子供達と神々の神楽 ～序の章～

臣器の力

「たく、何（なん）だよお前（まえ）等（ら）。感（かん）じわりぃな」

　葉（よう）司（じ）がそう言（い）うと、スセリが葉（よう）司（じ）に聞（き）く。

「葉（よう）司（じ）、もしかして二（ふた）人（り）と話（はな）しをしているのかしら？」

　スセリがそうに聞（き）いて来（き）たので、葉（よう）司（じ）は答（こた）える。

「そうだけど？」

「ねぇ悪（わる）いんだけど。貴方（あなた）も含（ふく）めて、三（さん）人（にん）の今（いま）の会（かい）話（わ）の状（じょう）態（たい）を教（おし）えてくれない」

　そうスセリに言（い）われた葉（よう）司（じ）は、如何（どう）説（せつ）明（めい）しようか悩（なや）む。

「会（かい）話（わ）の状（じょう）態（たい）ったって……」

　そう呟（つぶや）いた葉（よう）司（じ）に、太（たい）耀（よう）が聞（き）く。

「どうしたんだ葉（よう）司（じ）？」

「スセリが会（かい）話（わ）の状（じょう）態（たい）を教（おし）えて欲（ほ）しいんだとさ。て言（い）うかお前（まえ）等（ら）、スセリの声（こえ）聞（き）こえねぇのかよ？」

　葉（よう）司（じ）がそう言（い）うと、太（たい）耀（よう）が葉（よう）司（じ）の言（こと）葉（ば）に答（こた）える。

「今（いま）聞（き）こえているのは二（ふた）人（り）の声（こえ）だけだ、外（そと）の奴（やつ）とは離（はな）れ過（す）ぎているし」

「ボクも同（おな）じ」

　北（ほく）斗（と）がそう続（つづ）けると、太（たい）耀（よう）が言（い）う。

「そう言（い）えばこの通（つう）信（しん）機（き）能（のう）、スセリ不（ふ）思（し）議（ぎ）がってたな。北（ほく）斗（と）が戻（もど）って説（せつ）明（めい）した方（ほう）が良（よ）くないか？」

「だそうだぜ、スセリ？」

　太（たい）耀（よう）の言（こと）葉（ば）を受（う）けて葉（よう）司（じ）がスセリにそう言（い）うが、スセリは困（こま）った顔（かお）をして答（こた）える。

「ごめんなさい、貴方（あなた）の声（こえ）しか聞（き）こえて来（こ）ないわ」

　結（けっ）局（きょく）、葉（よう）司（じ）、北（ほく）斗（と）、太（たい）耀（よう）はスセリに臣器（おみき）に新（あら）たに出（で）来（き）た、通（つう）信（しん）機（き）能（のう）が如何（どう）言（い）うモノかきちんと説（せつ）明（めい）する事（こと）を決（き）め、スセリと共（とも）に結（けっ）界（かい）の中（ちゅう）心（しん）に集（あつ）まっていた。

　他（た）の二（ふた）人（り）と連（れん）絡（らく）が取（と）りたいと考（かんが）えたら、狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）の内（ない）部（ぶ）に通（つう）信（しん）用（よう）の鏡（かがみ）が出（で）来（き）た事（こと）を北（ほく）斗（と）から聞（き）き、葉（よう）司（じ）と太（たい）耀（よう）から通（つう）信（しん）機（き）能（のう）の媒（ばい）介（かい）が、大（たい）剣（けん）と鏡（かがみ）だと聞（き）いたスセリは、謎（なぞ）の通（つう）信（しん）機（き）能（のう）が何故（なぜ）付（ふ）与（よ）されたのかを理（り）解（かい）した。

「成程（なるほど）、謎（なぞ）の通（つう）信（しん）機（き）能（のう）の正（しょう）体（たい）が判（わか）りました」

　スセリはそう言（い）うと、葉（よう）司（じ）、北（ほく）斗（と）、太（たい）耀（よう）に説（せつ）明（めい）を始（はじ）める。

「多（た）分（ぶん）今（こん）回（かい）のモノは、北（ほく）斗（と）が葉（よう）司（じ）や太（たい）耀（よう）と連（れん）絡（らく）を取（と）りたいと核（かく）に願（ねが）った為（ため）に出（で）来（き）たモノでしょう。その所為（せい）で三（さん）人（にん）の間（あいだ）でしか言（こと）葉（ば）のやり取（と）りが出（で）来（き）ないのだと思（おも）います。狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）は鉱（こう）物（ぶつ）の生（せい）成（せい）や変（へん）化（か）、結（けつ）合（ごう）分（ぶん）解（かい）が出（で）来（き）、今（いま）作（つく）った通（つう）信（しん）機（き）の様（よう）な不（ふ）思（し）議（ぎ）なモノも生（う）み出（だ）す事（こと）が可（か）能（のう）です。生（い）きてはいない物（もの）に限（かぎ）りますが」

