子供達と神々の神楽 ～序の章～

敵の襲来

　葉（よう）司（じ）、北（ほく）斗（と）、太（たい）耀（よう）が臣器（おみき）の個（こ）人（じん）練（れん）習（しゅう）を始（はじ）めて暫（しばら）く。

　オモイカネが恵（え）理（り）花（か）と薫（かおる）に、今（いま）の子（こ）供（ども）達（たち）の生（せい）活（かつ）について聞（き）いている。

　それを見（み）ていたスセリも途（と）中（ちゅう）から話（はな）しに加（くわ）わった。

「そう言（い）えば御（お）二（ふた）方（かた）は、何故（なぜ）私（わたし）達（たち）にこの様（よう）な事（こと）を聞（き）くのですか？」

　薫（かおる）にそう問（と）われ、オモイカネは答（こた）えを返（かえ）す。

「確（たし）かギャップとか言（い）うのであったな、それを埋（う）めようと思（おも）ったのだ」

「私（わたし）達（たち）の思（おも）ってる以（い）上（じょう）に、考（かんが）えに違（ちが）いが有（あ）りそうだし、私（わたし）が言（い）うのも何（なん）だけど暇（ひま）でしょう？　時（じ）間（かん）は有（ゆう）効（こう）に使（つか）わないと」

　スセリもそう続（つづ）けたが、２神（しん）の本（ほん）心（しん）はオモイカネが言（い）ってしまった不（ふ）安（あん）を煽（あお）る言（こと）葉（ば）から、恵（え）理（り）花（か）と薫（かおる）の気（き）を逸（そ）らす為（ため）。

　思（おも）い出（だ）したかの様（よう）に、スセリは紫（し）織（おり）に尋（たず）ねる。

「そうだ紫（し）織（おり）、貴女（あなた）達（たち）に私（わたし）達（たち）が如何（どう）伝（つた）わっているか教（おし）えてくれない？　この子（こ）達（たち）に私（わたし）達（たち）の事（こと）を知（し）ってもらえるし、実（じっ）際（さい）の私（わたし）達（たち）との違（ちが）いも気（き）になるから」

「それなら後（あと）で、お祖父（じい）様（さま）の本（ほん）でも読（よ）んでみませんか？　確（たし）かお祖父（じい）様（さま）が、そっち方（ほう）面（めん）の本（ほん）を何（なん）冊（さつ）か書（か）いていましたし」

　薫（かおる）がスセリの言（こと）葉（ば）にそう返（かえ）すと、恵（え）理（り）花（か）が少（すこ）し驚（おどろ）いて薫（かおる）に聞（き）く。

「薫（かおる）君（くん）の御（お）祖父（じい）さん、物（もの）書（か）きだったの？」

「いいえ、確（たし）か本（ほん）業（ぎょう）は大（だい）学（がく）教（きょう）授（じゅ）です。本（ほん）の執（しっ）筆（ぴつ）は趣（しゅ）味（み）みたいなモノだと言（い）ってましたが」

「そうなんだ、今（こん）度（ど）読（よ）んでみようかな。薫（かおる）君（くん）、御（お）祖父（じい）さんのペンネームは？」

「お祖父（じい）様（さま）は本（ほん）みょ――」

　そこまで薫（かおる）が言（い）いかけ、紫（し）織（おり）がその言（こと）葉（ば）を遮（さえぎ）る。

「恵（え）理（り）花（か）。大（だい）学（がく）の先（せん）生（せい）の本（ほん）なんて、小（しょう）学（がく）生（せい）が見（み）ても解（わか）らないさ」

　遮（さえぎ）った紫（し）織（おり）の言（こと）葉（ば）で薫（かおる）は気（き）付（づ）く、紫（し）織（おり）に物（もの）凄（すご）く睨（にら）まれている事（こと）に。

