（お）とされた。

「大（だい）丈（じょう）夫（ぶ）、龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）！」

　恵（え）理（り）花（か）が心（しん）配（ぱい）そうに言（い）うと、葉（よう）司（じ）が答（こた）える。

「あぁ、何（なん）とか……」

「考（かんが）え無（な）しに突（つ）っ込（こ）むからです。今（いま）から風（ア）蛇（レ）への対（たい）処（しょ）方（ほう）法（ほう）をお教（おし）えます、核（かく）の持（も）ち手（て）を掴（つ）かんで『転（てん）神（しん）、黄（よ）泉（もつ）黄（こう）剣（けん）』と叫（さけ）びなさい。そうして剣（けん）を引（ひ）き抜（ぬ）くのです！」

　スセリがそう言（い）うと、葉（よう）司（じ）は少（すこ）し考（かんが）えて言（い）い返（かえ）す。

「恥（は）ずかしい……、他（ほか）に何（なに）か無（な）いのかよ！」

「そんな事（こと）言（い）っている場（ば）合（あい）ですか、上（うえ）から来（き）ます！」

　そう忠（ちゅう）告（こく）するスセリの言（こと）葉（ば）を聞（き）き、葉（よう）司（じ）が頭（ず）上（じょう）を確（かく）認（にん）すると、ミシャグジが攻（こう）撃（げき）体（たい）勢（せい）で迫（せま）って来（き）ていた。

　　バシャン

「あっぶねぇ！」

　ミシャグジの攻（こう）撃（げき）を、葉（よう）司（じ）は龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）を後（うし）ろに退（ひ）いて躱（かわ）し。そう言（い）った後（あと）、少（すこ）し考（かんが）えてから少（すこ）し恥（は）ずかしそうに叫（さけ）ぶ。

「こうなりゃヤケだ。行（い）くぞ龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）、転（てん）神（しん）、黄（よ）泉（もつ）黄（こう）剣（けん）」

　ポーズを取（と）りながら、少（すこ）しノリノリで。

　すると龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）は龍（りゅう）蛇（じゃ）の姿（すがた）から人（ひと）型（がた）の姿（すがた）に変（か）わって……いや、変（へん）形（けい）して行（い）く。

　その様（よう）子（す）を見（み）て、ミシャグジはスセリに念（ねん）話（わ）で聞（き）く。

（「スセリ、コ（・）レ（・）は何（なん）だ？」）

（「私（わたし）に聞（き）かないで……」）

　そう念（ねん）話（わ）で返（かえ）したスセリも、ミシャグジも驚（おどろ）いて……と言（い）うよりは、呆（あっ）気（け）に取（と）られていると言（い）う心（しん）象（しょう）で、龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）の変（へん）形（けい）を素（す）に戻（もど）って見（み）詰（つ）めている。

　龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）の体（からだ）は頭（あたま）、胴（どう）、尻尾（しっぽ）に３分（ぶん）割（かつ）され、頭（あたま）の部（ぶ）分（ぶん）は胴（どう）体（たい）と成（な）り、元（もと）々（もと）の胴（どう）体（たい）部（ぶ）分（ぶん）は更（さら）に４分（ぶん）割（かつ）、手（て）足（あし）に変（かわ）り胴（どう）体（たい）と合（がっ）体（たい）、それと同（どう）時（じ）に胴（どう）体（たい）上（じょう）部（ぶ）から顔（かお）が出（で）て来（き）て、最（さい）後（ご）に尻尾（しっぽ）部（ぶ）分（ぶん）が２倍（ばい）程（ほど）に伸（の）び剣（けん）に変（かわ）ると、龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）がその剣（けん）を手（て）にして変（へん）形（けい）は完（かん）了（りょう）。