「いまいち良（よ）く分からないんだけど？」

　北（ほく）斗（と）がスセリの説（せつ）明（めい）に対（たい）してそう言（い）うと、スセリは首（くび）を横（よこ）に振（ふ）る。

「難（むずか）しい事（こと）は後（あと）で薫（かおる）にでも聞（き）いた方（ほう）が良（い）いでしょう。とにかく、生（い）き物（もの）以（い）外（がい）を自（じ）由（ゆう）に作（つく）れる力（ちから）だと思（おも）ってもらって構（かま）いません」

　スセリがそう言（い）うと、北（ほく）斗（と）は首（くび）を傾（かし）げ言（こと）葉（ば）を返（かえ）す。

「分（わ）かったような、分（わ）からないような？」

「それなら丁（ちょう）度（ど）良（い）いから、力（ちから）を使（つか）ってみましょう。皆（みんな）２、３歩（ぽ）ぐらい下（さ）がってくれる？」

　そう言（い）ったスセリに応（おう）じて、葉（よう）司（じ）達（たち）三（さん）人（にん）は臣器（おみき）を今（いま）居（い）る場（ば）所（しょ）から、少（すこ）し後（うし）ろに移（い）動（どう）させる。

　　ガコン

　　　ガコン

　　　　ガコン

「葉（よう）司（じ）、下（さ）がり過（す）ぎよ」

　スセリにそう言（い）われた葉（よう）司（じ）は言（い）い返（かえ）す。

「そんな事（こと）言（い）っても、コイツ飛（と）んでるから距（きょ）離（り）感（かん）が分（わ）かんねぇんだよ」

「仕（し）方（かた）ありません、それなら其所（そこ）で良（い）いでしょう」

　葉（よう）司（じ）にそう言（い）ったスセリは、葉（よう）司（じ）達（たち）３人（にん）から確（かく）認（にん）出（で）来（き）て、尚（なお）且（か）つ今（いま）まで居（い）た場（ば）所（しょ）から離（はな）れると、続（つづ）けて北（ほく）斗（と）に言（い）う。

「それじゃぁ北（ほく）斗（と）、私（わたし）達（たち）の中（ちゅう）心（しん）に金（きん）属（ぞく）の柱（はしら）を作（つく）ってみましょうか」

「作（つく）るって、どうやって？」

　北（ほく）斗（と）がスセリにそう聞（き）き返（かえ）すと、スセリは説（せつ）明（めい）をする。

「自（じ）分（ぶん）で金（きん）属（ぞく）をイメージして核（かく）に念（ねん）じるか、狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）に頼（たの）むかかしら？　初（はじ）めてだから狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）に頼（たの）む事（こと）をお勧（すす）めするわ、見（み）易（やす）い様（よう）に４メートルぐらいの鉄（てっ）柱（ちゅう）で如何（どう）かしら?」

「分（わ）かったよスセリ。狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）、ボク等（ら）の居（い）る中（ちゅう）心（しん）に４メートルぐらいの鉄（てっ）柱（ちゅう）を作（つく）ってくれる？」

　そう答（こた）えた北（ほく）斗（と）は核（かく）に触（ふ）れ、今（いま）言（い）った事（こと）を核（かく）を通（とお）して狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）に命（めい）令（れい）した。

「ワオーン！」

　すると狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）が空（そら）に向（む）かって吼（ほ）え、北（ほく）斗（と）達（たち）の目（め）の前（まえ）に、隆（りゅう）起（き）した４メートル程（ほど）の水（すい）晶（しょう）状（じょう）の鉄（てつ）の柱（はしら）が地（じ）面（めん）から生（せい）成（せい）される。