　取（と）り繕（つくろ）う為（ため）に薫（かおる）は言（い）う。

「そっ……そうですよ、私（わたし）も良（よ）く解（わか）りませんでしたし」

　そんな人（にん）間（げん）達（たち）の様（よう）子（す）を見（み）て、オモイカネは不（ふ）思（し）議（ぎ）に思（おも）いスセリに念（ねん）話（わ）で聞（き）く。

（「スセリ、コ（・）レ（・）は如何（どう）言（い）う事（こと）だ？」）

　するとスセリはクスクス笑（わら）いながらオモイカネに念（ねん）話（わ）で言（い）い返（かえ）す。

（「歳（とし）の割（わ）りに可愛（かわい）らしい事（こと）するわね紫（し）織（おり）」）

（「訳（わけ）が分（わ）からん……」）

　　★★★★

「どうだ北（ほく）斗（と）」

　葉（よう）司（じ）と太（たい）耀（よう）は、龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）が空（くう）中（ちゅう）に円（えん）状（じょう）に留（とど）まり、その中（なか）を上（うえ）から鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）が翼（つばさ）を抱（か）かえて通（つう）過（か）し、地（じ）面（めん）すれすれで再（さい）度（ど）飛（ひ）翔（しょう）すると言（い）う芸（げい）当（とう）を北（ほく）斗（と）に見（み）せた。

　個（こ）人（こじん）練（れん）習（しゅう）を始（はじ）めてから、大（だい）体（たい）35分（ふん）ぐらいが経（けい）過（か）している。

「太（たい）耀（よう）君（くん）、だいぶ空（そら）飛（と）ぶ方（ほう）法（ほう）上手（うま）くなってきたね」

　北（ほく）斗（と）がそう言（い）うと、太（たい）耀（よう）が自（じ）信（しん）満（まん）々（まん）に言（い）う。

「僕（ぼく）にかかれば当（とう）然（ぜん）さ」

「あぁ、格（かっ）好（こう）付（つ）けが何（なん）か言（い）ってるよ」

　葉（よう）司（じ）が呆（あき）れた様（よう）子（す）でそう言（い）い、北（ほく）斗（と）が二（ふた）人（り）に聞（き）く。

「それにしても、アニメみたいに機（き）械（かい）じゃなくてよかってね」

「確（たし）かに小（しょう）五（ご）で、機（き）械（かい）の操（そう）縦（じゅう）とか無（む）茶（ちゃ）に決（き）まってるぜ」

　そう言（い）う葉（よう）司（じ）に太（たい）耀（よう）は続（つづ）け様（ざま）に言（い）う。

「もしかして合（がっ）体（たい）とかしたりしてな」

「それはテレビの……見（み）過（す）ぎだ！」

　葉（よう）司（じ）はそう言（い）いながら、龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）の尻尾（しっぽ）で狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）に薙（な）ぎ払（はら）いの攻（こう）撃（げき）を仕（し）掛（か）けるが、狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）はそれを軽（かる）々（がる）躱（かわ）す。

「残（ざん）念（ねん）、そんな大（おお）振（ぶ）りの攻（こう）撃（げき）当（あ）たらないよ」

　北（ほく）斗（と）が葉（よう）司（じ）に向（む）けてそう言（い）うと、葉（よう）司（じ）は言（い）う。

「やっぱり、話（はな）しをしながら別（べつ）の事（こと）考（かんが）えるってムズいな」

「お前（まえ）にそんな事（こと）出（で）来（き）たら、世（せ）界（かい）に雪（ゆき）が降（ふ）るだろ」

　太（たい）耀（よう）が葉（よう）司（じ）をそう煽（あお）ると、葉（よう）司（じ）は少（すこ）しムッとして言（い）い返（かえ）す。

「そのケンカ、乗（の）った！」

　今（こん）度（ど）は鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）に、龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）で尻尾（しっぽ）の薙（な）ぎ払（はら）い攻（こう）撃（げき）を仕（し）掛（か）ける葉（よう）司（じ）だが、やはり龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）の攻撃（こうげき）は鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）に軽（かる）々（がる）躱（かわ）された。

