第7話 アリと訪問
家に帰ってしばらくした後、俺は地図を見ながら佐伯の家に向かうことにした。
まぁ、おそらくどこかで美波が見張っているのだろうが……気にしないことにしておく。
夕方、ひぐらしが悲しげに鳴いているのが聞こえてくる。
独りで何もない田んぼのあぜ道を歩いていると、なんだか酷く心細くなった。
……このままでいいんだろうか、と。
「餌落とし」を実行しなければ大変なことになる……それは俺もわかっている。しかし、実行すれば俺はとても苦しい思いをする。俺が一番嫌な目に遭うことだけは確実だ。
「……そんなの、不公平だ」
こんな小さな村で俺だけが嫌な目に遭う……憤りを覚えるが、かといって、誰かにその怒りをぶつけることもできない。
そして、何より「餌落とし」を阻止するような勇気が俺にはないのである。
俺はそれ以上は何も考えずに、ただ、佐伯の家へと向かった。
美波が示した地図のとおりに、佐伯の家は村の外れにあった。俺はインターフォンのボタンを押す。
「はい?」
佐伯の声が聞こえてきた。
「……有田だけど」
「は? 有田?」
面倒くさそうな声の佐伯。と、しばらくの沈黙のあとで、玄関の扉が開いた。
「何?」
とてつもなく嫌そうな顔で、佐伯が出てきた。
「……悪いね。こんな時間に」
「いや、別に。何? なんか用事?」
「……今日、千影と話していたことなんだけど」
俺がそう言うと佐伯は訝しげな顔をした後で、思い出したような顔をする。
「あぁ。なんか、カゲロウ様がなんとか、って話?」
「……あぁ。そうだ。千影は、どんな内容の話をしていた?」
俺がそう聞くと、佐伯は少し考え込む。
「いや、なんか、今日千影ちゃんと行った神社の神様がカゲロウ様? とかいう神様で……この村の守り神なんだ、みたいな話? よく覚えてないけど」
思わず心の中で安堵してしまった。
……いや、というか、そもそも千影はカゲロウ様の本当の話をしらないはずなのだ。美波も心配のしすぎである。
「……そうか。なら、いいんだ。悪かったな」
「は? え? その確認? ……え? もしかして……なんか変な話でもあるわけ?」
そして、そんなことを聞いてしまったがために、当然の反応として、佐伯はそんなことを聞いてきたのだった。
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