「やった、出（で）来（き）た！」

　喜（よろこ）ぶ北（ほく）斗（と）に、スセリは注（ちゅう）意（い）を言（い）う。

「この力（ちから）は砂（すな）や金（きん）属（ぞく）、人（じん）工（こう）物（ぶつ）の上（うえ）でしか出（で）来（き）ません。覚（おぼ）えておいて」

「スセリ、こんな力（ちから）僕（ぼく）等（ら）も使（つか）えるのか？」

　太（たい）耀（よう）がスセリにそう尋（たず）ねると、スセリは難（むずか）しい顔（かお）をして答（こた）える。

「勿（もち）論（ろん）です。鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）は日（ひ）の光（ひか）りや熱（ねつ）の制（せい）御（ぎょ）が出（で）来（き）ます。但（ただ）し日（ひ）の光（ひか）りを武（ぶ）器（き）として使（つか）う事（こと）は、余（あま）り褒（ほ）められた事（こと）でない事（こと）を覚（おぼ）えておいて下（くだ）さい……」

　そう言（い）い終（お）わったスセリに、今（こん）度（ど）は葉（よう）司（じ）が聞（き）く。

「スセリ、龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）は？」

「待（ま）ちなさい葉（よう）司（じ）、まずは鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）からです。太（たい）耀（よう）いいですか、此（こ）れからやる事（こと）を見（み）て居（い）なさい……」

　そう言（い）うとスセリは怖（こわ）い顔（かお）をして、狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）が作（つく）った鉄（てっ）柱（ちゅう）を右（みぎ）手（て）で指（さ）し示（しめ）し、鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）に言（い）う。

「鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）。この鉄（てつ）の柱（はしら）を溶（と）かす位（くらい）の温（おん）度（ど）で、光（ひか）りの柱（はしら）を３寸（すん）の幅（はば）で１秒（びょう）作（つく）って下（くだ）さい。出（で）来（き）れば見（み）て判（わか）る様（よう）に」

「クゥワッー」

　鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）が鉄（てつ）の柱（はしら）に向（む）かって鳴（な）くと、鉄（てつ）の柱（はしら）の頭（ず）上（じょう）中（ちゅう）心（しん）に細（ほそ）い光（ひか）りの柱（はしら）が１秒（びょう）だけ現（あらわ）れる。

　そしてその光（ひか）りの柱（はしら）が消（き）えると、そこにはデロデロに内（ない）部（ぶ）が溶（と）けた鉄（てつ）の柱（はしら）が在（あ）った。

　スセリはその鉄（てつ）の柱（はしら）を確（かく）認（にん）した後（のち）、太（たい）耀（よう）に説（せつ）明（めい）を始（はじ）める。

「人（ひと）を巻（ま）き込（こ）まないのが一（いち）番（ばん）良（よ）いのだけど、もしもの事（こと）が有（あ）るかもしれない……　もし今（いま）の様（よう）な攻（こう）撃（げき）が誤（あやま）って生（い）き物（もの）に向（む）かったら、防（ふせ）ぎ様（よう）が有（あ）りません。だから出（で）来（き）るだけこう言（い）う使（つか）い方（かた）は控（ひか）えて下（くだ）さい」

　スセリにそう忠（ちゅう）告（こく）され、太（たい）耀（よう）は真（ま）面（じ）目（め）な顔（かお）で頷（うなず）き返（へん）事（じ）を返（かえ）す。

「分（わ）かった」

　太（たい）耀（よう）がそう言（い）い終（お）わると、スセリは葉（よう）司（じ）と北（ほく）斗（と）に向（む）けてお願（ねが）いをする。

「貴方（あなた）達（たち）も、気（き）を付（つ）けて下（くだ）さいね」

「おう」

「うん」

　スセリに念（ねん）を押（お）され、葉（よう）司（じ）と北（ほく）斗（と）は頷（うなず）き返（へん）事（じ）を返（かえ）した。

　その後（ご）スセリは怖（こわ）い顔（かお）を辞（や）め、鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）に向（む）き直（なお）り話（はな）しを続（つづ）ける。

「それ以（い）外（がい）には、光（ひか）りの屈（くっ）折（せつ）を利（り）用（よう）して姿（すがた）を消（け）したり、闇（やみ）を作（つく）り出（だ）す事（こと）も出（で）来（き）ます。まぁ、鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）は日（にっ）光（こう）の中（なか）でしか存（そん）在（ざい）出（で）来（き）ないのだけど。それと先（さき）程（ほど）私（わたし）が外（そと）から鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）に命（めい）令（れい）しましたが、貴方（あなた）が操（あやつ）っている場（ば）合（あい）、私（わたし）の様（よう）な例（れい）外（がい）を除（のぞ）いて、鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）が他（た）の者（もの）の言（い）う事（こと）を聞（き）く事（こと）はありません」

