第53話 現場の事情は…偉い人には分からん物なんですよね? 11

 ギドルガモンは既に重力魔法のほとんどを吸収し終わり、その金色の体躯を震わせてこちらに向き直っている。先程までとは違い、明らかにこちらに敵意の籠もった三対の視線を向け、唸りをあげて威嚇している。


 格下と思っていたリンドルムテンペストワイバーンの攻撃で、思わぬ手傷を負わされて随分と様だ。


 さほど余裕も無いので、目の前で認識阻害魔法を展開しつつ詠唱を始めていたグラブフットに、


「自分のが甘かったからといってをこちらに持ってこないで欲しいですね。まあ、状況的に仕方有りません。今回は特別ににしておきます。」


 そう言ってグラブフットの背中に手を添える。


「・・・・なんだ? 詠唱の邪魔をされる・・・うおぉ!!」


 後ろから容赦なく突き飛ばす。流石にこんな行動は考えていなかったのか、成す術もなく目の前に開いたエンター2テンプオーダーに吸い込まれて消えていく。


 ミネルヴァの魔法構造式プログラム構築が終わったので、此処に居られても邪魔になるだけだ。


〈リンドルム! 魔力回路を結合リンクしたまま待機状態に移行、エンター1内で待機。〉

 

〈命令受諾!実行シマス。〉


{ミネルヴァ! リンドルムの攻撃に使ったから補充してやれ。ああ、アローナとグラブフットは程度でな。}


了解!オーバー! 魔力エネルギー粒子回路をします・・・並列化パラレル同期化シンクロ強制連結シークエンス完了コンプリート! 魔力構造式プログラム展開オープン! 指定形状確定セット・コンプリート! 指定元素システム変換準備オール完了!グリーン!


 ギドルガモンは、目の前にいたリンドルムが急に消えたのを見て訝しげに目を細めた。少しだけ戸惑った様子を見せていたが、それもほんの暫くだけで、その場に残っている僕とミネルヴァを見つけて、改めてこちらに標的を定めたようだ。


 二つの顎で、光の粒子と大量の空気を目一杯吸い込んでいる。翼からは陽炎が揺らめいて、二つのブレスを吐こうとしてるのが分かる。


「本気になるのが少し遅かった様ですね。ムーヴ!」


 最後にミネルヴァと共に安全距離まで退避する。


「喰らいなさい! 元素結集質量兵器マス・エクスドライヴ


――――――――――


 全ての準備が終わり・・・詠唱した瞬間、ギドルガモンを薄く照らしていた月明かりがにわかに陰る。


 最後の首が頭上の異変を感じとり、魔法を無効化するべくそのあぎとを開いて上を見上げた時・・・猛烈な勢いで迫るが、その視界を埋め尽くしていった。


『ドドドズズズズズズンンンン!!!』


 ギドルガモンは、直径と高さが200メートルはある“黒い円柱”に成す術なく押しつぶされた。

 

―――――――――


 ギルムガンのを収容していたエンター2の中では、壁面の一方を火口の様子が確認出来る様に透過壁にしておいた。内部では極一部のタフな兵士とアローナ、グラブフットが、外の様子を目撃して・・・揃って絶句していた。


「・・・この空間といい、といい・・・あいつ本当に何者なんだ?」 


 アローナが呆然と呟く。グラブフットは自らの目撃したを見逃すまいと、無言で外の様子を見続けていた。


――――――――――


 とリンドルム、600人以上のギルムガン兵、ついでにグラブフットとアローナからは程度、サブリナとローランドからはそれなりに・・・


 この場で手に入る“”の魔力エネルギー粒子をつぎ込む。


 “エクスチェンジ”で、今まで魔法陣サブルーチンを打ち込んできた所から、鉄・炭素・モリブデン等の金属と神銅鉱オリハルコン魔白金ミスリル金剛鋼アダマンタイト等の魔法金属を地質が許す限り集めて転移した。


 仕上げは、ミネルヴァの行使する土系魔法を応用して結合し、円柱型に成形したものを奴の上に出現させた結果・・・


 ざっと見積もって5000万トンはあるは・・・ギドルガモンの50mを越す体躯を、さらに巨大な質量で押しつぶし、さらに火口の地面にようやく止まった。


「ふう・・・」


 思わずため息をつく。 


 事前の検証で魔力エネルギー粒子由来の攻撃は効きづらいのではないかと考えて、転移した物質での“巨大質量”による攻撃を考えていたのだが・・・


「なんとか効いたようで助かった。」


{ミネルヴァ、ギドルガモンの様子を“広範囲電磁波探索魔法パワーレーダー”で確認出来るか?}


{現在失った魔力エネルギー粒子を集積中です。必要量が充填出来次第お知らせします。}


{分かった。じゃあギルムガンの方を先に済ますから“エンター2”を開けてくれ・・・}


{了解致しました。エンター2のゲートを開きます。}


 目前の空間に黒いゲートが開く。中は一部意識を取り戻したギルムガン兵とアローナ、グラブフットが呆然としていた。


「・・・まあ、見たとおりギドルガモンは活動停止まで追い込みました。まだをやりますか?」


 皆が無言の中、グラブフットが代表して声をだす。思っていたよりも元気そうだ、ギドルガモンから受けたダメージはある程度、魔法で回復したらしい。


「・・・冗談はよしてくれ。おまえさんとやり合う位ならギドルガモンの方がまだましだよ。」


「・・・そうですか・・・、どうも釈然としませんが・・・どうやら、大人しくこれからの事を話す気になった様ですね。」


 そこで突然アローナが声を上げる。


「こんな事を頼める義理じゃないのは百も承知だけど、あえて頼むわ。ほんの少しでいいから地母神の涙ガイアラドライトを分けてくれないかしら。我々にはどうしてもが必要なのよ!」


「それはこれからするお話の返答次第です。」


「・・・何を企んでいる?」


 いち早く不穏な空気を感じ取ったグラブフットが問いただしてきたが・・・


「なに・・・たわいも無い事です。」


「・・・おまえさん、普段は人畜無害そうにみえるのに・・・今はとんでもなく顔をしてるぞ。」


「失敬な・・・簡単な事です。グラブフットさんとアローナさんには」 


「「・・・・は? 」」


 二人が揃って間の抜けた声を上げる。


「まあ、順番に説明しますから・・・ミネルヴァ、ローランドさんとサブリナさんにもここに来てもらおう。」


{了解致しました。}


 目の前にゲートが開く。普段の黒い物とは異なり、開いた先にはこれまた呆然としたローランドとサブリナがいた。


「申し訳ありませんがこちらにおいで下さい。聞いて頂きたいお話が有ります。」


 二人は無言のまま頷いてこちらにやってくる。


 この話を始める前に、とりあえず今は、お互いの立場や今日までの確執をあえて蒸し返さない様に頼んだ。でないと話が全く続かない恐れがある。幸い二人は頷いただけで何も言わない。これはギドルガモンを倒したのが僕だからだろう。


 関係者全員が集まった所で、手短に僕の考えていた事を話す。話を聞き終わった所で……グラブフットが呻いた。


「おまえさん・・・なんて事を考えるんだ・・・」



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