　変（へん）形（けい）時（じ）間（かん）はおよそ３秒（びょう）。

　もし葉（よう）司（じ）が龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）の外（そと）で見（み）ていたら、土（ど）曜（よう）の夕（ゆう）方（がた）５時（じ）からやっているロボットアニメの、変（へん）形（けい）シークエンスみたいと思（おも）ったであろう変（へん）形（けい）が起（お）きていた頃（ころ）、龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）の内（うち）側（がわ）では、葉（よう）司（じ）の居（い）る場（ば）所（しょ）の風（ふう）景（けい）が、森（もり）から洞（どう）窟（くつ）の様（よう）な場（ば）所（しょ）に景（け）色（しき）が変（かわ）っていた。

（「……そうだスセリ、小（こ）僧（ぞう）に説（せつ）明（めい）を！」）

　ふっと我（われ）に返（かえ）ったミシャグジは、そうスセリに念（ねん）話（わ）で言（い）い、その言（こと）葉（ば）で我（われ）に返（かえ）ったスセリは葉（よう）司（じ）に言（い）う。

「葉（よう）司（じ）。貴方（あなた）からは分（わ）から無（な）いだろうけど、龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）は人（ひと）型（がた）に成（な）っているわ。言（こと）葉（ば）の制（せい）御（ぎょ）は受（う）け付（つ）けなくなっているけど、貴方（あなた）の動（うご）きや考（かんが）えた通（とお）りに動（うご）くはずだから、剣（けん）を川（かわ）に付（つ）き立（た）てて」

　　ガシャン

　スセリの言（こと）葉（ば）を聞（き）いて、葉（よう）司（じ）が核（かく）の剣（けん）を地（じ）面（めん）に突（つ）き立てると、龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）は同（おな）じモーションをとって川（かわ）に剣（けん）を突（つ）き立てた。

「この後（あと）はどうすれば良（い）い？」

　葉（よう）司（じ）がスセリにそう聞（き）くと、スセリは答（こた）える。

「コレで川（かわ）の水（みず）を制（せい）御（ぎょ）出（で）来（き）る様（よう）に成（な）ったはずです。その姿（すがた）は言（こと）葉（ば）の制（せい）御（ぎょ）を受（う）け付（つ）け無（な）いので、剣（つるぎ）を持（も）ったまま念（ねん）じなさい。水（みず）で相（あい）手（て）を封（ふう）じるのです、相（あい）手（て）が驚（おどろ）いている間（あいだ）に早（はや）く！」

「分（わ）かった！」

（水（みず）よ、敵（てき）を閉（と）じ込（こ）めろ！）

　葉（よう）司（じ）が返（へん）事（じ）を返（かえ）してそう念（ねん）じると……

　　サー　

　　　バシャン

　川（かわ）の水（みず）が急（きゅう）激（げき）にミシャグジと風（かざ）蛇（へび）の下（した）に集（あつ）まり、ミシャグジと風（かざ）蛇（へび）は出（しゅつ）現（げん）した巨（きょ）大（だい）な水（みず）の柱（はしら）の中（なか）に閉（と）じ込（こ）められた。

　水（みず）の中（なか）で龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）を見（み）ながら、ミシャグジは考（かんが）える。

（さて、本（ほん）来（らい）ならここで退（ひ）くべきだろうが……）

　ミシャグジは一（いち）度（ど）目（め）を閉（と）じてから、再（さい）度（ど）目（め）を見（み）開（ひら）く。

　すると、模（も）していた風（かぜ）丸（まる）の姿（すがた）の瞳（ひとみ）の色（いろ）が赤（あか）く変（か）わり、次（つぎ）の瞬（しゅん）間（かん）その場（ば）から姿（すがた）が消（き）えて居（い）無（な）くなった。

　一（いっ）方（ぽう）風（かざ）蛇（へび）は、水（みず）に閉（と）じ込（こ）められた為（ため）、身体（からだ）が段（だん）々（だん）泡（あわ）に変（かわ）って行（い）く。

