第23話 到達限界地域開発事業団主催・未踏地域開拓特派員養成高等学校特待生選抜試験……➁

 HOPEX(北海石油資源開発株式会社)の顧問弁護士は、突然現れた真唯駆マイク・アインホルンを見てほんの僅かにだが……さすが大企業の顧問弁護士、一瞬後にはその表情ぶ厚い面の皮を冷静に見せた。


「……貴方の様な部外者に本件へ口を挟む権利など無いはずですが? それとも……今回のに関して『“到達限界地域開発事業団”が介入の意思を持っている』と仰りたいのですかな?」


 とは言え、かろうじて取り繕う事が出来たのは表情だけの様で、声の端にはまだ僅かに忌々いまいましさが滲んでいた。どうやら表情の作り直しには成功したが……感情の方はまだ立て直せていないらしい。


「それはそちら次第だな。HOPEXさんはご存知ないかも知れんが……小規模ながら高い技術力を誇る“地域解体業組合スクラップリージョン”は“事業団我々”とを結んでいる。けして事を荒立てる事が本意では無いが……“組合”側が救援を求めるなら、我々には義務がある」


「馬鹿な!」


「何がだね? ……これはお節介だが、君は発言には注意を払った方がいいな」


 ― ギリッ ―


 真唯駆マイク・アインホルンの容赦無いに……弁護士の口元から盛大な歯軋りが漏れた。


(凄えなこの人……引退して随分経つのに、現役の頃にライバル達を煽り倒してた口振りそのまんまじゃねぇか!)


「……こちらの通告は以上です。ああ勿論……理事の仰った事はクライアントにさせていただきます……“北石HOPEX”に喧嘩を売った事……ゆめゆめお忘れにならぬ事ですな」

 

 顧問弁護士はそれだけを言い残すと、秘書のゴリラを連れて、足早に部屋から出ていった。


「フンッ……なんぼほんずねえなどうしようもねぇ奴だ!!」


 集会所に残った俺やその他の面々は……良く分からない言葉でドヤ顔をさらすオッサンに呆気に取られていたが……


「……お茶でも入れましょうか」

 

 木村さんが提案した、ある意味で常識的なアイデアで……やっと正気を取り戻すことに成功した。


――――――――――


 親父に続いて爺ちゃんまでが行方不明になっちまったあの事故の後……突然チャンピオンが現れた時の事を思い出していた俺は、受付の順番が来た事で一端記憶に蓋をし、手続きを済ませる為に前に進み出た。


「通知した受験番号をご提示下さい」


「……これっす」

 

 俺は受験の受付をしている事務員に、受験番号をダウンロードした端末を見せた。同時に表示されたコードを、小さな機器で読み取った女性は、俺の顔と自分のタブレットに表示された画像を何度も見比べ、


「……こちらをお持ち下さい。ようこそ未踏地域開拓特派員養成高等学校へ」


 首から提げるタイプの受験者IDカードを歓迎の定型文と共に差し出した。


「……あざっす」


 俺はIDを受取り、その裏に表示された指定受験会場を、門の横に立っているで探す。


「えっと……大型重機実技演習会場Aか……」


 俺はIDに表示された場所を探す為に顔を上げた。案内看板の周りは、構内に入った時の印象よりずっと人影が増えていたが……


「何よ……特待生試験のチャレンジャーって思ったより少ないのね」

 

 ……俺は隣でデカい独り言を喚いた女子を見た。間の悪い事に、そいつも俺が自分を見た事に気づいた様で……


「何よ……何か用?」


 自分の声がデカい事を自覚してないのか……何故俺が怪訝な顔で自分を見たのかが分かっていないらしい。まあ……確かに俺も不躾だったかもしれん。


「気にすんな……俺も同じ事を思ってただけだ」

 

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