「説（せつ）明（めい）ありがとうスセリ」

　太（たい）耀（よう）がそう御（お）礼（れい）を言（い）い、スセリは返（へん）事（じ）を返（かえ）す。

「如何（どう）いたしまして」

　そして龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）の方（ほう）へ目（め）を向（む）け、葉（よう）司（じ）に向（む）けて言（い）う。

「最（さい）後（ご）に、お待（ま）たせ葉（よう）司（じ）。龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）の説（せつ）明（めい）を始（はじ）めます」

「よし、何（なん）でも来（こ）い！」

　葉（よう）司（じ）がそう返（へん）事（じ）を返（かえ）すと、スセリはクスクス笑（わら）って尋（たず）ねる。

「威（い）勢（せい）が良（い）いわね」

「威（い）勢（せい）だけわね」

　太（たい）耀（よう）が続（つづ）けてそう言（い）ったので、葉（よう）司（じ）は太（たい）耀（よう）に怒（おこ）る。

「太（たい）耀（よう）。お前（まえ）、ケンカ売（う）ってんのか！」

　その様（よう）子（す）を見（み）て、口（くち）ゲンカが始（はじ）まると察（さっ）した北（ほく）斗（と）は、葉（よう）司（じ）に促（うなが）す。

「ほら葉（よう）司（じ）君（くん）、太（たい）耀（よう）君（くん）に突（つ）っ掛（か）かってないで、スセリの話（はな）し聞（き）かなきゃ」

「俺（おれ）が悪（わる）いのかよ……」

　文（もん）句（く）を言（い）った葉（よう）司（じ）にスセリが言（い）う。

「これぐらい元（げん）気（き）があれば平（へい）気（き）でしょう。龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）は色（いろ）々（いろ）出（で）来（き）る反（はん）面（めん）、その力（ちから）の制（せい）御（ぎょ）が大（たい）変（へん）なのです」

「大（だい）体（たい）、何（なに）が出（で）来（き）るんだ？」

　葉（よう）司（じ）がそう質（しつ）問（もん）するとスセリは答（こた）える。

「風（かぜ）の発（はっ）生（せい）や制（せい）御（ぎょ）。木（き）々（ぎ）の生（せい）成（せい）。水（みず）を操（あやつ）る。人（ひと）の手（て）の加（くわ）わった金（きん）属（ぞく）の制（せい）御（ぎょ）。水（みず）に関（かん）しては結（けっ）界（かい）の外（そと）だから、今（こん）回（かい）は止（と）めておきましょう。木（き）々（ぎ）の生（せい）成（せい）の方（ほう）は、今（いま）は準（じゅん）備（び）が無（な）いので無理（むり）です」

「じゃあ風（かぜ）の発（はっ）生（せい）や制（せい）御（ぎょ）と、金（きん）属（ぞく）の制（せい）御（ぎょ）か。金（きん）属（ぞく）の制（せい）御（ぎょ）って、北（ほく）斗（と）の奴（やつ）とはどう違（ちが）うんだ？」

　そうスセリに葉（よう）司（じ）が聞（き）くと、スセリは言（い）う。

「狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）は生（せい）成（せい）や消（しょう）滅（めつ）は出（で）来（き）ても、その物（もの）を操（あやつ）れる訳（わけ）では有（あ）りません。其所（そこ）の溶（と）けた鉄（てつ）を、龍（リュウ）蛇（ジャ）丸（マル）の核（かく）に触（ふ）れたまま、どっちの手（て）でも良（い）いから、持（も）ち上（あ）げる想像（そうぞう）をして御（ご）覧（らん）なさい」