　そんな風（かざ）蛇（へび）に、ミシャグジから念（ねん）話（わ）が届（とど）く。

（「風（かざ）蛇（へび）よ、その肉（にく）体（たい）私（わたし）に遣（よこ）せ……」）

　すると風（かざ）蛇（へび）の泡（あわ）化（か）が突（とつ）然（ぜん）止（や）み、体（からだ）の皮（かわ）がボロボロと崩（くず）れて行（い）く。

（行（ゆ）くぞ小（こ）僧（ぞう）！）

　　バッシャーン

　ミシャグジが消（き）え、風（かざ）蛇（へび）の様（よう）子（す）がおかしい事（こと）に気（き）付（づ）いた葉（よう）司（じ）が、スセリに話（はな）しかけ様（よう）とした瞬（しゅん）間（かん）、異（い）変（へん）が起（お）きる。

　風（かざ）蛇（へび）》の姿（すがた）は脱（だっ）皮（ぴ）したかの如（ごと）く、赤（しゃく）眼（がん）の石（いし）と金（きん）属（ぞく）で出（で）来（き）た白（しら）蛇（へび）に変（かわ）り、内（うち）側（がわ）から水（みず）の柱（はしら）を吹（ふ）き飛（と）ばしたのだ。

「危（あぶ）な！」

　そう言（い）って葉（よう）司（じ）は、龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）の体（からだ）を使（つか）い恵（え）理（り）花（か）を大（たい）量（りょう）の水（みず）から守（まも）った後（あと）、葉（よう）司（じ）は赤（しゃく）眼（がん）の白（しら）蛇（へび）に向（む）かって言（い）う。

「何（なん）だ、姿（すがた）が変（かわ）った？」

「フン、風（かぜ）丸（まる）様（さま）の変（かわ）りに貴（き）様（さま）等（ら）の相（あい）手（て）をしてやろう……」

　そう言（い）ってミシャグジは、龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）から背（せ）を向（む）けて逃（に）げ出（だ）した。

「待（ま）て、この野（や）郎（ろう）！」

　　ガコン

　　　ガコン

　　　　ガコン

　葉（よう）司（じ）がそう言（い）って、龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）で追（お）って来（き）ているのを確（かく）認（にん）したミシャグジは、念（ねん）話（わ）で小（こ）太（た）郎（ろう）とスセリに確（かく）認（にん）を取（と）る。

（「小（こ）太（た）郎（ろう）様（さま）、スセリ、攫（さら）って来（き）た小（こ）僧（ぞう）と眼鏡（めがね）の小（こ）僧（ぞう）は何所（どこ）です？」）

（「俺（おれ）達（たち）と合（ごう）流（りゅう）しているが、如何（どう）する気（き）だ？」）

　ミシャグジの行（こう）動（どう）を不（ふ）思（し）議（ぎ）に思（おも）った小（こ）太（た）郎（ろう）が、念（ねん）話（わ）でそう聞（き）き返（かえ）すと、スセリも少（すこ）し驚（おど）ろいた様（よう）子（す）でミシャグジに念（ねん）話（わ）で聞（き）く。

（「何（なに）を考（かんが）えているのです？　風（かぜ）丸（まる）の姿（すがた）を捨（す）て、風（かざ）蛇（へび）を乗（の）っ取（と）り本（ほん）来（らい）に近（ちか）い姿（すがた）に戻（もど）るなんて！」）

　スセリの念（ねん）話（わ）を聞（き）いて、ミシャグジは小（こ）太（た）郎（ろう）とスセリに念（ねん）話（わ）で言（い）う。

（「小（こ）太（た）郎（ろう）様（さま）、私（わたし）に御（お）任（まか）せ下（くだ）さると仰（おっしゃ）ったでしょう。スセリ、作（さく）戦（せん）に変（へん）更（こう）はないから安（あん）心（しん）しろ」）

　その念（ねん）話（わ）が終（お）わって暫（しばら）くして、結（けっ）界（かい）越（ご）しの小（こ）太（た）郎（ろう）達（たち）の目（め）の前（まえ）に、ミシャグジは現（あらわ）れた。