「くそ、やっぱり当（あ）たんねぇ。コイツ何（なん）かワンテンポ遅（おそ）いんだよ」

　悔（くや）しそうにそう言（い）いう葉（よう）司（じ）に、北（ほく）斗（と）はフォローを入（い）れる。

「スセリが、制（せい）御（ぎょ）が大（たい）変（へん）って言（い）ってたもんね」

　その時（とき）、不（ふ）意（い）に何所（どこ）からか少（しょう）年（ねん）の声（こえ）が聞（き）こえて来（く）る。

「なら、コ（・）レ（・）は如何（どう）避（さ）ける……」

　そして近（ちか）くを流（なが）れている川（かわ）の水（みず）が、結（けっ）界（かい）上（じょう）空（くう）に吸（す）い寄（よ）せられて行（い）く。

「さぁ黒（くろ）母（ぼ）蛇（じゃ）の比礼（ひれ）よ。蛟（みずち）と成（な）りて、結（けっ）界（かい）ごと吹（ふ）き飛（と）ばせ！」

　その少（しょう）年（ねん）の声（こえ）と共（とも）に川（かわ）からの吸（す）い寄（よ）せは止（や）み、上（じょう）空（くう）に吸（す）い寄（よ）せられた水（みず）は次（し）第（だい）に全（ぜん）長（ちょう）25メートル程（ほど）の黒（くろ）い蛟（みずち）に変（へん）じる。

　そして黒（くろ）い蛟（みずち）が、スセリの張（は）った結（けっ）界（かい）に突（つ）っ込（こ）んで来（き）た。

「うわぁ、こっち来（く）るぞ！」

　　パッキャン

　葉（よう）司（じ）がそう言（い）っている間（あいだ）に、結（けっ）界（かい）は黒（くろ）い蛟（みずち）により上（じょう）部（ぶ）から砕（くだ）かれ、それと同（どう）時（じ）に葉（よう）司（じ）達（たち）の姿（すがた）が通（つう）行（こう）人（にん）達（たち）の目（め）に晒（さら）される。

　　ズバコーン

　　　ガツコーン

　　　　ガッシャーン

「「うわぁぁぁぁ！」」

　更（さら）に黒（くろ）い蛟（みずち）に臣器（おみき）を弾（はじ）き飛（と）ばされ、葉（よう）司（じ）、北（ほく）斗（と）、太（たい）耀（よう）は悲鳴（ひめい）を上げ……

　　バッシャーン

　黒（くろ）い蛟（みずち）はその後（あと）、川（かわ）の上（じょう）空（くう）に移（い）動（どう）し普通（ふつう）の水（みず）に戻（もど）った。

「二（ふた）人（り）共（とも）、大（だい）丈（じょう）夫（ぶ）？」

　臣器（おみき）内（ない）の揺（ゆ）れが収（おさ）まり、北（ほく）斗（と）が葉（よう）司（じ）と太（たい）耀（よう）にそう言（い）って安（あん）否（ぴ）の確（かく）認（にん）をすると、葉（よう）司（じ）が言（い）う。

「俺（おれ）は何（なん）とか……」

「……それより結（けっ）界（かい）が！」

　更（さら）に太（たい）耀（よう）がそう言（い）った後（あと）、三（さん）人（にん）は臣器（おみき）で河川（かせん）敷（しき）の周（まわ）りを見（み）回（まわ）す。

　すると昼（ひる）近（ちか）くで昨日（きのう）の入（にゅう）学（がく）式（しき）のお祝（いわ）いに、外（がい）食（しょく）や買（か）い物（もの）に出（で）ている家（か）族（ぞく）連（つ）れの車（くるま）が結（けっ）構（こう）居（お）り、その所為（せい）でかなりの人（ひと）々（びと）が立（た）ち止（ど）まったり車（くるま）を降（お）りて、自（じ）分（ぶん）達（たち）の事（こと）を見（み）ている事（こと）が確認（かくにん）出（で）来（き）た。

（不味（まず）い、このままじゃ迂（う）闊（かつ）に動（うご）けない……）

　そんな異（こと）を考（かんが）えている太（たい）耀（よう）の耳（みみ）に、聞（き）き慣（な）れない声（こえ）が聞（き）こえて来（く）る。

　それは葉（よう）司（じ）も北（ほく）斗（と）も同（おな）じ。

「やぁ、生（せい）命（めい）の息吹（いぶ）き。我（われ）は碧（へき）魂（こん）。魄（はく）と黒（くろ）の皇（おう）子（じ）、風（かぜ）丸（まる）」

　先（さき）程（ほど）聞（き）いた子（こ）供（ども）の声（こえ）と共（とも）に、龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）の目（め）の前（まえ）に、白（しろ）い腕（うで）を胸（むね）の前（まえ）で組（く）んだ、黒（くろ）刺青（いれずみ）と白（しろ）い鱗（うろこ）の肌（はだ）が印（いん）象（しょう）的（てき）な、白（しろ）い半（はん）ズボンに碧（へき）色（いろ）の腰（こし）巻（ま）き姿（すがた）の、葉（よう）司（じ）より少（すこ）し小（こ）柄（がら）な少（しょう）年（ねん）が……

