中年2度目の異世界

石坂あきと

1-1 あれから15年

 あれから15年が経った。あれからというのは、私が異世界からこの元の世界に戻ったその時その瞬間から、20歳の頃。

 異世界に飛ばされたのはその5年前になる。つまり勿体ぶることなく言えば15歳であちらを経験したわけである。

 いまはもう35歳。

 まごうことなきおじさんと言い切るには言葉を濁す所ではあるがしかし、肉体的老い、とりわけ最近は精神的な老いを感じるようになった。

 働き盛り男盛り。世間的にはまだまだこれからというものだとわかっちゃいるが、どうにも燃え尽きそうだ。

 その原因の一つは、異世界と今世界とで時間の進み方が恐ろしく違う事に起因する。

 何度か言うが5年。

 それが私があちらで過ごした時間だった。

 あれこれ多くの事があったが、それでもたったの5年間。冒険の終わりを意識し始めた頃からは例えるなら生き死が紙一重の留学をしたような感覚であった。

 それはそれとして話が戻る。

 ようやく戻ってきたこちらの世界はその10倍程度の時間が過ぎていた。ざっと50年。

 親しくしていた祖父母は亡くなり、両親は背中が丸くなり、小さかった妹は還暦が近づいていた。

 愛読していたマンガは終わり。みんな手元にハイテク機械。テレビは鮮やかを通りすぎ、そのままを切り取り閉じ込めたと言わんばかりだ。

 取り残された、そういう気持ちが強かった。

 

「にん……主任!」

「え?」

「え? って、しっかりしてください。こちら資料作ってきました。あとでレビューをお願いします」

「あ、ああ。すまん、ぼーっとしてた。資料早いな、さすがだ」

「ご指導の賜物です」

「よくいう」と部下のお世辞を笑って受け取る。「そうだなーー30分後にレビューをしよう。読み込んでおく」

「よろしくお願いします」

 頭を下げて部下は去って行った。

 新卒で入社して今年で3年目の若手だが、何かと優秀。性格もまた穏やかではあるが芯を感じさせるところがあり、まさに有望。自分と比べるまでもなくだ。

 後輩の年齢頃、今の世界の文明レベルと昔の記憶の文明レベル。そして加えてあちらの世界の文明レベルと、それぞれその方向性の違いから、順応できるまでの右往左往が酷かった。

 わからない事が多く、情けないと感じる瞬間も多かったものだが、それでもなんとかここまで来れたのも一重にあちらの世界での経験があったからこそだろう。

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