　　ガキャン

　鎮（しずめ）守（まもり）の結（けっ）界（かい）が、壊（こわ）れ無（な）い事（こと）を確（かく）認（にん）する事（こと）も含（ふく）め、ミシャグジは結（けっ）界（かい）を攻（こう）撃（げき）し、近（ちか）くでそれを見（み）て居（い）る人（ひと）々（びと）は悲（ひ）鳴（めい）を上（あ）げる。

「「わっ！」」

「「きゃぁ！」」

　小（しょう）学（がく）生（せい）の下（げ）校（こう）時（じ）刻（こく）に、ミシャグジが動（うご）き回（まわ）り騒（さわ）ぎを起（お）こし回（まわ）った結（けっ）果（か）、かなりの子（こ）供（ども）達（たち）が結（けっ）界（かい）の外（そと）で龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）とミシャグジの戦（たたか）いを見（み）守（まも）っており、小（こ）太（た）郎（ろう）の近（ちか）くには子（こ）供（ども）大人（おとな）関（かん）係（けい）無（な）く、疎（まば）らにかなりの人（ひと）が居（い）た。

（さて、そろそろ……）

　ミシャグジはそう思（おも）い振（ふ）り返（かえ）ると、目（め）の前（まえ）には自（じ）身（しん）を追（お）い駆（か）けて来（き）た龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）が居（お）り、ミシャグジは龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）に軽（かる）く突（つ）っ込（こ）んで行（い）く。

　　ガキン

　その攻（こう）撃（げき）を剣（けん）で受（う）け止（と）めた龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）だが、ミシャグジは尻尾（しっぽ）と胴（どう）体（たい）を龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）に巻（ま）き付（つ）け締（し）め付（つ）ける。

「うわぁぁぁ！」

　龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）が締（し）め付（つ）け攻（こう）撃（げき）を受（う）けている為（ため）、葉（よう）司（じ）は連（れん）続（ぞく）的（てき）な揺（ゆ）れに襲（おそ）われ、上手（うま）く動（うご）く事（こと）も考（かんが）える事（こと）も出（で）来（き）無（な）い。

（加（か）減（げん）はしてやる。悪（わる）いが暫（しばら）くそのままの状（じょう）態（たい）で居（い）てもらうぞ……）

　ミシャグジは龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）を見（み）ながら心（こころ）の中（なか）でそう言（い）うと、近（ちか）くの結（けっ）界（かい）の外（そと）にいる人（にん）間（げん）に向（む）けて大（おお）声（ごえ）で言（い）う。

「我（わ）が名（な）は風（かぜ）丸（まる）様（さま）の手（て）先（さき）、明（みょう）沙（しゃ）丸（まる）。退（ひ）いた風（かぜ）丸（まる）様（さま）の代（か）わりに、この臣器（おみき）を破（は）壊（かい）してくれよう」

　ミシャグジがそう言（い）うと、後（うし）ろからやって来（き）た恵（え）理（り）花（か）に宿（やど）ったスセリが叫（さけ）ぶ。

「龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）。剣（けん）を地（じ）面（めん）に刺（さ）して『転（てん）神（しん）、森（しん）羅（ら）魄（はく）蛇（じゃ）』と言（い）いなさい!、そうすれば前（まえ）の姿（すがた）に戻（もど）ります！」

「転（てん）……、神（しん）……、森（しん）羅（ら）、白（はく）蛇（じゃ）」

　　ガシャン

　そう言（い）って葉（よう）司（じ）が地（じ）面（めん）に剣（けん）を突（つ）き刺（さ）すと、龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）は龍（りゅう）蛇（じゃ）型（がた）に変（かわ）り、明（みょう）沙（しゃ）丸（まる）の束（そく）縛（ばく）が緩（ゆる）く成（な）る。

　その隙（すき）に龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）》は真（ま）上（うえ）に逃（に）げ、葉（よう）司（じ）は叫（さけ）ぶ。

「転（てん）神（しん）、黄（よ）泉（もつ）黄（こう）剣（けん）！」

　再（さい）度（ど）人（ひと）型（がた）に成（な）った龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）は、上（じょう）空（くう）から明（みょう）沙（しゃ）丸（まる）に向（む）かって剣（けん）で斬（き）り掛（か）かる……