「我（われ）を見（み）よ、想（そう）像（ぞう）の鎚（つち）。われは勇（いさ）みし者（もの）の王（おう）。その名（な）は鬼（おに）丸（まる）」

　その男（だん）性（せい）の声（こえ）と共（とも）に狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）の目（め）の前（まえ）には、赤（あか）鬼（おに）の面（めん）を付（つ）け、赤（あか）い狩（かり）衣（ぎぬ）姿（すがた）の、小（こ）槌（づち）を持（も）った青（せい）年（ねん）が……

「聞（き）くがいい、言（こと）の葉（は）の法（ほう）よ。儂（わし）は導（みちび）きの言（こと）の葉（は）。天（てん）狗（ぐ）丸（まる）」

　その初（しょ）老（ろう）の男（だん）性（せい）の声（こえ）と共（とも）に鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）の前（まえ）には、錫（しゃく）杖（じょう）を持（も）った、白（しろ）い翼（つばさ）を持（も）つ、黒（くろ）い顔（かお）をした鼻（はな）高（たか）天（てん）狗（ぐ）が……

　姿（すがた）を現（あら）わした。

　風（かぜ）丸（まる）、鬼（おに）丸（まる）、天（てん）狗（ぐ）丸（まる）は其（それ）々（ぞれ）挨（あい）拶（さつ）を済（す）ませると、天（てん）狗（ぐ）丸（まる）だけその場（ば）を少（すこ）し離（はな）れ話（はな）し出（だ）す。

「風（かぜ）丸（まる）、鬼（おに）丸（まる）共（とも）に力（ちから）の鱗（りん）片（ぺん）は見（み）た筈（はず）だ……」

「じゃあ、さっき結（けっ）界（かい）を壊（こわ）しやがったのは」

　葉（よう）司（じ）がそう言（い）うと、風（かぜ）丸（まる）はクスクス笑（わら）い葉（よう）司（じ）に言（い）い返（かえ）す。

「そうだ、俺（おれ）の力（ちから）さ。如何（どう）だ？　怖（こわ）かったか？　何（なん）て聞（き）かなくても判（わか）るか……　全（まった）く動（うご）けないんだからな」

　風（かぜ）丸（まる）の言（い）う通（とお）り、三（さん）人（にん）は確（たし）かに動（うご）けない。

　先（さき）程（ほど）の攻（こう）撃（げき）が怖（こわ）かった事（こと）も有（あ）るが、葉（よう）司（じ）達（たち）三（さん）人（にん）が動（うご）けない理（り）由（ゆう）がそれ以（い）外（がい）にも有（あ）る。

　風（かぜ）丸（まる）、鬼（おに）丸（まる）、天（てん）狗（ぐ）丸（まる）が怖（こわ）いのだ……

　対（たい）面（めん）してみて改（あらた）めて恐（きょう）怖（ふ）が沸（わ）いて来（き）たのだ。

　それを知（し）ってか知（し）らでか、鬼（おに）丸（まる）と風（かぜ）丸（まる）は葉（よう）司（じ）達（たち）を煽（あお）り始（はじ）める。

「アラハバキ様（さま）に生（なま）身（み）で立（た）ち向（むか）った子（こ）供（ども）達（たち）とは思（おも）えんな。離（はな）れた所（ところ）に居（い）る、あの小（こ）娘（むすめ）を傷（きず）付（つ）ければ向（む）かって来（く）るか？」

「止（や）めてやれ、そんな事（こと）をしても、此奴（こいつ）等（ら）はビビって動（うご）きはしないさ」

　そう言（い）いながら鬼（おに）丸（まる）と風（かぜ）丸（まる）は、三（さん）人（にん）を無（む）視（し）して恵（え）理（り）花（か）達（たち）の方（ほう）へと、ゆっくり移動（いどう）し始（はじ）めた。

　　ガコン

　　　ガコン

　　　　ガコン

「「怖（こわ）くなんか！」」

　そう言（い）いながら葉（よう）司（じ）と北（ほく）斗（と）が、龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）と狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）で後（うし）ろから攻（こう）撃（げき）を試（こころ）みるが、龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）の攻撃（こうげき）は風（かぜ）丸（まる）に躱（かわ）され、狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）の攻撃（こうげき）は鬼（おに）丸（まる）に片（かた）手（て）で受（う）け止（と）められる。

