第2話 校舎裏で告白なんてよくある話で
最近、真姫が休日よく家に来る。
来るだけじゃなく、気づけば私の母と一緒に朝ご飯を作ってくれている。
母は母で真姫のことが大好きで、『真姫ちゃんって本当に良い娘よねぇ。うちの子になってくれないかしら』なんて昔からずーっと言っているくらいだ。
その『真姫ちゃん』に私はここ最近、休日の朝になると笑顔で叩き起こされている。
のろのろと顔や歯を磨き、リビングのドアを開ければ、ふたりの作った朝食が食卓に並べられている。
そしてそれらを食べることで私の休日が始まるのだ。
放課後、そんな話を加賀美君にしていると「……それ、とてつもなく重たくないか?俺ならホラーなんだが」と問われた。
言われた意味がよく分からなくて、「最初は驚いたけど、真姫とは幼馴染だし、もう家族みたいなもんなんだよ。私じゃなくて両親が何故か真姫の動向を把握してたりするし。今では慣れちゃってそこまでではないかな」と返した。
「それ外堀埋められてないか」
「えー、なにそれどういうこと」
そんな話をしていると、教室の外から朝比奈君がひょっこりと顔を出し、こちらに目配せをしてきた。
ばちんばちんと瞬きをしているが、おそらくウインクをしているつもりだろう。
出来ていないのが面白くて、暫くは反応せずに観察してみる。
「ウインク下手くそだな」
「そうだね。ちょっと面白いね」
「何か企んでそうだな」
「確かに」
一生懸命、おいでおいで、とこちらに手招きをしており、どうやら加賀美君ではなく私に来てほしいらしい。
疑問に思うも、呼ばれたんなら行くしかない。立ち上がると同時にはたと思いつき加賀美君に振り返る。
真姫はいま、職員室に日直の日誌を提出しに行っている。
因みに、加賀美君も日直だ。
本当はふたりが日直で一緒になるのも、好感度や親密度を上げるゲーム内のちいさなイベントなんだけど、あまり機能していない。
「加賀美君、もし私より真姫が先に戻ってきたら、私はちょっと野暮用で席を外しているって伝えてもらえないかな?もし戻りが遅かったらふたりで先に帰ってもいいし」
おっけーい、と軽い返事を返す加賀美君にひらひらと手を振り、朝比奈君の元へ向かう。
「 はいはい、何?また何か企んでる?」
「頼む!ちょっとついてきてください!会わせたい人がいるんだ」
「真姫が戻って来ちゃうからちょっとだけだよ」
釘を差すと、「大丈夫。君らふたりに迷惑をかけるのは避けたいって人だから」と返答が返って来た。
少し疑問に思うも、そういうことなら、と歩き出した。
そうして連れてこられたのは、校舎裏だった。
はた目から見たら、まるで告白されるかのようなシチュエーションだ。
目の前には、どこかで見た覚えのある女の子が佇んでいる。
眼鏡をかけておさげ髪、地味だけど、出るところはでて締まるところは締まっているというなかなか良い身体つきで……って、これじゃセクハラか。
「あの、こんな所にお呼びだてしてしまってすみません!私、
ぺこりと丁寧にお辞儀をしたその子は、星宿ここあといった。
その名前にも聞き覚えがある。
ここあ、ここあ、……あ。
「あー!!もしかして、あの星宿ここあ!?」
「えっ、えと、あの、とは…?」
「占いする人!」
「えっと、確かにスピリチュアル研究部ではありますが……どうしてそれをご存じで?」
いかんいかん、戸惑わせてしまった。
でも私は確かに彼女を知っていた。
星宿ここあ、このゲーム『桜の誓い ―君と紡ぐ私達の物語―』に出てくるキャラで、『今日の運勢』担当の女の子だ。
まぁ、ゲーム上での実際の操作はサイドメニューの『今日の運勢』をタップすると、その日のラッキーアイテムや星座の順位なんてのを教えてくれる、というキャラだったんだけれど……まさかこんな出会い方をするとは。
ゲームの強制力、恐るべし。
とはいえ彼女も私と同じような立場で『真姫をサポートする』部類に入る。
連携を取るためにも、ここは何としても仲良くなっておきたい。
「あ、で、なんでしたっけ」
話の腰を折った自覚はあったので、改めて彼女に問いかける。
すると、星宿さんは気を取り直して咳払いをし、話し出した。
そのひとつひとつの動作が小動物っぽくて可愛い。
「こほん、あの、本当に今日はご足労頂いて申し訳ありません。実は私…、一ノ瀬さんと長瀬さんのファン…でして」
「なんですと?」
聞き返すと、横で聞いていた朝比奈君が楽しそうにくすくすと笑っている。
要はこうだ。
彼女――星宿ここあさんと朝比奈君は同じクラスで、ふたりはここ最近話すようになったらしい。
そして星宿さんは元々私と真姫のことを知っていて、陰ながら『応援』していたと。
そこを掘り下げようとすると「あ、おそらく長瀬さんは一ノ瀬さんの頑張りに気づいていないということは朝比奈君と私も解釈が一致しているのでここはスルーいただけると助かります」と一息で言われ、その圧に気圧されたので、スルーした。
「本来、こういうことはご本人達にはご迷惑をお掛けしないため陰ながら見守るのが筋だと思いますが、周囲に参加を募ったところ意外と入会希望人数が多く――ええと、単刀直入に言います。……おふたりの動向を見守る、ファンクラブを作らせて頂いてもよいでしょうか……」
「…はい?」
一瞬、周囲の時間が止まったような気がした。
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