「でぇぇぇぇい！」

　が……

「甘（あま）い！」

　明（みょう）沙（しゃ）丸（まる）は、迫（せま）り来（く）る龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）の剣（けん）を口（くち）で受（う）け止（と）めると、そのまま龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）を結（けっ）界（かい）に叩（たた）き付（つ）けた。

　　ドカチャン

「うわぁぁぁ！」

　龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）が結（けっ）界（かい）に打（う）ち付（つ）けられ、その衝（しょう）撃（げき）で葉（よう）司（じ）が叫（さけ）ぶと、それを小（ちい）さくなって人（ひと）影（かげ）で見（み）ていたオモイカネが思（おも）う。

（あの大（だい）蛇（じゃ）、見（み）た目（め）以（い）上（じょう）に硬（かた）い。いや、もしや……）

「龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）、聞（き）け！」

　突（とつ）如（じょ）オモイカネは普（ふ）通（つう）の姿（すがた）て人（ひと）の前（まえ）現（あらわ）れ、そう言（い）たので周（まわ）りの人（にん）間（げん）達（たち）は驚（おどろ）くが、オモイカネは気（き）にせず続（つづ）ける。

「その剣（けん）に名（な）を付（つ）けよ。名（な）は体（てい）を表（あらわ）す。名（な）の無（な）き剣（けん）に力（ちから）など無（な）い！」

　オモイカネの言（こと）葉（ば）に、葉（よう）司（じ）は言（い）い返（かえ）す。

「名（な）前（まえ）ったって……」

　するとオモイカネの意（い）を察（さっ）したスセリが、葉（よう）司（じ）に言（い）う。

「オモイカネの言（い）う通（とお）りです。再（さい）契（けい）約（やく）の所為（せい）で、その剣（けん）はただの剣（けん）でしかありません。どうか名（な）前（まえ）を付（つ）けて」

　スセリがそう言（い）ってる間（あいだ）に、ミシャグジは小（こ）太（た）郎（ろう）に念（ねん）話（わ）で促（うなが）す。

（「考（かんが）えとは違（ちが）いましたが、今（いま）なら近（ちか）くの人（にん）間（げん）の注（ちゅう）意（い）はそちらに向（む）いています」）

（「そう言（い）う事（こと）か。今（いま）らな目（め）立（だ）つな……」）

　念（ねん）話（わ）でそう返（かえ）した小（こ）太（た）郎（ろう）は、大（おお）声（ごえ）で、少（すこ）しオーバーリアクション気味（ぎみ）に龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）に向（む）けて喋（しゃべ）る。

「がんばれ龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）。友（とも）達（だち）を攫（さら）った奴（やつ）なんてやっつけろ！」

　小（こ）太（た）郎（ろう）がそう言（い）うと、明（みょう）沙（しゃ）丸（まる）が続（つづ）ける。

「出（で）来（き）るモノならやって見（み）るが言（い）い、この石（いし）と金（きん）属（ぞく）の身体（からだ）が斬（き）り裂（さ）けるモノならな！」

　更（さら）にスセリも続（つづ）けて言（い）う。

「なら、対（つい）たる息（い）吹（ぶ）きの力（ちから）で対（たい）抗（こう）すれば良（い）い」

　そう言（い）ったスセリに、葉（よう）司（じ）は怒（おこ）った様（よう）な口（く）調（ちょう）で言（い）い返（かえ）す。

「だから名（な）前（まえ）なんて、そう簡（かん）単（たん）に思（おも）い付（つ）かねぇって！」

　すると、オモイカネが葉（よう）司（じ）に大（おお）声（ごえ）で言（い）う。

「なら私（わたし）が代（か）わりに付（つ）けよう。動（うご）く麟（うろこ）は龍（りゅう）蛇（じゃ）そのもの、生（せい）命（めい）を司（つかさ）どるその剣（けん）の名（な）は動（どう）鱗（りん）剣（けん）！」