「「甘（あま）い！」」

　風（かぜ）丸（まる）と鬼（おに）丸（まる）はそう言（い）うと、更（さら）に鬼（おに）丸（まる）は持（も）っていた小槌（こづち）で狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）の下（した）顎（あご）を叩（たた）き上（あ）げる。

　　ガツコーン

「うわぁぁぁ！」

　すると北（ほく）斗（と）が攻（こう）撃（げき）の衝（しょう）撃（げき）に叫（さけ）び……

　　ガコン

　狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）は宙（ちゅう）に浮（う）き、180度（ど）回（かい）転（てん）しながら落（らっ）下（か）した。

　一（いっ）方（ぽう）葉（よう）司（じ）の方（ほう）は、風（かぜ）丸（まる）に風（かぜ）丸（まる）の尻尾（しっぽ）を掴（つか）まれてしまう。

「次（つぎ）はお前（まえ）だ、生（せい）命（めい）の息（い）吹（ぶ）き！」

　そう言（い）った風（かぜ）丸（まる）は、自（みずか）らの腕（うで）に命（めい）令（れい）する。

（ミシャグジ、加（か）減（げん）はしろよ……）

　　ブオン

　　　ズバコーン

　すると龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）は弧（こ）を描（えが）きながら地（じ）面（めん）に叩（たた）き付（つ）けられ、その衝（しょう）撃（げき）で葉（よう）司（じ）が叫（さけ）ぶ。

「うわぁぁぁ！」

　死（し）なない程（てい）度（ど）の揺（ゆ）れは、葉（よう）司（じ）と北（ほく）斗（と）の頭（あたま）を揺（ゆ）らし、頭（あたま）をフラ付（つ）かせ、なけなしの勇（ゆう）気（き）を削（けず）って行（ゆ）く。

　その姿（すがた）を、核（かく）の鏡（かがみ）越（ご）しに見（み）ている太（たい）耀（よう）は悩（なや）む。

（怖（こわ）い……　でも、どうにかしないと）

　悩（なや）んでいる太（たい）耀（よう）に天（てん）狗（ぐ）丸（まる）が言（い）う。

「聞（き）け、言（こと）の葉（は）の法（ほう）よ」

　天（てん）狗（ぐ）丸（まる）の言（こと）葉（ば）に、太（たい）耀（よう）の意（い）識（しき）は天（てん）狗（ぐ）丸（まる）に向（む）き、視（し）線（せん）を臣器（おみき）越（ご）しに天（てん）狗（ぐ）丸（まる）に向（む）けた。

「貴（き）様（さま）は何故（なぜ）動（うご）かん？」

　そう天（てん）狗（ぐ）丸（まる）に言（い）われた太（たい）耀（よう）は、怒（おこ）った振（ふ）りをして言（い）い返（かえ）す。

「うるさい！」

　そう言（い）い返（かえ）してみても、太（たい）耀（よう）には良（よ）い考（かんが）えが思（おも）い付（つ）かない……

（むやみに突（つ）っ込（こ）んで行っても……）

　いや怖（こわ）い為（ため）、理（り）由（ゆう）を付（つ）けて動（うご）きたくないのだ。

「やはり子（こ）供（ども）か。お前（まえ）のその行（こう）動（どう）の背（せ）中（なか）を押（お）してやろう」

　天（てん）狗（ぐ）丸（まる）はそう言（い）うと、錫（しゃく）杖（じょう）を鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）に突（つ）き付（つ）ける。

　　ジャラン

「オン、ヒラヒラケン……ヒラケンノウソワカ。我（われ）が言（こと）の刃（は）よ、我（われ）等（ら）が火（ひ）の粉（こ）達（たち）の動（うご）きを止（と）めよ！」

　そう言（い）いながら錫（しゃく）杖（じょう）をクルクルと回（まわ）し、頭（ず）上（じょう）に掲（かか）げた天（てん）狗（ぐ）丸（まる）を見（み）て、太（たい）耀（よう）は自（みずか）らの視界（しかい）を頭（ず）上（じょう）に向（む）けた。

　すると鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）の頭（ず）上（じょう）に数（すう）本（ほん）、光（ひか）りの刃（やいば）が出（しゅつ）現（げん）している。