　葉（よう）司（じ）は言（い）われた通（とお）り、右（みぎ）手（て）で鉄（てつ）の柱（はしら）を持（も）ち上（あ）げるイメージをする。

　すると右（みぎ）手（て）に若（じゃっ）干（かん）の思（おも）さが加（くわ）わり、鉄（てつ）の柱（はしら）は浮（う）かび上（あ）がった。

「うわぁ、浮（う）いてる」

　驚（おどろ）いてる北（ほく）斗（と）を尻目（しりめ）に、スセリは葉（よう）司（じ）に言（い）う。

「物（もの）によって思（おも）さは変（か）わりますが、何（なん）となく理（り）解（かい）出（で）来（き）ましたか？」

「ああ」

　葉（よう）司（じ）がそう返（へん）事（じ）をしたので、スセリは話（はな）しを続（つづ）ける。

「それじゃあ、その鉄（てつ）の塊（かたまり）を狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）か鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）に投（な）げつけて下（くだ）さい。投（な）げる方（ほう）法（ほう）はそう思（おも）えば大（だい）丈（じょう）夫（ぶ）、格（かっ）好（こう）を真（ま）似（ね）した方（ほう）が上手（うま）く飛（と）ぶ筈（はず）です」

　それを聞（き）いて太（たい）耀（よう）と北（ほく）斗（と）は驚（おどろ）く。

「どう言（い）う事（こと）だスセリ！」

「そうだよ、酷（ひど）いよ！」

　そう文（もん）句（く）を言（い）う二（ふた）人（り）に、スセリは言（い）い返（かえ）す。

「これも練（れん）習（しゅう）です、嫌（いや）なら避（よ）けなさい」

「そう言（い）う事（こと）なら遠（えん）慮（りょ）はしないぜ！　せーの……」

　葉（よう）司（じ）が右（みぎ）腕（うで）だけ投（とう）球（きゅう）のモーションをすると、溶（と）けた鉄（てつ）の柱（はしら）は鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）目（め）掛（が）けて飛（と）んで行（い）き……

　　ガゴン

　鉄（てつ）の柱（はしら）は鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）の翼（つばさ）に当（あ）たると、鳳（ホウ）皇（オウ）丸（マル）は少（すこ）し蹌踉（よろ）け、太（たい）耀（よう）の居（い）る空（くう）間（かん）が少（すこ）し揺（ゆ）れる。

「うわっ！」

　太（たい）耀（よう）がそう叫（さけ）ぶと、スセリが太（たい）耀（よう）に聞（き）く。

「太（たい）耀（よう）、今（いま）何（なに）が起（お）きましたか？」

　そう聞（き）かれた太（たい）耀（よう）は、スセリが何（なん）で葉（よう）司（じ）にこんな事（こと）させたのか理（り）解（かい）した。

「……そう言（い）う事（こと）か。少（すこ）し揺（ゆ）れた」

　太（たい）耀（よう）がそう言（い）い終（お）ると、スセリは三（さん）人（にん）に言（い）う。

「聞（き）いての通（とお）り臣器（おみき）はダメージを受（う）けると、貴方（あなた）達（たち）の居（い）る空（くう）間（かん）に振動（しんどう）としてダメージが伝（つた）わります。どんな風（ふう）に揺（ゆ）れていたかは知（し）りませんが、大（おお）きい揺（ゆ）れが続（つづ）けば制（せい）御（ぎょ）所（どころ）ではなくなります。臣器（おみき）の中（なか）で大（おお）怪（け）我（が）をする事（こと）は有（あ）りませんが、体（からだ）をぶつければ痛（いた）いし気（き）を失（うしな）う可（か）能（のう）性（せい）も有（あ）ります。それだけは気（き）を付（つ）けて下（くだ）さい」

「ボクはその前（まえ）に、足（あし）場（ば）が狭（せま）くて落（お）ちそう……」

　そう言（い）って不（ふ）安（あん）がる北（ほく）斗（と）に、スセリが言（い）う。

「大（だい）丈（じょう）夫（ぶ）です。周（まわ）りの炎（ほのお）が、壁（かべ）の代（か）わりになってる筈（はず）ですよ」

「…………本（ほん）当（とう）だ！」

　北（ほく）斗（と）がスセリの言（こと）葉（ば）の真（しん）偽（ぎ）を、恐（おそ）る恐（おそ）る確（たし）かめそう言（い）うと、スセリは説（せつ）明（めい）を続（つづ）ける。

「因（ちな）みに臣器（おみき）が破（は）壊（かい）されると、強（きょう）制（せい）的（てき）に外（そと）の安（あん）全（ぜん）な場（ば）所（しょ）に転（てん）移（い）させられます。破（は）壊（かい）された場（ば）合（あい）、再（さい）度（ど）巨（きょ）大（だい）化（か）するまでに約（やく）１日（にち）掛（か）かる事（こと）も覚（おぼ）えておいて下（くだ）さい」

