第五章

第29話 出張ってヤツは…だいたい突然決まる物ですよね? 1

 とりあえず倉庫の後片付けを済ましてガンディロスさんの店に向かう事にする。


 道中でミネルヴァと新しい能力について話しあう。モノクルの表示は当然ミネルヴァも把握している。


 スキル“トランスファー”の主能力は空間に対しての干渉だ。


 派生した各能力も〔魔 力エネルギー粒子〕の使用条件やそれぞれの特性に一定の制限はあるが本質的には変わらない。


 そして、今回解放された能力の一つもそれに準じた物だったのだが...


「これは、確実に【神 様管理者】の影響だな」


 モノクルに表示された一つ目の新たな能力は“テンプオーダー”。


 ミネルヴァの説明によると任意の形状とサイズを設定し別空間を形成する能力だった。しかも形成した空間の状態をかなり自由に設定出来るらしい。


{ミネルヴァ、この状態設定はどんな事が出来るんだ?}


{基本的に何も設定しなければ能力を行使した空間を基準に気温・湿度・光量・酸素を始めとした空気などが形成されます。収容物の状態変化を制御する事で概念的な“時間の流れ”を変更する事も可能です}


{初めて【神 様管理者】に会ったあの空間と同じ物だと思っていいのかい?}


{発生のプロセスに若干の違いはありますが同様の物と考えて頂いて問題ありません}


{分かったよ。使用上の制約はあるか?}


{形成している間は常に魔 力エネルギー粒子を消費し続けます。通常の外部環境を踏襲した環境なら魔力集積で事足りますが設定によっては主殿の魔力を使用しないと維持出来ない場合があるかもしれません。また収納物に関しては制限はありませんが生物を収納出来るのは最大で外部空間の12時間までです}


{なる程...もう一つの“ディメンションキャスト”はどんな能力なんだい?}


{次元連結の発生を予測する能力です。能力の基本は“常時発動パッシブ”です。“設定した規模以上”の次元連結が“80%以上の発生確率”を示した場合マップに発生予測時間と共に表示されます}


 この能力は正直もっと後に解放されるかと思っていた。とりあえずは地球に帰還する足掛かりが出来たのは嬉しい。


{とりあえず僕が帰還出来る規模で地球上に現れる物に絞って表示を頼む}


{承知致しました}


 現象その物は無数に発生しているとはいえ、実際のところは条件に合う次元連結はそうそう起こらない。あったとしても連結先が地球とは限らない。


 更に発生現場は地球上全土だ。転移が使えても視認距離、もしくは行った事のある場所にしか行けないのでは、その場に事がまず至難なのだ。


「まだまだ帰還するのは難しいな。今の所は次元連結の発生頻度をサンプリングするぐらいだな」 


 意識せずに声が漏れる。


{実際はその場に居合わせ、更に連結先を調査せねばなりません。連結時間も連結規模に依存しない為、極端に連結時間が短い場合は調査そのものが出来ない可能性もあります}


{...先は長いな。地球の事は気になるが焦っても仕方ない。出来る事を怠らずチャンスを待とう}


{了解致しました}


 そうこうしている間にガンディロスさんの工房に到着する。


 さあスキルの事は後にして先に相談を片付けよう。


――――――――――


「それでは、王都の本部商店でも手掛かりはなしですか...」


 王城ではパウルセン公爵とビットナー伯爵が一連の事件の事後処理を話しあっていた。


「村で捕縛したアレディングも経緯は素直に話しておるが肝心の相手の素性はほぼ把握しとらん」


「奴は私の素性を一目で言い当てました。直接の面識があるとは思えませんし、戦場で会ったのならあれ程の手練れを忘れることは有り得ません。仮に社交や外交の場で会ったのなら奴は帝国側の貴族かその従者の可能性があります。今の所は断定出来ませんが...」


「王国側の高位貴族関係者の線は?」


「奴の口ぶりには僅かですが帝国がありました。今の所は可能性は薄いかと」


「ふーむ...」

  

 パウルセン公爵が考え込む。此処まで綺麗に痕跡を残さない相手は彼の経歴の中でも久しく記憶にない。


「仕方ない。危険だが、アレディングが奴と連絡をとる為に利用していた帝国の宿を調べさせる。手練の密偵を選ばねばならんな」


「...それならば正式な契約を交わしてコーサカ殿に依頼するのは如何でしょうか?今回の事件を察知したのも彼ですし、もし今回の件が両国の争乱の火種となる様な物なら早い内に消し止める事は彼との契約にも抵触せんでしょう。大事にせず治める事も彼の力量であれば可能でしょう」


「しかし彼の御仁の行動は予測が難しいと言っていたのは伯爵ではないか?」


「今回の騒動で、表に出ず事を治めた立ち回りを鑑みるに、けしてバランス感覚が欠如している訳ではないかと...シドーニエも付けて置けば彼の力量であれば何かがあっても回避は出来るでしょう」


「ふむ、どの道彼の御仁とは契約をせねばならん。まず会って話してみる事が簡要か...ビットナー卿、至急御仁に連絡を取ってくれ」


「了解致しました」

    

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