　オモイカネの言（こと）葉（ば）で、葉（よう）司（じ）は少（すこ）し考（かんが）えてから体（たい）勢（せい）を整（ととの）え、叫（さけ）びながら明（みょう）沙（しゃ）丸（まる）に斬（き）り掛（か）かる。

「行（い）くぞ、動（どう）鱗（りん）剣（けん）！」

　　ガキン

　明（みょう）沙（しゃ）丸（まる）は尻尾（しっぽ）で動（どう）鱗（りん）剣（けん）を受（う）け止（と）めるが、受（う）けた部（ぶ）分（ぶん）が赤（あか）くなって行（い）き、そこから身体（からだ）が崩（くず）れて行（い）く。

（「やはりこの力（ちから）は慣（な）れん……　小（こ）太（た）郎（ろう）様（さま）、退（ひ）かせて頂（いただ）きます」）

　小（こ）太（た）郎（ろう）にミシャグジが念（ねん）話（わ）でそう言（い）うと、小（こ）太（た）郎（ろう）は労（ねぎら）いの言（こと）葉（ば）を念（ねん）話（わ）で返（かえ）す。

（「ご苦（く）労（ろう）」）

　念（ねん）話（わ）で、ミシャグジが小（こ）太（た）郎（ろう）とそんな会（かい）話（わ）をしている時（とき）、龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）は一（いち）度（ど）龍（りゅう）蛇（じゃ）型（がた）に戻（もど）ると飛（と）び上（あ）がり、明（みょう）沙（しゃ）丸（まる）の頭（ず）上（じょう）で再（さい）度（ど）人（ひと）型（がた）に変（か）わり、明（みょう）沙（しゃ）丸（まる）を上（じょう）空（くう）から斬（き）り付（つ）ける。

「せりゃぁぁぁぁ！」

　　ガキン　

　　　ガゴ　ガゴ　ガゴ　

　　　　ガツン

　動（どう）鱗（りん）剣（けん）を頭（あたま）から受（う）けた明（みょう）沙（しゃ）丸（まる）は、次（し）第（だい）に頭（あたま）から崩（ほう）壊（かい）して行（い）き、最（さい）終（しゅう）的（てき）には二（に）分（ぶん）割（かつ）され、光（ひかり）と強（つよ）い風（かぜ）を発（はっ）しながら消（しょう）滅（めつ）した。

「やったぜ！」

　勝（しょう）利（り）した葉（よう）司（じ）がそう行（い）うと、オモイカネから葉（よう）司（じ）を褒（ほ）める念（ねん）話（わ）が来（く）る。

（「良（よ）くやった葉（よう）司（じ）」）

　そんなオモイカネに、葉（よう）司（じ）は念（ねん）話（わ）で返（かえ）す。

（「オモイカネもありがとよ。で、何（なん）か用（よう）か？」）

（「キャッチコピーとやらを言（い）わなくても良（い）いのか？」）

　オモイカネに念（ねん）話（わ）でそう言（い）われ、葉（よう）司（じ）は焦（あせ）る。

　実（じつ）はまだ考（かんが）えて無（な）かったのだ。

（「……実（じつ）はまだ考（かんが）えて無（な）かった。オモイカネ、どうにかなんない？」）

　葉（よう）司（じ）が申（もう）し訳（わけ）なさそうにオモイカネに念（ねん）話（わ）でそう返（かえ）すと、呆（あき）れた口（く）調（ちょう）でオモイカネが念（ねん）話（わ）で行（い）い返（かえ）す。

（「そんな事（こと）だろうと薫（かおる）が言（い）っていたが、当（あ）たった様（よう）だな。不（ふ）変（へん）の碧（へき）流（る）魂（こん）と名（な）乗（の）れば良（い）い。それと剣（けん）を十（じゅう）字（じ）かバツ字（じ）に振（ふ）れ」）

　そうオモイカネに言（い）われ、葉（よう）司（じ）は剣（けん）をバツ字（じ）に振（ふ）って叫（さけ）ぶ。

「不（ふ）変（へん）の碧（へき）流（る）魂（こん）、龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）！」