第2話

―――あれから2日がすぎていた。土曜日。


 連絡先交換はできたものの、結局連絡は来なかった。


 俺は朝食を食べながらスマホをいじる。


 スマホにはY(旧tmitter)で好きなアニメについて読んでいる。【スピーファミリー】のシーズン2はもう配信されているか?評判も結構いいね。


 突然、RIMEの通知が画面に現れる。送信者のとこに(えりか)が書いている。


 一瞬、目を疑う。あの日からRIMEの通知を見るたびにどきっとした。その都度、彼女じゃないことにがっかりしたけどね。


『すばるさん?すばるさんだよね?』

『すばるです』

『ごめんなさい!昨日は忙しかったので連絡できなかった!』


 そのメッセージの後は…アニメスタンプが送られた。【ツーピース】という世界的に有名なシリーズのスタンプ。


 謝る必要ないのに謝るのはえりかさんがいい人の証拠。


『いいえいいえ、気にしないでください、こっちも仕事があったし』

『あの?今日は暇ですか?』

『ま、そうですね。用事はとくにないですね。』

『うまく言えないから正直で…あの公園で会わない?』

『会うって?』

『会いたいです』


 えりかさんは多分、今、自分がとんでもないせりふを言ったことに気づいてない。


 天使みたいのは顔だけじゃない、正確も天使みたいに天真爛漫らしい。


『何時ですか?』

『えーと、14時ぐらいはいいかな?』

『わかった』


 まだ【ツーピース】のスタンプが送られてきた。


 まさか、彼女はアニメが好きなのでは?


 でも美人だから学生のころからモテモテに違いない、そういうオタクっぽいな趣味は多分ない。


 そう考えながら俺は嬉しい気分で朝食を食べ終わった。














 時計が13時40分を指している。あの公園は家からそんなに遠くないから早めについた。


 周りを見回す、ここは意外と静かだね。人が集まれるとこが苦手ので、この人の気配あまりないところは心が落ち着く。


 俺は待つために近くのベンチに座る。


 約束の時間までは後20分、まだ見ていない【ぼっち・ざ・ジャズ】でも見ようかな…

 と思った時に、後ろから小さい声が聞こえた。


「こ、こんにちは」


 振り返るとそこにいたのは、アニメ【スピーファミリー】のパーカーを着ていたえりかさんだった。


「こ、こんにちは」


 俺も挨拶をする。彼女は俺が座っていたベンチに腰をかけた。


 パーカーとオーバーサイズパンツの出で立ちはカジュアルな雰囲気は彼女と相性が抜群。


 今日もかわいい!人形みたいな顔立ちはなんでも似合いそう。


 隣に座っていることで、柑橘かんきつな香りが鼻腔びこうにつく。


「あ、あの?なんか私変ですか?」

「いやいや!なんでもないです」


 無意識にじっと見ていたから彼女はちょっと頬を紅潮しながらそうきいてきた。


 目が合うなりに視線を外すのは青春ドラマにしか見えない。そんなばかなことで嬉しい気持ちになる俺はキモいかな。


(っていうか…これはデートなの?)


 そ会話の話題をなんとかしないと、このままでなんも話さない。パーカーのことをきく?


