Chapter202B. イウルフ史概略


……私たちが暮らしているのは,21世紀の世界(便宜上,“液晶の地球”と呼ばれる)……

   それとは別の歴史を紡いでいる世界が,「紙の地球」……


○ここから先の記述は,まだ使うかどうか

  決めていない設定となります。

 思い出したら本編に反映していきます。

  


※[202A.イウルフ史概略]

 〈紙の地球の鉄道〉

 レールの上を走る事で,人力・馬よりも安全に,かつ効率のよい大量輸送を可能にした鉄道。その動力源は,魔素石から抽出される魔素だ。

 電力が存在していない世界に,「電車」や「電気機関車」というような言葉が存在するのは,その速さと力をに例えているから,とされる。

 樹扶桑国や絹大陸からイウルフ大陸へと伝わった漢字を用いて命名され,央歴1018年まで,この呼び方が引き継がれている。


 また,電車・電気機関車を動かす,重要な魔道具だから“電動機”,パンタグラフから取り入れる魔素を,トロリ線(硬銅線)へと送り込む施設だから“変電所”,この方式は「架空電車線方式」と名付けられた。



 紙の地球の上で鉄道が存在しているのは,イウルフ大陸だけ。

 樹扶桑国の本国や,えいの帝国(絹大陸)の都などに,イウルフ大陸から持ち出された資料を元にして再現を試みている”実験線“があるものの,営業運転には至っていない。


 例外として,ディオルート公爵キーガン家が帝室から領地として与えられ,その代わりに第三種鉄道事業者として鉄道施設一式を保有する,ネクスト・ディオルート本線が,

東壁とうへきトンネルでザロス山脈をくぐり抜け,ユーデア大陸の西を支配するタイン公国の首都,ミスト市に乗り入れている。



———————————————————



 〈双瑞帝国とショイル国が勢力固定されてから現在まで〉                  

 央歴800年代に,英島(連合アルビオン=スティッシュ及びエールン王国)で,鉱山などで使われているトロッコ(鉄道の原型)へ,可燃性の魔素石で水を沸騰させて蒸気にする事で動力を得る,蒸気機関(排水ポンプに使われていた)を組み合わせた輸送方法が考え出されていた。“紙の地球”における鉄道の創始へとつながっていく発明だ。

 

 そして英島各地で商用鉄道の建設がブームになった後,央歴860年代に海峡パ・ド・カレーを越えて,大陸側のガッリー・ウルテリオル王国,ガッリー・オリジナリアメンテ(イタリア半島)諸国でも鉄道の建設が始まった。馬車や荷車,内陸水運の船を置き換える形になった大量輸送機関は,イウルフ大陸とユーデア大陸,そしてペルシャ,天竺,さらに香辛料スパイス海の島々や樹扶桑国をつなぐ,シルクウェイ貿易にも変化をもたらしていく。



 双瑞帝国の鉄道史は,皇帝スティーヴン2世が英島やローマへ遊学させた皇太子から鉄道という乗り物が存在するとの報告を受けた時が始まりとされる。提出された資料から鉄道へ関心を惹かれた後の央歴865年,当時のドクダミ庁大臣,連味つらみ きじに対し,

「英島から鉄道建設に必要な技術・魔道具を輸入できないだろうか」と相談した。

 雉刃ドクダミ相は,副官だったジョンソン・次郎を英島に派遣し,鉄道の知識や技術を習得させ,彼の帰国後は材料,財源,人材が双瑞地峡にあるかを調査していった。


 この活動に加わっていた,第16代ディオルート公爵チャーリー・“かちと”・キーガンを

スティーヴン2世が初代国営鉄道省大臣へ任命し,国鉄省が発足したのは央歴862年。

 そして帝国の首都瑞歯市と,シスリバー県辺境伯家の城に隣接するシスリバー県庁(県庁前駅)を結ぶ路線として南到なんとう本線が計画され,瑞歯ずいは駅(地平の1番線)から,イザヤ峠えの手前にある杁砂イリス駅までが央歴872年に開業する。軌間は1067mmを選択。


 やや遅れてショイル国にも軌間1067mmの鉄道が開業していたが,双瑞帝国のさらなる弱体化を図り,自国領から鉄道用地として必要な分の土地を割譲する事,鉄道整備の工費の一部をショイル国から事業者に支払うと提示した上でませるという手段を使い,イウルフ大陸南部や中部の鉄道整備と運行を双瑞国鉄に押し付けた。


