第2章
第1話 新入生歓迎球技大会がやってくる
春一番も過ぎて久しいというのに、今日はあいにくの突風日和だ。
この学園に入学してからはや2ヶ月、今日は新入生歓迎球技大会である。
強風で舞い上がった砂粒が頬を打ち、髪もボサボサになるためなんとも歓迎されている気がしないけど。
吹きすさぶ風がまるで人の悲鳴のようにひゅーひゅーと鳴っている。
それでも、歓迎球技大会である。
男子は前日に待機場や救護班のテントをたてたり、運動場の整備に駆り出されたりと大変そうだった。
女子で良かった。やったことといえば、運動場の小石拾いくらいだし。
準備の時にはダルそうだったクラスの子達も、いざ球技大会が始まると張り切りだすのでなんだか微笑ましい。
私はといえば、女子高生として生活するのは以前の人生でも経験済みなので、別段のわくわく感もあまりない。
これはやっぱりゲームのイベントを思い出して真姫のサポートを…と考える方に労力を使っている方が楽しい。
「長瀬さんは何に出るんだっけ」と一緒に時間を潰しているクラスメイトに聞かれたから、「ソフトテニス。でもあんまり得意じゃないかも」と答えた。
「得意じゃないのに選んだの?」
「団体競技も得意じゃないんだよねぇ。どちらかというと、ひとりで自分の身体を使って走ったり跳んだりする個人競技が好きかな」
なるほど、とクラスメイトの子が頷く。
真姫以外の子ともこうしてよく話すけど、今ここに真姫がいないと、何だか落ち着かない。
双子の片割れがいない、みたいな?
幼馴染補正かな。
「あ、一ノ瀬さんでるよ。ドッジボール」
その子が指を差した先には、真姫がいた。
ピピーッと試合開始の笛が鳴る。
試合の開始早々、真姫はイキイキとした様子で相手チームにどんどんボールをぶつけていく。
舞い上がる砂ぼこりも、激しく動いて頬にまとわりつく髪の毛も、気にしている様子はない。凄く楽しそうだ。
見ているこちらとしては怪我をしないかとハラハラしているってのに。
「一ノ瀬さーん、頑張れー!」
あまりの活躍に、周囲も真姫の名を呼ぶ声が目立つ。
こういうところもヒロイン補正なのかもしれない。
いや、そういう性格なんだよな。元々みんなに愛される。
ちょっと妬ける。私の幼馴染だぞ。あそこにいるのは。
そうこうしているうちに、なんと3年生相手にうちのクラスが完勝してしまった。
もちろん、真姫の活躍が大きいけど、ステータスの影響も大きいと思う。
結構スポーツ万能に育ったもんなぁ。
うーん、これだと…。
「長瀬さん、お昼休憩だよ。一ノ瀬さん来たら教室行こ」
「うん」
そう返事しながら、こちらに歩いて来る真姫のステータスウィンドウを出して改めて思案する。
……これだとこの後出てくる『あの人』との相性も良さそうなんだよなぁ。
「これは午後も気が抜けないかもしれない」
「お待たせ。茉莉、どうかした?」
「ううん、何でもないよ。お昼行こっか」
―― 午後も楽しくなりそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます