過去6 ヒューマンテイム応用編

 ミアの体で【ヒューマンテイム】の基礎を学んだ俺は、次はいよいよ応用編に入る事にした。


 ヒューマンテイムで操った人間は、どこまでエグい命令を聞いてくれるのか。

 それを、確かめようと思ったのだ。


 実験台に使ったのは、村長の長男のグエンだ。


 グエンはミアの兄とは思えないほど傲慢で意地悪な男だ。


 村の子供に平気で暴力を振るうクズ野郎――グエンになら、何をしても良心が痛まずに済む。


 俺は村の酒場で酔い潰れていたグエンに忍び寄り、足にそっと手を触れた。


「テイム」


 俺が一言そう唱えるだけで、グエンは俺の下僕となった。


 俺はグエンを森の深くまで連れていき、早速命じた。


「グエン、自分の剣で左手の小指を切り落とせ」


「ああ、お安い御用だぜ!」


 グエンは岩に左手を置いて、なんのためらいもなく自らの指を切り落とした。

 まるで、調理台で肉を切るように豪快に……。


「グエン……痛くないのか?」


「痛いけど、平気だぜ。何せリュートの命令だからな!」


 なるほど……愛は痛みすらも凌駕する、と。


 自傷ぐらいならいくらでもやってくれそうだし、死ねと言ったら簡単に死にそうだ。


 殺そうかな、俺もこいつ嫌いだし。


「いや……殺すのは後だ」


 グエンにはまだ使い道がある。

 殺すのは、思う存分こいつで実験してからだ。

 俺は次の命令をグエンに下す事にした。


「グエン、お前はこれから森で暮らせ。村には決して帰ってくるな」


「ああ、俺も村での暮らしには飽き飽きしてたところだぜ! これから俺はこの森で自由に生きる!」


 グエンはあっさり、世捨て人になる事を決意した。


 さあて、グエンはいつまで森で暮らし続ける事になるだろう?

 ヒューマンテイムの効果が“続く限りは”、ずっと森にいるはずだ。

 グエンが森から村に帰ってくるまでの期間が、ヒューマンテイムの効果継続時間という事になる。


『ヒューマンテイムの効果に、時間的制限はあるのか否か』


 俺はそれが知りたかった。


 俺の推測では効果は永続するはずだが……一応確かめておく必要がある。

 だから俺はグエンをわざわざテイムして実験する事にしたわけだ。


 グエンなら、村から消えても誰も悲しまないだろうし。

 というか、俺は単にこいつを村から消したかっただけなのかもしれない。


 こんな奴が次の村長になるなんて、嫌じゃん?


**


 グエンを村から追放した俺は、次に村長の妻リーアを実験台に抜擢した。

 いつものようにテイムをかけて、森に連れ込む。


「こんな朝っぱらからなんの用だいリュート。アタイはあんたの言う事ならなんだって聞いてやるよ。ほーらなんでも言ってみなよ」


「じゃ、とりあえず全裸になってくれるか」


「はいはーい。お安いごようさね」


 リーアは鼻唄を歌いながら、上下の衣服を脱ぎ捨てた。


「どうだい、アタイの体は。まだまだ捨てたもんじゃないだろう?」


 ごくり……俺は思わずつばを飲み込んだ。

 リーアの体は、本当に捨てたもんじゃなかった。

 

 リーアは村長の妻とはいえ後妻だ。

 年齢はまだ20代。

 体は健康的でエネルギーに満ちあふれている。

 ああ、これなら――


「なあ、リーア一つ頼みがあるんだが」

 俺は命令を下した。

「俺の親父を上手いこと誘惑して、交尾してやってくれないか?」


「それぐらいお安いごようさ。あの髭もじゃ親父は趣味じゃないけど、リュートの頼みなら断れないよ」


「できれば繰り返し交尾して、親父の子供をたくさん産んでやって欲しいんだ。ただし産まれてきた子は全員、村長の子供という事にして欲しい。もしも男子が産まれたら、村長の後継ぎにしてやってくれ。グエンの後釜だよ」


 俺が命令すれば、女は俺以外の男とも寝てくれるのか。

 今回、俺が確かめたかったのはそれだ。


 見ての通り、リーアはあっさり俺の頼みを了承してくれた。

 これでリーアが俺の親父の子を産めば、親父の子が次期村長に――血筋を乗っ取る事ができるわけだ。


 男手一つで俺を育ててくれた親父への、最後の親孝行である。

 これで俺が村からいなくなっても、一族の血筋は絶えずに済む。

 それは、それとして。


「…………」


 リーアの体を見ている内に、俺もだんだん興奮してきてしまった。

 親父にリーアをプレゼントする前に、俺も一度ぐらい……


「リーア、追加で命令だ。俺にも一回お前の体を味見させてくれないか」


「もちろんさ。アタイはあんたの奴隷なんだから。あんたの好きにしていいんだよ」



**


 その晩。

 親父は家の裏手の藪にリーアを連れ込み、これまでため込んでいた性欲を思う存分発散していた。

 この分なら、いずれ子供は野草のように次々産まれてくるだろう。

 俺はもう、必要ない。


 俺はミアやグエンから巻き上げた路銀を持って、そっと家から抜け出した。


「たっしゃでな、親父」



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