「えりかさんは、【スピーファミリー】すきですか?」

「えっ?あ!す、すきですよ」

「ま、まじ?」

「う、うん。変なの?」

「いや、普通と思う」


 やばい!会話スキルがない。もし異世界転生できたらな、俺は会話できるスキルが欲しい。


「楽しいからよ」

「【スピーファミリー】?」

「そう!私は子供のころからずっとそういうアニメが大好き!冒険にあこがれる」

「え?俺も同じことで…」

「え?そ、そうなの?」


 なぜか、二人は同時に照れる。無言の間がやってくる、しかしそれは悪い無言じゃない。


 俺は彼女ともっと話したい気持ちにかられて、ぎこちないな笑みを作りながら話題を探す。


「えりかさんはさ」

「う、うん」

「【ツーピース】も好きだよね?」

「うん!未知な世界を冒険するは楽しい!なんか勇気がもらえるとういうか…」

「まったく同感!でもえりかさんみたいな人がそいうアニメを見ているとは…」

「私みたいな人?」


 彼女はいぶかしげな動作で俺を見つめる。なんか恥ずかしさで不意に早口になる。


「あ、ほら。えりかさんは結構かわいいだから、そいうなんていうか、モテモテでしょ?だからその…」

「えっ?!」


 不意をついたみたいに、えりかさんの顔がトマトより赤くなった。彼女は絞り出すような声で言う。


「わ、わ、わたし全然そういうじゃないよ」

「えっ?!そうですか?」

「う、うん。そいうの、人見知りだからあまり友達がいないって」

「俺もそうけど…」

「うそ?すばるさんは面白そうの人だからモテモテじゃないかな…」

「いいえいいえ、そんなことはないよ!」


 無言の間はハルを思い知らせる。もう30歳だよ、異性と話すぐらいはできるじゃないか?何この変な緊張感!


 彼女はベンチに身を預けと足をばたばたしながら反対方向を見る。頬が赤い。この時は【スピーファミリー】のエーニャみたいに、他人の思考を読める力が欲しかった。


「あの…えりかさん?」

「う、うん?」

「今日は呼び出された理由とかそいうのはあるですか?」

「実は…頼みたいことがあります。」


 えりかさんの表情は真剣なものに変わり、ふとももの上に置いた細い指が拳をにぎる。


「た、頼みたいことですか?」

「うん!私の練習相手になってください!」

「れ、練習相手?」 


 ついにエロいことが脳裏をよぎる。しっかりしろ!そんなことであるはずがない!


「実はね、私には夢があります…」


 真剣なトーンで語りだす彼女に俺は相づちを打つ。


「私は子供のころから、かっこいい映画とか、ドラマとか、アニメとか、ずっと大好きだった…」

「うん」

「私は冒険にあこがれて、大学のころは実家を出て、ココアと一緒に一人暮らしな生活を始めた」

「大学から一人暮らしか?」

「うん、その時に私はすごい迷いました、どうすればいいって。」

「どうすればいい?」

「夢を追いかけるか、普通になるか」


 その最後のせりふでえりかさんは悔しげな声になる。辛い過去でも思い出しているかのように。

「ゆ、夢ですか?」

「高校のころはね、三者面談で、私の夢、女優になりたいと言った。。そのときには…『ばか言うな、君みたいな人は女優になんてなれない』と親に言われたけどね…」

「それは…」

「人見知りだから…無理だと言われた。」


 彼女の目に涙が浮かぶ。諦めたくないとでも言いたいかのようにさらについよく拳をにぎる。


「でも…私は、いやだ。夢を諦めたくなかった!だから…一人暮らしすればなんとか改善するじゃないかな…」


 俺は言葉を失う。


「去年、大学が終わった。けど、結局私はなんも変わらなかった…でも最後に…もう一度だけ…」

「わかった。」

「えっ?」

「練習相手になります。えりかさんを女優にするまで。」


 俺はそうを告げた途端、彼女はまるで我慢できなかったように、ポタポタと涙がこぼれる。そして鼻声で問う。


「な、なぜ?」

「奇麗と思うだから?」

「き、キレイ?!」


 トマトじゃすまない、頬が赤いより赤い色。瞳も赤い。柔らかい頬をとって、涙がぽたぽたとしずく。


「そうだよ、奇麗だから。俺はたまに映画見るのが好きので、えりかさんを女優にするだけです。」

「…そんな…でも…」

「何を?大丈夫よ、なんかあっても、俺はずっと君のそばでついていくからさ」


 なにを言っている俺?ここがウェブ小説のラブコメだったら、俺は絶対にかっこいい主人公に違わない。


 彼女が嗚咽しながら、まるで残っている力を使ったかのように、声をしぼりだす。


「…ありがと…」


 そのえりかさんは、とても眩しかった。泣きながら彼女なりの美しさは完璧。生まれてはじめて、この人は絶対成功させると思った。


 俺、暁月すばるは佐藤えりかを守る。なにがあっても、彼女を成功させる。




 



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