「狼（ロウ）王（オウ）丸（マル）達（たち）は意（い）識（しき）とか有（あ）りそうだけど、壊（こわ）されて大（だい）丈（じょう）夫（ぶ）なの？」

　そうスセリに北（ほく）斗（と）が聞（き）くと、スセリは真（ま）面（じ）目（め）な顔（かお）をして３人（にん）に言（い）う。

「臣器（おみき）達（たち）は確（たし）かに意（い）思（し）はあります。だからこそ貴方（あなた）達（たち）が臣器（おみき）達（たち）を大（だい）事（じ）に思（おも）うなら、無（む）理（り）な戦（たたか）いはしないように」

「「はい」」

　三（さん）人（にん）が返（へん）事（じ）を返（かえ）すと、スセリは更（さら）に話（はな）しを続（つづ）ける。

「それではこれから暫（しばら）く、個（こ）人（じん）練（れん）習（しゅう）の時（じ）間（かん）にしましょう。風（かぜ）の発（はっ）生（せい）や制（せい）御（ぎょ）はまた後（あと）で」

　　★★★★

「ただいま皆（みんな）」

　スセリが恵（え）理（り）花（か）達（たち）の居（い）る場（ば）所（しょ）に戻（もど）ってくると、オモイカネは怪（け）訝（げん）そうな顔（かお）をしてスセリを迎（むか）えた。

「あらオモイカネ、何（なに）か文（もん）句（く）が有（あ）りそうな顔（かお）をしているわね」

　スセリがそう言（い）うと、オモイカネは少（すこ）し怒（おこ）った口（く）調（ちょう）で聞（き）く。

「先（さき）程（ほど）の光（ひかり）の柱（はしら）、日（ひ）の光（ひかり）を操（あやつ）ったモノだな」

「文（もん）句（く）がありそうね、理（り）由（ゆう）は？」

　軽（かる）くそう言（い）い返（かえ）したスセリに、オモイカネは真（しん）剣（けん）な顔（かお）で言（い）う。

「日（ひ）の光（ひかり）は法（ほう）を生（う）み真（しん）実（じつ）を見（み）せる力（ちから）も有（あ）るが、１つ間（ま）違（ちが）えば世（せ）界（かい）を壊（こわ）しかねるモノ。子（こ）供（ども）に扱（あつか）いきれるとは……」

　オモイカネの言（こと）葉（ば）にスセリはクスクス笑（わら）った後（あと）返（へん）事（じ）を返（かえ）す。

「それに付（つ）いては太（たい）耀（よう）に注（ちゅう）意（い）はして有（あ）る。あの子（こ）達（たち）なら大（だい）丈（じょう）夫（ぶ）よ」

「しかし、別（べつ）の要（よう）因（いん）で事（じ）故（こ）が起（お）きたら如何（どう）するのだ！」

　その言（こと）葉（ば）が、オモイカネが子（こ）供（ども）達（たち）を心（こころ）から心（しん）配（ぱい）しているから出（で）て来（く）るモノだと、スセリは理（り）解（かい）している。

　だからこそスセリはオモイカネに言（い）う。

「あの子（こ）達（たち）を心（しん）配（ぱい）する気（き）持（も）ちは理（り）解（かい）しています。ですがオモイカネ、それを恵（え）理（り）花（か）や薫（かおる）の前（まえ）で言（い）うべきではないわ」

　その言（こと）葉（ば）を聞（き）いて、オモイカネは冷（れい）静（せい）に考（かんが）える。

　確（たし）かに子（こ）供（ども）の近（ちか）くで、その友（とも）達（だち）の危（き）険（けん）に付（つ）いて語（かた）る事（こと）は良（よ）い事（こと）とは言（い）えない。

「……そうだな、すまん」

　オモイカネがそう謝（あやま）ると、スセリは紫（し）織（おり）に聞（き）く。

「ねぇ紫（し）織（おり）、今（いま）、何（なん）時（じ）かしら？」

　そうスセリに聞（き）かれ、紫（し）織（おり）は腕（うで）時（ど）計（けい）を見（み）て答（こた）える。

「そうさね、10時（じ）20分（ぷん）過（す）ぎぐらいかね」