 この時に鉄道整備についての取り決めとして締結された,『長距離交易路に関するウッドロー条約』には,ショイル国の軍事力を背景に「改訂を認めない」など,一見すると双瑞帝国の不利になる条文があり,最初こそ双瑞帝国はかつての『暫定和約』と,勢力固定を決定づけた和約をも上回る屈辱としていた。発効は央歴880年。

 ドクダミ庁の任務へ鉄道用地の哨戒(公営民営問わず対象)が加えられ,事業用車両を保有するようになったのも,ウッドロー条約の内容に含まれている為。


 実は,この時のショイル国は鉄道が,庶民の暮らしや軍事力にそれぞれもたらす長期的な影響を過小に見積もっていた。目論見と逆に双瑞帝国の復調(それも発祥の地へ押し戻されたままの)へつながったウッドロー条約。これが,138年後の評価なのだ。



 かくして,央歴1018年現在のイウルフ大陸では,軍事力はともかく経済の面で覇権を回復した双瑞帝国と,当初の理念を忘れたも同然なショイル国とが,延々と対立し続けるという状況が続いていた。





★ ただし,蒸気機関車は魔素石をそのまま燃焼させるので,エナジー効率が悪い。

○紙の地球(主にイウルフ大陸)における,鉄道の動力の変遷

  ガッリー・オリジナリアメンテの化学者達の研究を参照し英島で考え出された,

 “魔素”を直接回転運動に変換する仕組みが,央歴870年代から鉄道へ応用される。

  電気機関車と電車の誕生だ。

  

  これは地上設備を設けて,難燃性の魔素石を加工して得られた魔素を第三軌条か,

 材質へ硬銅線を使用するトロリ線に接送り込み,集電靴あるいはパンタグラフで

 取り入れる。そこから先は,まずスーパー・ブルームーンという鉱石を混ぜたセラ

 ミック製器へ流し込み,“電”に変換して電動機へ供給する,「直流抵抗制御」が

 実用化された。改良されながら100年以上も主流だったが,さらなる省エナジー化を

 追求した方式への置き換えが進められている。(※1)



☆ 央歴980年代に登場した,VVVFインバータ制御。

  これはVariable voltage variable frequency(可変電圧可変周波数)の略。樹扶桑語

 と双瑞語はそう呼称しているが,英島やショイル語のほうは,英語でVVVFインバータ

 制御を意味する variable-freaquency drive の略である,VFDと呼称している方式。

  直流抵抗制御からの置き換えが,イウルフの鉄道各社で進められている。


  紙の地球に存在する「電動機」は,魔素を交電に変換してから入力し,さらに交電

 と回転磁界の相互作用による回転運動(力学的エネルギー)に変換するものが主流。

  魔素を三相交流に変換すると共に,任意の周波数・電圧を作り出す事で,かご形誘

 導電動機の回転を制御している。

  スーパー・ブルームーンとはまた別の鉱石を原料として,不燃性の魔素石と組み

 合わせて作られた魔道具たる半導体素子、鉄道で使われるのは主にこの二種類。

   ・GTOサイリスタ-VVVFインバータ制御(※2)

  「ゲルイニウムTransport by O`Gorman(オゴーマン式鉄道用交電変換器)」の略。

  “ゲルイニウム”は,交電変換器を意味するショイル語のひとつ。オゴーマンは,開発 

 した魔道具職人の姓。3端子の半導体を使う。


   ・IGBT‐VVVFインバータ制御(※3)

  ショイル語で「国際共通型鉄道用交電変換装置」という意味を持つ,

 “international ゲルイニウム Banner of Transport”の略称。

 GTOサイリスタと比較すると,静粛性や整備性に優れており,央歴1005年以降に

 双瑞帝国で新製または更新された電車・電気機関車に使われる半導体素子は,これ 

 に一本化されている。



 (思い出したら,順次書き加えていきます)

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 

(※1)鉄道車両の直流抵抗制御は,液晶の地球と紙の地球で,仕組みが違います。

(※2)“液晶の地球”にあるGTOサイリスタは,「ゲートターンオフ」の略。

(※3)“液晶の地球”のIGBTは,「絶縁ゲートバイポーラトランジスタ」の略。

・紙の地球の半導体と,液晶の地球の半導体は,構造がかなり違います。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る