　もしやと重（おも）い、太（たい）耀（よう）が龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）と狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）の方（ほう）も確（かく）認（にん）すると、龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）と狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）の頭（ず）上（じょう）にも、数（すう）本（ほん）の光（ひか）りの刃（やいば）が出（しゅつ）現（げん）していた。

「二（ふた）人（り）共（とも）、上（うえ）から天（てん）狗（ぐ）の攻（こう）撃（げき）が——」

　太（たい）耀（よう）が慌（あわ）てて、通（つう）信（しん）機（き）能（のう）を使（つか）わず葉（よう）司（じ）と北（ほく）斗（と）にそう呼（よ）び掛（か）けるが、天（てん）狗（ぐ）丸（まる）はその言（こと）葉（ば）を遮（さえぎ）る。

「遅（おそ）いわ！」

　天（てん）狗（ぐ）丸（まる）が錫（しゃく）杖（じょう）を振（ふ）り降（お）ろす動（どう）作（さ）をすると、光（ひか）りの刃（やいば）が臣器（おみき）達（たち）を襲（おそ）う。

（！　……？）

　だが、来（く）る筈（はず）の衝（しょう）撃（げき）が来（こ）無（な）い。

　太（たい）耀（よう）は不（ふ）思（し）議（ぎ）に思（おも）いながら、天（てん）狗（ぐ）丸（まる）の方（ほう）へ視（し）界（かい）を向（む）けようとするが……

　何（なん）と自（じ）分（ぶん）の顔（かお）以（い）外（がい）が動（うご）かない。

　更（さら）に、太（たい）耀（よう）が龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）と狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）の姿（すがた）を確（かく）認（にん）すると、二（に）器（き）共（とも）光（ひか）りの刃（やいば）でその場（ば）に繋（つな）ぎ止（と）められていた。

「鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）、その場（ば）から離（はな）れろ！」

　念（ねん）の為（ため）、太（たい）耀（よう）は核（かく）の鏡（かがみ）に命令（めいれい）をするが、鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）が動（うご）く気（け）気配（はい）は無（な）い。

「何（なん）だ、体（からだ）が動（うご）かねぇ？」

「ダメだ狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）も動（うご）かない？」

　葉（よう）司（じ）と太（た）狼（ろう）は自（じ）身（しん）の状（じょう）態（たい）が分（わ）からず、混（こん）乱（らん）している。

「天（てん）狗（ぐ）が光（ひか）りの刃（やいば）で臣器（おみき）の動（うご）きを止（と）めたんだ」

　そう核（かく）の鏡（かがみ）越（ご）しに、太（たい）耀（よう）が現状（げんじょう）を二（ふた）人（り）に説（せつ）明（めい）していると、天（てん）狗（ぐ）丸（まる）が鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）を通（とお）した太（たい）耀（よう）の視（し）界（かい）にやって来（き）て言（い）う。

「如何（どう）だ動（うご）けまい、コ（・）レ（・）は言（こと）の葉（は）の刃（やいば）。我（わ）が言（こと）葉（ば）を聞（き）いて、お前（まえ）達（たち）の恐（きょう）怖（ふ）が生（う）み出（だ）した楔（くさび）」

　　ざわ

　　　ざわ

　　　　ざわ

　河川（かせん）敷（しき）の周（まわ）りでこの出（で）来（き）事（ごと）を見（み）ていた人（ひと）々（びと）は、次（し）第（だい）にざわめき出（だ）した。

｢何（なん）だアレ！｣

｢アレは天狗（てんぐ）と鬼（おに）か？｣

｢蛇（へび）みたいな奴（やつ）、叩（たた）き付（つ）けたのは子供（こども）か？｣

｢誰（だれ）か警（けい）察（さつ）……いや、自（じ）衛（えい）隊（たい）を呼（よ）べ！｣

　ざわめく人（ひと）々（びと）を見（み）回（まわ）しながら、天（てん）狗（ぐ）丸（まる）は思（おも）う。

（これが人（ひと）の言（い）う、百（ひゃく）聞（ぶん）は一（いっ）見（けん）に如（し）かずと言（い）うモノか。天（てん）狗（ぐ）の姿（すがた）を取（と）ってはみたが、人（ひと）々（びと）の反（はん）応（のう）を見（み）る限（かぎ）り、正（せい）解（かい）の様（よう）だな）