第13話 絶対絶命?!

「彼等のマッチングが、これ程“戦略性に富んだ名勝負”になるとは……スカンジウムさんチーフが彼等を対戦させるのに随分と力を尽くしてた訳がやっと理解できました」


 現場での一切を統括する移動トレーラー……その中で管制塔コントロールタワーのモニターを見ながら唸っているのは、私の直属であるアシスタントリーダーだ。


 彼女は今回のレースで100近いドローンの管理と運用を司るスタッフ達の纏め役であり、各ルートでのカメラワークを指示する司令塔でもある。


「ええ……まあ、視聴回数と広告収入の計算に忙しい幹部連中には散々言われましたがね……“電撃戦車ブリッツパンツァー”のスペックでは“真紅の猛獣ロッターレオパルト”の昇格戦には不適格だと」


「それは……確かに『革新的な燃料添加システム』と『最先端技術アクティブサス四脚駆動クワドロレグ』を搭載したマシンの相手としては……電撃戦車ブリッツパンツァーの装備はどうしても見劣りしますし……」


(ふむ……これ程最前線でレースを見ている彼等から見ても判断するのが当たり前ですか……)


 確かに……表面的なデータだけでは、見えるのは無理もない。実はレギュレーションで“使用可能な総エネルギー量”を縛っているので、彼等の機体の詳細は我々にも開示されてはいないのだが……


 それでも、配信と賭け率オッズの為に最低限必要なスペックについては把握している。


 これを見れば“電撃戦車ブリッツパンツァー”が有利なのは僅かに“ジェネレーターの瞬間最大出力”くらいの物だ。機体の重量は二脚駆動デュアルレッグの方が軽いが、それも四脚駆動クアドロレグに対して絶対の優利では無い事は歴史が証明している。


「そうですね。しかし、予想外の好勝負とは言えど、レースのとしては少々盛り上がりに欠けるのも事実……」


「こういう展開は玄人好みですしね。でも……このニ機がこれだけ接近すれば、ここから“露天掘り掘削機械バケットホイール”に到達する迄の間に、きっとエキサイティングなバトルを見せてくれますよ!!」


 珍しく拳を握りしめて力説する部下……


(確かに……最速で掘削機の反対側に渡り切る為の“ベルトコンベアルート”には、一台分のスペースしか無い。当然、後から入っても追い抜き自体が不可能……そもそも“電撃戦車ブリッツパンツァー”は大型掘削機械の上に登る“道なき道パルクールルート”に行かねば、必要数の仮想円錐指標バーチャルコーンが得られません。ですが、そちらのルートを行って、更にもう一つのコーンを彼等より先に奪取する事は……)


 それはいくらなんでも無理……か。いかに“電撃戦車ブリッツパンツァー”が使


「ふむ。ここまで随分と楽しませて頂きましたが……これまで……でしょうかね?」


 そう……彼等は拙い経験なりに素晴らしく善戦したと言っていい。だがここに至っては勝ち目が無いのは自明なのだ……だが……


(私が知ってる“彼の父親”なら……赤い獣を)


 ――――――――――


『……俺が提案する露天掘り掘削機械バケットホイールルートは以上だ。きっと無茶してるだろうからな……返答は必要ない。オーバー!』


 自分が言いたい事だけを言い放って……錠太郎との通話はあっさり切れた。


「長い付き合いだからな……きっと俺の状態には気付いてんだろうけどよ」


 前に無茶した時には一週間も学校を休む羽目になったからな……凛と錠太郎が勉強を助けてくれなきゃマジでやばかった。結局、その時に何をやったか白状させられてしまい、ついでに凛には“二度と無茶しない”と約束までさせられた。


「心配するな。今回はそれほど長くは“同調シンクロ”したりしねえから」

  

 改めてそう決意した瞬間……


 最後の障害物を越えた俺達の目前に、巨大な露天掘り掘削機械バケットホイール掘削資材排出孔ベルトコンベアの入口がパックリと口を開けて現れたのだった。

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