ハッピーエンド確定論

金 日輪 【こん にちわ】

第1話

 ある夏の事、俺はベッドに横たわり、ぼーっと真っ白な天井を眺めていた。

 壁にかかっている時計は、昼の12時を指している。

 高校2年生である俺が学校にも行かずこんな所で物思いにふけっているのには、先程起きたが深く関わっている。


 今日の朝俺が起きて1階に降りると、そこには母も父も居なかった。

 何処にいるのかと思い家中を探していると奥の部屋から


「やぁ、日々ひびの 龍太郎りゅうたろう君。」


と聞いたことのある声がした。

 俺は誰か泥棒が入っていると思い、すこし心細いがリモコンを手に恐る恐る奥の部屋を覗くと、そこには案の定俺の知らない人が佇んでいた。


「うわぁーー!」


と、思わず腰が抜けて立てない俺を見下ろしながらその男は


「日々君、初めまして。俺は――」

「未来の君だよ。」


とにっこり微笑みながら言い、俺に手を差し出した。

 いやいやいや。

 怪しすぎる。

 今どきの空き巣はそんな嘘をつくようになったのか?

勿論もちろん、俺がそんなことを信じるはずがなく、リモコンを振り上げてじりじりと詰め寄る。

 相手は慌てて手を前に突き出しながら


「ちょいちょいちょいちょい!本当だって!」


と今にも泣きそうな顔で訴えかけてくる。

 俺は表情を崩さずに


「お前が未来の俺だって言う証拠を見せてみろよ!」


と怒鳴る。

 向こうはため息をつきながら、


「……これはあんまり見せたくなかったんだけど」


と言いポケットに手を突っ込む。

 俺が思わず身構えると、そこから出てきたのは1冊の本だった。

 暗くて見えないので部屋の明かりを付け、よく目を凝らすと、


「ッ!!!」


そこには、去年俺が書いた秘密の同人誌があった。


「え?!は?!」


急いで俺の部屋に向かい、机の引き出しを開けるとその薄い本はまだ引き出しの中に残っていた。

 あの本を持っているということは、あいつは本当に俺の未来の俺で、未来からあの本を持ってきたのか?


 部屋に戻ると、そいつは俺の書いた本をあろうことか朗読し始めた。

 よく見ると読んでいる本人も顔を真っ赤にしている。


「やめろー!」


叫びながらそいつから本を奪い返す。

 未来の俺は吃驚びっくりしたような、安堵あんどしたような表情で


「……ふぅ。これで俺が未来の君だって事が分かったかい?」


と、ニヤニヤしながらこちらを見つめて来る。


「分かったよ。」


と言い、両手を上げて降参のポーズを作る。


「それで、未来から一体なんで来たんだ?」


と訊くと、未来の俺はまた顔をニヤつかせながら


「今お前、彼女居ないだろ?」


と言ってきた。


「だったら何だよ」


少しイラッときて言い返すと


「落ち着けよ〜別に茶化しに来たわけじゃないんだって」

「俺が言いたいのは、お前にも近いうちに未来の結婚相手…彼女が出来るって事を知らせに来たんだよ。」


と言ってきた。


「は?俺に彼女が?」


一体それはどういう事だと問い正そうとすると未来の俺は腕時計をチラッと見て、


「あ、時間だ。じゃあまた来るから!」


 と蒼い光に包まれて消えていった。

 しばらくすると母と父が


「おはよ〜。」


と言いながら部屋に入ってくる。

 とりあえずリビングに戻りながら


「おはよ〜。」


と言うと、母が


「龍太郎、その手に持ってる本どうしたの?」


と訊いてきた。


「本?」


 ふと右手を見ると、そこにはあの忌まわしい本が握られていた。

 はっとして本を抱えながら


「なんでもない!!」


 と自分の部屋まで全力で逃げ、それを机の引き出しに封印した。

 ほっとしたところで急に意識が遠のき、目が覚めたら部屋で横になっていたのだ。

 母には大事をとって今日は学校を休みなさいと言われてしまった。

 とにかく暇なので、俺は2冊に増えてしまった黒歴史である同人誌を、そっとゴミ箱に入れた。

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